「ねぇ、キミ、大丈夫?」
ヤ、痛いです。
第25話 最恐男
只今自分は、この男の背中にピッタリとくっついています。どんな状況だ。自分はこの男の首に、にゅっと手を回して、この男は自分のふともも辺りをぎゅっと握る。(あ、別にいやらしい意味じゃないんで!)。そのままの格好で、トコトコと移動中(っていうか、おんぶ中)
(……別に、大丈夫って、いったのに)
イヤ、ホントは痛いですけど。
でもでも、この男、華原さんに関わる事は、何故だか背筋に冷たいものが、ゾワリ。初め見た時は、もしかして自分の後頭部ねらってボールを蹴ったんですか、とかいいたかったんですけど、結構本気で焦っているような声に、一応わざとじゃないのかな、と心を許したのがそもそもの失敗でした。
目にも見えない速さで、しゅるりと自分の背中と膝裏に手を伸ばして、ぐいっと彼の胸の高さまで持ち上げられてしまった。ああもう、最初は驚きのあまり声が出ませんでしたね、ホント。やっとの思いで「…や、やめてください、」といえたときは、本当に自分、偉いよ! と褒めちゃったり。
そしてその体勢よりは、と抵抗に抵抗を重ね、今の体勢へとなった訳ですが。
それでも十分、周りから突き刺さる、チクチクした視線。中にはあからさまに舌打ちをするお方(この華原さんは、無駄に顔がいいですからね!)
恥ずかしいなんてもんじゃありませんよ。なんで、自分がこんな目に! と心の底から叫んでやりたい気分です!
「……恥ずかしいなら、顔、埋めといて」
(お前の所為だ!)
……と、心の中では思いつつ、お言葉に甘えて、失敬。彼の首筋に、ぴとっと額をくっつけて、周りの声はシャットアウト。
バタバタと揺れる背中の中で、何度も、右に曲がったり、左に曲がったり。視界を閉ざしている自分には、もう何が何だかちんぷんかんぷんってヤツです。敢えていうのであれば、この状況よさっさと終われ!
丁度心の中でそう叫んだ時、華原さんの声が、耳元で、こっそり「着いた」 多分、自分に向けていった言葉ではなくて、自然の洩れた言葉なんだと思う。ちょこっと息切れをして、はぁっと肩を何度も上下させたしゃべり方に、一瞬ドキリ。……ん? 自分ちょっと待て!
(こここコイツには、心を許しちゃならんのです!)
「あの、降ろして、ください!」
「はいはい、ちょっと待ってよ」
ちょっと待ってって、アンタ! と反論しようとした所で、ガラリと扉を開ける音がした。そのまましゅるりと華原さんは部屋の中に入り込んで、「失礼します」と声を掛ける。ぷん、と漂う煙草の匂いと、「……うわっ! て、華原か、ビックリさせんなよ」といった低めの、男の人の声が聞こえる。
「……はい、目、開けて」
すとん、と何かに座らされた後、華原さんに声を掛けられた。何だか彼のいいなりになるのは癪な訳ですが、いつまでもこうしてる訳には浮かず、うっすらと瞳を開けてみる。
ちょっとぶりの光に、一瞬目を細めそうになった。
「……保健室?」
「うん、保健室」
にっこりと笑う、華原さん。……うん、毎度の事ながら似非臭いですね。
ちなみに、その近くではぶつぶついいながら、冷蔵庫らしきものから氷を取り出して袋へと詰める、男の人の姿が見えた。白衣を着てるので、多分保険医さんだろう(…なんか音楽聴いてますけど)
「ほれ、冷やせ」
「あ、ありがとう、ございます?」
よいしょ、と後頭部へと氷をつけた。冷たい感覚に、「う」とちいさく呻いちゃったり。いやはや。
ちょっと状況をきちんとさせてみましょう。
1、華原さんにボールをどっかーん!
2、おんぶで、よっこらせ
3、氷でひやひや
華原さんが、小さく「大丈夫?」と問いかける。その彼の姿を見てみた。足下に微妙についた泥と、ほこりっぽい体。動きやすそうなウェア。けど汚れてる。
間違っても、保健室の中で病人と一緒にいちゃいけない格好なのは分かっているけれど、その格好で、華原さんは自分をここまで連れてきてくれたのだ。
…………ほっといても、よかったはずなのに
(いい人、なのかな)
初対面で、ろくに話もしないで、勝手にヤな人だって決めつけちゃって、
(……自分は、ホントに、未熟者です)
ピシッと、傷口に、氷がしみた。
「お、そうだ。保健室使用者の名前とクラス、メモっとかなきゃなんねぇんだよな。お前、名前は」
「はいさようならー!!」
脱兎の如く駆け抜けて、その後ろには、ククッと一瞬笑った華原さんの声が、聞こえた。
数日後、ご主人様に部活をやっとの事で訊き出して、再び学校へと挑んだ自分に、彼はひょっこりと、もう運命の如く現れた。
「何であの時逃げ出したの?」って言葉と、「サッカー部のマネージャー、今いないんだよね、手伝ってよ」といったお言葉を頂き、あれ? 自分、脅されます? とか思いつつ、いそいそと業務に励む、自分がいたりする。

2007.05.13
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