「あ、今日ですね」


第29話  ぱんぱかぱーん! とね。




取りあえず、今日も今日とてご主人様のお家のお掃除をもそもそもそ。特に成果も上がらない調査結果を決まった周期で書き上げて、ご主人様のおとうさまへと送られるシステムなのです。その調査結果を書き上げるべく、くん秘密手帳をゴソゴソと懐の中から引っ張り出し。

名前、橘剣之助。性別、男。部活、バスケット部。年齢、15歳。誕生日、

「あ、」

冒頭に戻る。



どうしたものか、とちょっと考えてみた。ご主人様のお誕生日。おめでたいですね! と手を振ってお祝いしたいものの、私たち『組織』の人間には、鉄則の、掟、というものが存在する。(ものを、送ってもいけないし、頂いても、いけない)
お誕生日。お祝い。プレゼント。むむう、と頭を抱えて、ごろん。掃除機も一緒に抱えて、ごろごろん。

「むー」

(送っちゃ、だめ、なんですよねぇ)
でもだからといって、何もなしってのは、寂しい、ですし。     どうせ、ご主人様の事だから、お嬢様方から、たくさん贈り物を頂くんでしょうけど(そういう問題でも、ないんですよね)「うーうーあー」プレゼントを、送っちゃだめってなら、どうしましょうかなぁ、なんて。

「………あ、その手がありました」

ぽんっと、頭の上で電球がピカリン! にやにやといたずらっ子にもどったみたいに、ドキドキする。そうと決まれば、準備に取りかからねば。道具がそろっていれば、の話ですがね。







ガチャガチャ。ドアノブに手をかけた。(……鍵が、かかってんのか?)珍しい、と俺は思う反面、今日は飛びかかる勢いの(例えだが、これが一番適切な気がする)女子を押しのけ、部活よりも疲れた。正直、自分は鞄の中から銀に光る鍵を取り出すのもめんどくさい。(……ちくしょう)なんで俺が。別にそんなに重要視している訳じゃないが、今日は俺が祝われるべきはずの日じゃないのか? なんでこんなにどっかりと疲れが肩に乗っているような気になるんだ。

ガチャガチャガチャ。当たり前の如く、俺の鍵はドアノブに沈み込んで、軽いつっかかりに、音をたてて開く。慣れない動作にもやもやとした気持ちになった(妙だよな、本当だったら、これが毎日しているはずなのに)

明けた扉の先は暗かった。おかしい。玄関の足下を見てみる。アイツの靴は、綺麗にそろった形で置かれていた(でも、こんな時間だってのに、電気もついていない)

「おい、誰もいないのか」

響いた声に、なんの返事も、なかった           そのとき、




「「おたんじょうび、おめでとー!!」」

ぱんっ、ぱんっ!


目の前で飛び散ったクラッカーに、にやっとどこかのガキみたいな顔をした颯大と家政婦。二人しか待ちかまえてなかったもので、しょぼい数の連発だった。額にまでとんできた一本の紐を、思わず掴んで、「………おい、おまえら」なにしてんだ、そこまでいう前に、にやついた顔をした颯大が、もう一つ、クラッカーを、ぱんっ!

「もー、くんが今日剣之助の誕生日だっていうからさ、二人で急いで準備したんだよ!」

ねー!! と二人一緒に首を傾げ。…………お前ら、仲いいな。
「僕からのプレゼント!」といいながら渡された、真っ白なタオル。「…スポーツタオル?」随分、実用的なプレゼントだ(下手なもの渡されるよりも、嬉しいけどよ)「じ、自分からは!」家政婦が台所へと走り抜けて、随分速いスピードで、目の前に、キキキ!

「自分からは、お誕生日ケーキってことで!」

真っ赤な苺がちょんちょんと乗るソレは、随分オーソドックスなフルーツケーキだ。まさか、と家政婦を見る。えへへ、と頬をひっかいて、「ちょっと、形がいびつかもしれませんが」

「………手作りか?」
「はい。これなら大丈夫かなと」
「ん?」
「いえ、こっちの話です」


(………家政婦も、作れるのか)にやにや、とにやつく二人の頭を、がんっ! と叩いた。なにすんのさ、と聞こえる颯大の声と、い、いたいです、と聞こえる家政婦の声に、聞かないフリをして。「…………お前ら、ありがとうな」


ぱんっ! クラッカーの音が、もう一つ、聞こえた。



  


2007.12.29