序章 1




ー!」

随分元気な声が聞こえ、ハイハイ、と私はついていた腰を浮かし、ナイフをくるくると指先で回し、腰へと収めた。サカナのはいだ鱗を手のひらですくい、茶色い髪の毛と、隣で機械式の召喚獣と走る少年に「そんなに慌てないでよ」 と額の汗をぬぐいながら、にっと笑う。

とん、とナップ君は笑いながら、「今日は俺も手伝ってやろうと思ってさぁー」とにかにか笑いながら、船から借りてきたらしい釣り竿を、ぶんっ、と振り回した。
「アッレーェ、君、学校は? さぼったんじゃないのー」

どこから現れたのか、ひょいと金髪の男が顔を出し、わざとらしく甲高い声を上げる。それに一瞬むっとしたのかナップ君はちょいと口を尖らせて、「休みだっつのー」
隣では彼の護衛獣も不満そうに低い声を上げ、きゅるきゅるとドリルを回す。

そんな彼らを見ながら、この男はあそー、ごめんごめん、とケラケラ笑い、「」と私が言葉で少し諫めれば、ちぇ、と短い言葉と共に、ぼふん、と茶色い、柴犬にも似た犬の姿へと変わった。
       彼は、姿を変える事ができる、どこか不思議な青年だった。




閉ざされた島である、この孤島は少し前まで、二本の剣をめぐり、帝国軍と島の人間とで大きなイザコザを起こした。最終的には島全体の問題から、まさかまさかの世界規模の話にまで発展したのだが、何が上手くいったのか、そうでないのかは分からずある種の終局を迎えた。
争いが起こった事など嘘のように見え、ただ残すものは、多くの十字架が突き刺さった丘一つ。

島の住人は、これまでと同じようにつましく暮らし、新しく海の波を越えた住人達は、島に留まるものもいれば、外へと旅立つものと半々だった。
そして私もこの島へと残った。

私、はもともとこの世界の住人ではない。この不思議な世界、リィンバウムへと召喚された、召喚獣だ。
赤い剣、「鈴鳴」に手を伸ばしたと思えば、それが不幸の始まり。言葉を喋り、犬と人間の姿を行き来する相棒と共にリィンバウムへと落とされた。無色の派閥と呼ばれるテロ組織へと召喚され、同じく派閥へと所属していた召喚術師、ヤードと逃げだし、なんの因果か、海賊ジャキーニの船で、この島へと流され       先ほどのごたごたに巻き込まれる事になる。

そして、なんともよく分からないが、リィンバウムの管理人になってしまった。


管理人、だなんてマヌケな響きによくは分からないが、未だによからぬ事へと巻き込まれている事は事実である。
ただ私は、名も無き世界と呼ばれる、あの場所に還りたいだけなのに。
(あー、うー、先輩、怒ってるかなぁ……)

半分幼馴染みである、黒髪に、ちょっとキツイ瞳をした少年を思い出した。

目下私は、無色の派閥が残した召喚術の資料を中心に、ヤードさんとあの世界に還れるかどうかという方法を捜索中だ。



ほら、行こうぜとナップ君が私の手のひらを引っ張った。小さかった手のひらは、立派に剣のタコが出来、硬い。その手のひらを握り、複雑な気分になりながらも、ハイハイ、と薄く笑う。
森の中に照らされた太陽は、木々を通り抜け、ぱたぱたと土の道に蛍のような光を残す。その上をゆっくりと、まるでモノクロツートンの横断歩道の、白い部分だけを選び、飛び跳ねる子どものように丸い光へと飛び乗った。
さく、さくり。ケーキの下に挟んだアルミホイルを、フォークで一緒に刺してしまったような、そんな音がリズミカルに響き、ひゅんっ、と釣り竿を軽くふった。

        このまま、平和なままで


けれどもスコン! と足が抜けた。「ひえっ」思わず手のひらをばたつかせ、の服の袖を、ぐっと引っ張る。
(出番だよ、管理人)

ちょっと待て! と叫ぶ暇もなく、



落ちた。(何処へ?)





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2008.10.20