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うーん、と首を傾げる。 プロローグ 朝、目が覚めた。小奇麗なカーテンの隙間から流れる光りが床を白く照らし、案外広いその部屋の丁度真中にちょこんと置かれたついたてへと向かい、私は声を張り上げた 「先輩、起きてます」 「起きてるよ」 「どうしましょうか」 「どうしようか」 正直、迷ってばかりだ。 どうしたものか、と先輩と一緒に顔を見合せながら、ゆっくりと階段を降り、リビングからひょっこりと顔を覗かせたカノンさんへと曖昧に笑うと、彼はフライパンを片手に、「よく眠れましたか?」と屈託なく微笑んだ。「朝ごはん出来てますから、そこに座ってくださいね」 手際よく並べられる皿に、手伝おうと腰を上げれば、はいはい座って、と予想以上に強い力で押さえつけられ、イスへと座り込む。 二つしかなかったイスは、何故だかまた二つ増えていて、合計四つ。けれども並べられた皿は三枚。 暖かな湯気を漂わせる朝食の前に、小さく縮こまりながら座り、カノンさんは独壇場のように「はいはい、いただきましょうかー」 と、ぱんっと手のひらをたたいた。 「あの」 「なんですか? 冷めちゃいますよー」 「いや、僕達は」 「遠慮せずにさぁさぁ」 どこぞの女将さんのように、両手を突き出す彼に、しぶしぶと先輩はこんがりと焼かれたトーストに手をつけた。私は右手をかばうように膝の上へと載せ、左の手のフォークで目玉焼きをつっつく。つるりとのどに入る感覚に、料理ができる男っていいなぁ、と思いながら、気まずい気持ちを飲み込もうと必死に咀嚼する。 置いてくれ、と提案して、一日泊めてくれただけでもめっけものなのだ。その上ご飯にもありついてしまった。ハヤトさんとナツミさんを探したい気持ちが溢れても、食べるだけ食べてそれじゃあちょっと出かけてきます、とは言い辛い。そもそもこの場所にいるべきでもないのだ。 先輩自身も僅かに眉を曇らせながらも、何かに急かされるように口へと朝食を詰め込んだ。カノンさんはそんな様子を、どこか嬉しげに見つめながら、「あのですね」と口を開く。 ちらりと伺うように彼を見上げれば、ひじをつくように右手へと顎をのせ、「僕もなんです」 「あのですね、僕もバノッサさんに拾われたんですよ。一応、今じゃ義弟を名乗らせてもらってますけど」 柔らかい口調に、大丈夫ですよ、と彼は言外に乗せて、だからと言葉を締めくくる。「バノッサさんは優しい人ですから、安心してください」 バタン、と大きく扉が開けられる音がした。 どんよりとした二日酔いのような顔をしたまま、彼は白い肌に不機嫌そうな色を乗せて、部屋の中をジロリと一瞥する。 「アア? お前らまだいんのか。さっさと出ていきやがれ」 バタリ。 にっこりとほほ笑んだ顔のまま、カノンさんが呟いた。「……たぶん」 「それじゃあ、さん達は他の人と一緒にこっちへ来たんですね?」 こくり、と首を傾げた彼に、私たちは神妙に頷いた。そんなことってあるのかなぁ、とううんやっぱりわからないや、とポリポリと彼は頭をひっかいて、「それじゃあ」とぽんと手を叩く。「一緒に探しに行きましょう」 「いや、でも」 「じゃあ訂正します、一緒に買い物に行きましょう。お二人は僕の荷物持ちってことで」 僕のお手伝いしてください、と朗らかにほほ笑んだ彼を見て、それなら、と頷こうとしたときに、「アレ?」と気づいてしまった。 「カノンさんって、」力持ちですよね、と呟こうとしたセリフは、はいなんでしょう、とにっこり笑った彼の表情にガツンと打ち消され、思わずぐっとセリフを飲み込んでしまった。 はいはい行きましょうか、私と先輩を引っ張った腕はやっぱり力強く、思わず先輩と一緒に苦笑しながらも、ドアへと引きずられるように向かう。 そして彼は器用にも先輩の腕をつかんだままの状態でそのままノブを回しひょい、と顔だけ先に覗かせ、きょときょとと辺りを見渡した。「………アレ?」 ぱっと唐突に離された腕は重力に従いぷらりとこぼれおち、彼は不思議そうな表情のまま、こくりと首を傾げる。 「カノン?」 どうしたんだと呟いた先輩の声に、彼は一端振り返るも、またすぐに遠くを見渡し、うーん、とまたまた首をかしげ、「今、」「今?」「うーん、気の所為ですかね?」 まぁいいか、と一人納得したかのような顔をした。 なんだろう、と不思議に思っても、まぁまぁと彼は両手を上下させ、くるりと体を反転し、「それじゃあ行きましょうか」と、小さな背中を大きく見せながら、ずんと力強く、足を踏み出した。 BACK TOP NEXT 2009.01.09 |