| 「あ」 「あん? お前まだいんのか」 プロローグ バノッサさんは、顔色の悪そうな顔をより一層悪くしながら、眉をひそめ、ぼそりと呟いた。会うたびに言われているセリフのような気がするなぁ、と考え、私は「ははは」と一つ笑みを浮かべた後、特に気にすることもなく、カノンさんから言いつけられた仕事へと戻る。 部屋の中へと適当に放置されている本の埃を一冊一冊、ぺんぺんと叩き、本棚の中へと詰め込んでいく。残念ながら、私はこの世界の文字を読むことができないので、配列は適当だ。(それにしても) この蔵書は、いったい誰のものなのだろうか。恐らく、カノンさんのものだろうな、と見当はつくけれども、家庭的な彼が、ここまで放置するとは考えにくい。 「オイ」 「はい?」 気づけば、ぬっと背後に現れていた彼へと一瞬振り返り、また埃をはたく。「それ、俺のだからな、皺でもつけてみろ、お前のその指たたっ切るぞ」 低く響く声色に、私はぎょっと振り返り、思わず手元のものと確認した。「お前なに確認してんだ」 また不機嫌そうに声が響く。「いえ、すみません」 「そんなに意外かよ、俺様が召喚術の本を集めてるのがよ」 「え、これ召喚術の本だったんですか、どうりで分厚いと」 意外だ、と言外に込めた気持ちを機敏に察したのか、彼は苛立ったように声を張り上げ、「文句があんならさっさと出てけよ」とダン、と強く床を踏む。その衝撃で崩れ落ちた本へと、私はワ! と手を伸ばし、ぎりぎりのところで救った山に溜息をつきながら、「危ないですよ、バノッサさん」と呟けば、「うるせぇバノッサ様だろうが!」 とまた理不尽に叫ぶ。 「はぁ、バノッサ様危ないですよ」 「馬鹿じゃねぇかお前」 首を振りながらフッ、と鼻で笑う彼に、あんたが呼べって言ったんだろうが、とほんのりと思い浮かんだ理不尽な気持ちを飲み込み、バベルの塔を作りつつあるそれを一冊一冊取り除きながら、わずかに溜息を吐いてしまった。 「おいお前」 「なんですかもう」 こっちは真面目にやってるんだから、どっか行ってくれと言える訳もなく、ぶつくさと振り返れば、ゆらりと長い人差し指をこちらへと向ける彼が、「お前たしか召喚獣だったよな」と今更な疑問をぶつけた。そうですよ、と適当に言葉を交わすと、ほんの少し、ぱっと嬉しそうに声色を変え、「だったら」と彼は呟いた。 「お前、召喚術について詳しかったりするのか」 「残念ですけど、まったく。先輩はもっと知りませんよ」 お役に立てず申し訳ありませんね、と呟いた軽口に対して、「ホントにテメェは役立たずだな」とふう、と吐かれた溜息に、流石にちょっとイラッとした。この人殴っていいですか。 BACK TOP NEXT 2009/02/11 |