彼らが来るまで




「何でお前、うちにいるんじゃ」
私はもぐもぐごっくん。とご飯を飲みこんだ。




「いやまあ、何でといいますか、他に行くところがないと言いますか」
「食事中じゃぞ! その覆面と取らんか!」
「これはあれなんで、僕のアイデンティティーなんで」
「あい……あいでん?」
「ティッティー」
「うおおおおお!!! 意味がわからああああん!!!」
「あんさんちゃぶ台返しはあきまへんってぇえええー!!!」


端的に言うと、私はジャキーニにあまり好かれていない。始めっから、なんじゃあこいつ、というような顔で見られていて、みんなで並んで頂きます。というときに、毎回毎回「こんな顔も見せられんやつとメシなんか食えん、食えんぞ、食えーん!!」と大騒ぎだ。今食べてるじゃん、もぐもぐしてるじゃん。なんて突っ込みはしてはいけない。もぐもぐ頂く。もぐもぐ。ちなみに調理担当はオウキーニさんで、その味はビックリするほど美味で、彼ら海賊軍団はすっかり舌が肥えているのだろうなぁ、と妙な心配をしてしまう。

     さて。ただいまの私はと言うと、完璧なまでに居候だった。ときどきを呼んでみるけれど、驚くほどに返事がない。前は微かというくらいにはつながっていた気がするのに、この島に来てからというもの、その繋がりさえぷっつりと途切れてしまったようだ。(さすがに、不安だな……)

この世界の常識というものを、しっかりととらえることができなくて不安だ。こちらが特に意識をしていないことも、あちらにとっては妙なことだということだってあるかもしれない。日常を過ごしていくうちに気付いたのだが、この世界では英語は使われていないらしい。オッケー? レッツゴー? アイアム、アイアム。簡単なものでさえ、ハァ? と言った表情で見られてしまう。私はなるべくカタカナ言葉を使わないように努めることにした。

というか、なるべく自身の情報を出さないように制限をすることにした。顔を見せない。性別はもちろん、本名も言わない。何をしていたか。どこの出身なのか。この世界の知識があれば、適当に嘘をつくことができたのだろうけれども、どれを聞かれても、私は「分かりません。言えません」とつっぱねた。本音を言うのであれば、この船の頭であるジャキーニが、私を疑うのは、必然で、当たり前のことだ。寧ろなんだかんだと言いながら船に置いておいてくれていること自体にビックリだ。

何故こんなことをしているかと言うと、私がはぐれだと言うことを、彼らに言っていいべきなのか?
信用していないとか、そういう問題じゃない。いや、やっぱり信用していないのかもしれない。この世界は名でしばるとは言っていた。私は元の声をオルドレイクに盗まれて、もしまた次に同じようなことがないとも限らない。と連絡がつかない今、どうしても注意深く過ごす必要がある。(……どうしたもんかな) こんなはぐればかりの島で、しかも海賊達に囲まれているというのに、ビックリするくらいに自分の気持ちは明るかった。なんて言ったって、檻の中に閉じ込められている訳じゃない。自由なんだ。きっと、なんでも できる。


***


「貧弱な体じゃ!」

ジャキーニが、むん、と自分の胸板を強調させながら鼻息荒く私を見下ろした。まあ彼らに比べれば、薄い体つきなのは確か、というか彼らが無駄にムキムキなのだ。私は「そうですねぇ」と適当に頷きながらジャキーニを見つめる。彼はむきぃ、とバタバタ暴れつつ、「好かん、好かん好かん好かん! 貧弱な男は信用できん! わしらのようにムキムキにならんと、好かん好かん好かん!」

「いやちょっと……ジャキーニさん達くらいに到達するには年単位かかりそう……というかその、体質とかありますし……」
「言い訳する男はもっと好かん」
「すみません」
「男が簡単に謝るな!」
「すみ……ませぬ?」
「ぐおおおおお!!! お前なんてだいっきらいなんじゃー!!」

ばーかばーか、お前のかーちゃんデーベーソー!
ジャキーニはそう言い捨てながら、調理場から去って行く。さようならー……と私はパタパタ手を振った。エプロンをつけていたオウキーニさんが、そんな様子を見て苦笑している。

私は船長が去って行った後を目で追いながら、ははは、と軽く笑った。そしてしょりしょりと、オウキーニさんのお手伝いで私は芋の皮むきのお手伝いを続ける。ご飯というものは偉大だ。美味しければ嬉しくって、それだけで力が湧いてくる。オウキーニさんはリズムよく包丁をまな板で叩き、口笛まで吹いていた。
はん、そこのトマトもとってくれまへんか?」
「はい、どうぞ」
「おおきに。はん、そのローブ、脱げまへんのやろか」
「申し訳、ないんですが」
「そうでっか」

ほんの少しの日常会話に混じるように、彼は私に忠告をした。けれども無理だ。怖い。もし、あのはぐれと同じように、彼らに叩きのめされてしまったら      とまでネガティブなことは考えていないけれど、男の声に、女の顔だと言う自分を見て、彼らは一体どう思うのだろう。「まあ、嫌ならしゃあないですわ」 そう言って、オウキーニさんはこともなさげにトマトの皮をむいた。「でも、あんさんがああ言うてる意味も、ちょっとは考えたってください」

はい、と私は静かに頷く。「この話はこれでおしまいや」そう言って、オウキーニさんは大きな顎をぐいっと上げて笑った。彼なりに気を遣ってくれているんだと思う。

(……どうしようかな……)

どうなるだろうか。ため息をついても仕方がない。前を向いて行くしかない。けれども押しつぶされそうになる。この頃ふと、先輩のことを考える。ただの逃避なんだろうな、と気づいているけれど、止まらない。
(頑張らなきゃ、いけないなぁ……)




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2011.07.06