| 「こうなったら、いてもたってもいられませんわ……!」 「うん、何する気?」 「決まってます」 「だから何を」 「ウィル兄様達を探しに行くに決まっているでしょう!」 彼らと私 「あはは、あぶないからダメ―」 と笑ってくるくるお箸を回した瞬間、ベルフラウからの高速平手打ちが飛んできた。「おぎゃー!?」 さすがに二度目となると耐性ができてきたのか、ぶん殴られる瞬間、イナバウアーにて危機から逃れることができたのだけれど、心臓によくない。年下の少女の平手打ちは本当に心臓によくない。泣いたらどうする。 ベルフラウは獲物を逃してしまったことに、苛立たしげに顔をゆがめた。かわいい顔が台無しである。そしてお箸を不器用に持って、「いったいなんでこんなものでご飯が食べられるんですの……!?」と悔しげに手のひらを見つめている。 そんなことを言われても、私はお箸大好きラブラブな国で育った人間なので、こっちの方が食べやすいし、自分で木からスプーンやフォークを作るだなんて技術は未だにない。いっておくけれども、そのお箸は私の手作りなのだ。もうちょっと愛をこもった接し方をしてほしいものである。 むうっとベルフラウは眉を寄せ、片手でぎゅっと二本をお箸を拳で握り、こっちにさきっちょを向ける。「……なぜいけないのかしら? 私はここまで一人で来たのよ。はぐれからだって逃げられたわ」「あ、ちょ、先っちょこっちに向けないで、なんか殺意があふれてて怖い」「ちょっと聞いているの!?」「あ、コワ、コワイ。激しくこわい……!!」 ぷんぷん怒る彼女の怒りをなだめるには、一体どうすればいいのか。私はたらたら汗をこぼしながら、「あのねぇ」と言葉を濁す。 「さっき大丈夫だったからって、今回も大丈夫って訳じゃないでしょ。ベルを連れて森を歩いて、はぐれが出たとき、私は守れる自信なんてないもの」 「でもナップとは一緒に行ったのでしょう?」 「ナップは男の子だもの」 そういった瞬間、ベルフラウの目から出た閃光が、激しく私を引き裂いた………ような気がした。「女だから? そんな理由で大切な兄弟を探せないっていうの? 会えないって言うの!?」「う、うぐっ」 それを言われると辛い。 それに私だって女なのだ。それを理由にするには良心がチクッと痛くなる。どうしたらいいものか、とポリポリ頭をひっかき、「あのさぁ」と正直に話すことにした。「僕がね、心配なんだ。乗りかかった船だよ。ナップくんたちを探すのは、僕が手伝うけど、お願いだからベルは、メイメイさんのところで待っていてほしい。もう一回言うけどね、心配なんだよ」 ね? そういって彼女をフードの向こう側で見つめていると、しぶしぶと言った表情でうんと頷いた。そしてもう一度、最後につぶやいた。「……メイメイさんって、誰なの?」「まあいい人だよ。ちょっぴりお酒くさいけど」 約束してしまったものは仕方がない。私はナップくんたちを探しにざくざくと森の中を進んでいく。あれから一日が経過した。まさかあのときと同じ場所にいないだろう、と思いつつ、確認してみたけれども、案の定だ。一体彼らはどこにいるのか見当もつかない。ベルフラウとは軽く約束してしまったけれども、もしかしたらこれは数日、数週間がかりの仕事になってしまうかもしれない。 めんどくさいなぁ、と思う気持ちがなかった訳じゃない。食糧だって、毎日二人分を出すのはつらいのだ。けれどもどうすることもできない女の子をほっぽり出すほど鬼じゃないし、最悪メイメイさんにでも、ジャキーニ達にでも泣きついたらいい。自分ひとりのことならそうはいかないが、他人の行先まで握ってしまっているのだ。一人で生きていくためのプライドがどうだとかは言ってられない。 私が向かった場所は、浜ではなく、陸の中心部へだった。なぜかというと、自分ならばそうするかな? と考えたからだ。地理的なことではなく、この島にはいくつかの集落があることを知っていれば、必然的にそちらを目指すのではないだろうか。私みたいな例外を除いて。 私の場合は、自分自身が外から来たはぐれだということもあり、他の人たちの生活に紛れる自信がないからだ。できることなら一人でちゃんと生きていけるようになって、ある程度自信がついてから彼らに接触したかったのだけれど、それはもういい。この際だ。今すぐ接触させていただこうではないか。 数ある集落のうち、私は一つの集落を目指していた。何故かというと、あの場所が一番落ち着くからだ。遠くから見れば、まるで古い日本の農村のようで、一番初めに島の人間と話すなら、あそこの住人がいい気がする。 いや、一度、私は小さな妖精と会話している。あっちにした方がよかったかなぁ、と思ったけれど、泥棒と勘違いされてしまった出会いだし、穏便な関係を築く自信がない。 ひょいひょい、と足を動かしていると、何か紐のようなものにひかかった。からんからんからんからんからん 本能的に逃げようとしたのは一瞬だ。このまま待つべきだ、と理性は考えた。村まで行く必要なんてない。この場で待っていれば、誰かがやってくる。それが誰かは 私はじっとその場で佇んでいた。瞬間、背後にすとん、と軽い何かが落っこちたような音がしたのだ。慌てて振り返ると、首元に短刀を当てられていることに気づき、ひゃっと息を飲み込んだ。「なにものだ」 青年の声だ。 ごくん、と唾をのみこみ、反射的に手が動いた。鈴鳴へと伸ばそうとしたが、しかしと体が強張る。私は話に来ただけなのだ。それに相手は人間の形をしている。いきなり刃を向けるには自分の心臓がいくつか足りない。そんな私の動揺に気づいてか、彼は即座に私の手をはたいた。ぐるん、と背中へ持っていき、「中途半端だな、覚悟が足りない」とめんどくさげに息を吐き出す。 ぐっと唇を噛んだけれど、今はそのことで争っている場合じゃない。 「あの、ちょっと待ってください。僕、お話に来たんです」 「武器を持ってかい?」 「それは、謝ります。ですから話を聞いてください」 「お前はどこから来た」 のべつくまもない。 私は慎重に言葉を選んだ。「外から」 男はふっともう一度息を吐き出し、私を解放した。 思わずバランスが崩れ、そのまま前のめりに倒れ、振り返った。見ると男はお祭りで着るじんべのような恰好で、20代の若い男だった。短い髪の毛を、男はくしゃくしゃとひっかき、「詳しく」「え?」 一瞬何を言われているかわからなかった。おそらく、外から来たことを、詳しく話せ、ということなのだろう。「あの、嵐に巻き込まれまして……それで、気づいたらこの島に。外に出ていくすべもなく、ここしばらく森の中で暮らしています」 彼は、ため息をついた。「喚起の門から来たのではないのか」「へ、かん……」「もういい」 もう一回ため息をつく。こっちはよくない。まったくもって相手にしてくれてない。 これは無理やりにでも話の筋を変えねば、と唾を飲み込み、「僕の名前はです!」 彼は私の真意を測りかねたようにパチリと瞬いた。そして暫くじっと見つめていると、「カズ」 多分それが彼の名前だ。 「僕は、ベルフラウという名前の、外から来た少女を保護しています。彼女は同じく難破した兄弟を探していて、僕はあなたたちのお力をお借りしたいと、ここまでやってきました」 きちんと話を伝えることができているだろか。カズと名乗った男は、うっすらと瞳を細めた。そして腰からしゅるしゅるとロープを取出し、ぬっと私の前に近づいたかと思うと、「え? あ、あの、ええ?」 ぐるぐるぐる。ぎゅっぎゅっぎゅ。「めんどくさいから、捕まえて連れてくことにする」 めんどくさいからって縛りプレイに入るか普通。 ちょい待ち、ちょい待ち! という私の主張が通じたのか、彼はぴくりと片眉を上げた。見上げた空の上からは、一匹の鷹がばさりと翼を広げながら、カズさんの肩に舞い降りた。そして何か彼の耳にささやいたかと思うと、「……そうか、雨情の小道に侵入者が……キュウマにも伝えておいてくれよ」 わかった、というように鷹は再びばさばさと羽ばたき、ひゅっと空に消えていく。(……侵入者……) ハッとするものがあった。「その侵入者、多分、僕が探している人間です、お願いします、僕をそこまで連れて行って 「え、えええ、ちょ、ええええー!!!?」 「あの……めんどくさいからさ。しばらくここで待っといてくれよ」 「ま、待っとくとかそんな状態じゃなくないですか!?」 「ちょっと窮屈かもしれないけど、慣れると楽だと思うぞ」 「慣れたくねぇー!」 ちょ、ちょっと、カズさん、カズさんったらー! オニー! アクマー! ばたばた自由にならない両手の代わりに両足を動かすと、彼は今までの無表情が嘘のように、ニコッと微笑んだ。「バイビー」 ばいびーじゃねー! あほー! ぼけー! かすー! なすー! 思いつく限りの悪口を口にして、じゃあねー、と消える彼を延々と罵ったのだった。ほんとにひでえ。 BACK TOP NEXT 2006.??.??執筆 36,39話 2011.08.10修正 22話 37話、38話は飛ばします。 いらっしゃらないとは思いますが、気になる方は名前変換下部分の、修正前のページからどうぞ。12話までほぼ違う話になってます。 |