き こ え て い ま す か




彼らと私



「この間はごめんねー」



ぶぼおっと私は息を吐き出した。
手に持っていた釣竿をがくがくと震わせ、「ぎゃあああ縛り! 縛り!」とがくがく腕を振り回すと、「いやいや、だからホントごめんって。忘れてた訳じゃないから。ここらへんにいるって聞いてわざわざ探しに来たんだけど」 どっちかと言うとローテンションな声のまま、彼、カズさんはポリポリと頭をひっかいた。


「案外時間食っちゃってさ。やべーって思って探しに行ったらロープだけ落っこちてたからびっくりした。縄抜けとか上手なの?」 すごいね。と言われたけれども、正直レックスさんが来なかったら、私は延々とあの場に縛られていたことになるのである。

全身から激しく殺意を溢れさせ、コノウラミハラスデオクベキカと釣竿をぶんぶんさせた。カズさんは、「ちょ、先が、先が当たるんですけど。ちょっと、俺つられちゃうでしょ」と言った瞬間、彼の襟に、ぴーんと針が挟まった。「…………」「…………」「ちょ、ちょっと何してるんですか、釣っちゃうじゃないですかあっちに行ってください!」「えっ、理不尽」

ないわー、ほんとないわー。と彼は釣られた格好のまま、ポリポリほっぺたを引っ掻いて、「悪かった。人間で、門に呼ばれていない侵入者はあんたが初めてだったもんで、ちょっとカリカリしすぎたよ」

だから謝りに来たんだって。釣られながらニッと笑う彼を見て、私はあれ? と首を傾げた。門がどうたらという部分はともかく、「ジャキーニさんたちは……」 彼らも私と同じ侵入者じゃないんだろうか。

まさかそれをこの人が知らない訳がないだろうし、まあいいか。と勝手に頷いた。

「とりあえずカズさんもういいですから! あっち行ってください。ばいばい!」
「理不尽! 釣り針をはずさせろっての」

釣られる釣られる! と二人一緒に慌てながら針を抜いて、「じゃあそういう訳だから」と彼は私に背を向けた。「バイビー」 またそれか! どこぞの人気アニメのライバルくんか! と思いながら、「はいはいバイビー。ぐっばいぐっばい」と適当に手のひらを振ると、カズさんはギョッと目を見開いた。そしてそのあと、ほんの少し嬉しそうな顔をして、「おうっ、ばいばーい」

はいはい、ばいばーい。




    ***



その夜、奇妙な夢を見た。
何かの音だけが、耳の中にきんきんと響いて、甲高いくせに、なぜか優しげな男性の声のような気がしたのだ。




    おねが         



まちが                な いで



      物語を



   いじょ      うぶ


きっと    だいじょうぶ




だから           



プツッ

音、が途切れた




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2006.?? ??執筆 44話
2011.08.11修正 25話