お人好しの島




「お魚が嫌いィ? バッカじゃねぇかお前!」
「はんっ。お前みたいに神経が図太く出来とらんのじゃワシは!」
「十分図太いんだよバーカ!」
「なっ…! バーカバーカ!」
「バーカバーカバーカバーカ!」
「あ!!」
「ん?」


赤髪船長が大きく目をひんむいてまったく違う方向を指さすと金髪船長もつられてそちらへと目を向ける。その瞬間に        エイヤァ! 私はそっと視線をそらし、ローブの向こう側で泣いた。泣けた。
なにより、目の前に繰り広げられる醜い争いを見つめるパナシェくんが真顔だということが一番つらい。


隙だらけよ……といいながら短剣を振り回すどっかで聞いた事のある人物の声が聞こえる。呟くような声なのに、無駄によく通るその声。斜め後方からこんな声で呟かれた日には今日が命日になってしまいそうな気がする。

「……ねぇ、パナシェくん」私がひっそりと囁くと、彼はこくんと首をかしげ、「何? さん」

「ここまで来といてアレなんだけど、帰っていいかなぁ」
「うん、ボクも帰りたいと思ってた」
だよねぇ。

いっくよー! と叫ぶ女の子の声と同時に、ギャー! と叫ぶ思わず耳を塞ぎたくなってしまうような野太い断末魔が響く。ばっきゅーん、とソノラが嬉しそうに手で銃の形を作り、勝利のポーズを決める。……もしかしなくとも、どうやら私達は来るのが遅すぎたようだ。すでに終わりを告げた戦闘にふぅ、と遠い彼方を見つめてみた。
一体何をしに、私はここに来たのだろう。



砂浜の真ん中の、筋肉だらけの男たちの屍に書きこまれ、どどん、と若々しい海賊メンバー、カイル、スカーレル、ソノラを中心として、アティさんと私を見事に捕らえて下さったヤッファさん、そしてまだ見かけたことのない、灰色の髪の毛をきゅっとくくっている、どうにも古き良き時代の日本を思い出すような格好をした男性がいる。背負う刀が、なんとなく他人には思えない。



「……うん」 私はうむ、と顎をしゃくった。隣ではパナシェくんが、「どうしたの?」と首をかしげていたので、よしよしと頭を撫でてみると、くすぐったそうに口元をへにょりとさせる。可愛らしい。「いやね、この状況は、あんまりよくないなぁって……」「え?」

苦笑した。
(……下手をすると、パナシェくんを人質にとっているように思われかねないなぁ)
ここはまずいな、と何度も頷き、私はパナシェくんをひっぱって、「戻ろう」と彼の耳元にささやいた。彼もある程度は察知したのか、静かに頷いて、よっこらせ、と腰を上げる。そのとき、お約束なことに、足元の枝を、ボキリと大きく鳴らし、予想以上に大きな音を立ててしまったのだ。

サーッと背中に嫌な汗が流れた。いや、こんな音程度でばれる訳がない。大丈夫。大丈夫。問題ない。そう思いながら、念の為にと振り返ったのだけれど。

「おおおおおおおおおお前はぁーーーーーーー!!!!!!」

木々の間から見えるアイパッチが、ぽかーんと大きな口を開けてこっちを指さしていた。勘弁しておくれよ。



***


ジャキーニは思いっきり指さした。そして叫んだ。もともと、案外細かいことがきになる性質であった。日本で言うならば、A型的な空気を実は彼は持っていた。どうでもいいが。

だからこと、微かに聞こえた音に耳を傾け、見覚えのある黒ローブを発見し、力のかぎり叫んだ。指をさした。
でもそうしながら、別にここまで叫ぶ必要はないんじゃないか、とうっすら気づいてたのだけれど、まあいいか、と理性の赴くままに叫んだ。

道連れ、ゲッチュウ。


***


「おおおおおおおおおお前はぁーーーーーーー!!!!!!」

ジャキーニのセリフに思わず耳を塞ぎ、とりあえずと私はパナシェくんに軽く手のひらを振った。面倒になる前に、お逃げ。彼は意味を汲み取ってくれたらしく、ほんの少し逡巡した後、とたたっ、と背中を向けて去っていく。
とりあえず、人質の誘拐犯にはなりたくない。

ただどうにもややこしいことに、ヤッファさんがこっちを向いて、ぱくっと口元を動かした。そりゃあそうだ。捕らえていたと思った人間が、ここにいるのだから、驚きたくもなる。
けれどもヤッファさんが口を開く前に、「ー! 何しとるんじゃい!」とジャキーニが激しく存在を主張した。主張しないでいいから。

「誰ですかねそれ。よく似た他人ですよきっと!」
「お前みたいな怪しいかっこをしたやつがそこらでうろうろしとってたまるかい。おおーい! こいつもワシらの仲間じゃ! ひっとらえーい!」
「あんさん!?」
「何を言ってるのこの人!?」

道連れじゃー! いっそのこと道連れじゃー! と自棄になったように叫び始める彼を見て、えええ、と口から泡が飛び出しそうである。唯一の良心であるオウキーニさんは仲間たちに両手両足と口をふさがれ、もがもがもがいている。かわいそうに。

……」「 …」「仲間だ!」「あいつは仲間だー!」 船員たちがのぼそぼそ声から大声にクラスチェンジしていき、何やら仲間主張までし始めているが、今この状況で言われても全然嬉しくない。もうちょっと前に言ってほしかったです。

だらだらローブの下で汗を流しながら、そそっと先生達に視線を向けてみると、ソノラなんかはばっきゅーん! のポーズのまま固まっていて、申し訳なくなる次第である。

私はハハハ、と自棄のように笑いながら、「……こんにちはー?」 ついでに手のひらを振ってみた。


刀を持っていた男性がこちらの精一杯のフレンドリーを切り捨てるように、ギッとガンを飛ばしながら腰を低く構える。ひえっ、勘弁してよと両手をホールドさせる前に、「あのう、さんって」 アティさんが首を傾げた。「ジャキーニさん達と、お知り合いなんですか?」

「え……えええっとー……そうとも言えるようなー、言えないようなー」
「仲間じゃァアア!!!」
「お髭さんは黙ってて!?」
ややこしくしないで!


ほわほわしているアティさんはともかく、ちりちりと膨らむ緊迫感に、私は涙が流れそうになった。特に静かに眉をひそめているヤッファさんからの重圧が苦しい。
とうとう最終兵器のDOGEZAを発動させてしまおうかとか、これってこの世界でも通じるのだろうか、と考えていたとき、ヤッファさんの服のうちっかわから、小さな黄緑色の物体が飛び出したのだ。「……ぷはぁ〜。苦しかったのですよー」

聞き覚えのある妖精の声に、私はパチッと瞬いた。「あっ」と小さく漏らした声を、彼女も聞き入れたのか、「あああっ」可愛らしい声をしゃんしゃんと靡かせ、「覆面さんなのですよ! あのときはありがとうございましたです〜!」



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間違えて削除してたようなので書き直し。
2011.08.19