男の子のふんばり 「にーちゃん、ドコ行くんだ」 「狭間の領域」 「なんで行くの」 「まだ僕が行ってない所だから」 背後のナップくんから、多少不審げな顔が見えたが、私はフーン、と見ないふりをすることにさせてもらった。見ないふり、見ないふり。 「ほらほら、ちゃっちゃとあるーく」「へいへい」「ピガー!」「アールは元気でよろしい」 私はナップくんを引き連れて、ざくざくと森の中を歩いていった。 言っておくけれども何も考えずに行動している訳ではない。このまま無理に船に返したところで腹の中に鬱憤がたまる。だったら適当に他のところに引き連れて、ストレスの一つや二つ、発散していただこうと考えたのだ。散歩しようよ、と声をかけてもフーン、と無視をされるのはわかっていたので、それならばいっそのことと修行だと偽り、そのまま引き連れて来たということだ。 狭間の領域ならば、ついでに自分もいつか行かなければならないと思っていたところだ。ヤッファさんや、あの忍者のような男性、名前はキュウマというらしい彼らに、こっそりと元の世界に戻る方法はないのか、と探りを入れてみたことろ、苦い顔付きをされてしまった。だったら別の集落に話を聞いてみるべきだと考えたのだ。 おそらく、そんなことを知っているなら、はじめからこの島に留まっている訳がないと思うけれど、聞くだけ損はないはずである。 ラトリクスに行くべきかと少しだけ迷ったけれど、長く森の中を抜けるそちらより、見通しのいい海岸を経由するこちらの方がいいはずだ。 「まあまあ、見聞を広めることも修行の一つさ」 ハッハッハ。と笑っていると、やっぱりナップくんは不貞腐れてぽてぽてと歩いている。失敗したかなぁ、とほっぺたをひっかいた。まあいいか。 あと少しだろう、と予めメイメイさんから聞いていた地図と頭の中で照らし合わせたとき、目の前にとびこんできた毛むくじゃらの召喚獣を、私は一気に切り裂いた。体の上下を切り離された召喚獣が、瞳だけくりっとこっちを向けて、地面に落ち着く前に、体を光らせながら掻き消える。「ぎゃっ」 遅まきながら、ナップくんの悲鳴が聞こえた。 私は大丈夫、というように彼の頭を撫でようとしたとき、ナップくんが手のひらに小さなナイフを握っていることに気がついたのだ。「あれ、君……」 そんなの持ってたの? と首を傾げたとき、彼はサッと懐の中に隠し、上目に睨んだ。 オウケイオウケイ。詮索なんてしないよ、という意味で両手をふらふらさせ、ため息をつく。無駄な殺生をしてしまった、という意味で両手をあわせて、死体すらもない跡地へと頭を下げる。 暫くして頭を上げて、「よし、行こうか」と足を進めたとき、ナップくんが「なあなあ、それ、何してたんだ?」「何って?」「頭を下げて、こうやって」 両手を合わせた彼を見て、文化の差かなあ、と不思議な気分になった。 「ごめんなさい、って謝ってたんだよ」 「……ふーん……」 どうにもピンとこない顔をしながら、彼は私のとなり小走りに移動した。 「俺、にーちゃんみたいに、強くなりたいなぁ……」 「いや、僕は別に……」 そんなことないよ、と否定するのもなんだか無粋な気がする。「ウィル兄貴が、アリーゼを守るみたいな、それくらいさぁ」 負けたくないなあ。と呟いた彼の言葉は、断片的だった。 けれどもなんとなく、わかるような気もした。 そうだねぇ、という言葉の代わりに、私はポンポンと彼の頭を撫でたのだ。 どれくらい進んだのだろうか。森の中だというのに、ぽろぽろとこぼれた透明の石達が、きらきらと紫色に光り輝いている。「……幻想的だねぇ」思わずこぼれた言葉に、ナップくんはうんうんと何度も頷いた。ついでに一緒にアールもうんうん頷いていた。 「……狭間の領域……あー、確かにそれっぽい」 「なんでだよ」 「あの世とこの世の」 「縁起が悪いぞ、にいちゃん」 なんだ、リィンバウム、この世界の人間なのに、縁起とか気にしちゃうの? とくすくす笑いながら近くの水晶へと手を乗せた瞬間、水晶は砂のように崩れ落ちた。もはや跡形もない水晶の残骸を、ナップくんと私は口をぽかんと開けて見つめる。 そういえば私はサモナイト石がまともに持てないという奇妙な体質なのだった。これももしや、それに近いものがあるのかな? と一人なるべく冷静になろうと頭を抱えていると、「ほ、ホラァ! だから縁起が悪いって!」「ぼ、僕の所為じゃないよー!」「嘘つけッ! なぁアール!」「ピガー!」 二人がかりはずるい。 別にそんな縁起が悪いことでもなんでもないよ、ただの自然現象だよ、と必死に説明している最中に、激しい轟音と共に視界がチカチカと点滅した。びりびり響く激しい音とほぼ同時に、視界の端で大きな木が一本ドオオオン! とぶっ倒れた。どうやら近くで雷が落っこちたらしい。 私とナップくんは静かに視線を合わせた。 「…………」 「…………」 「あの、ぼ、ぼくちがう、僕のせいじゃ違う……!」 「わかってるよ。なんでカタコトになってんだよ落ち着けよ」 BACK TOP NEXT 2006.9.20~25 執筆 58~59話 2011.08.20 修正 31話 |