ふんばる男の子



「なーなーにーちゃん遊ぼうよー」
「スバルゥ、さんが困ってるよ」
「あーそーぼーうーぜー」
「背中に乗らないでくださーい」
「あーそーぶー!!」
「あばれるなー」

座り込んでいた端っこから、気づけば首元にちょこんとスバルくんが座っている。気づけばいくつかの日が過ぎていた。お腹の傷の方もすっかりよくなり、それでもいつまでもと滞在の日が伸びて、ゲンジさんの庵に居座ってしまっている。

スバルくんもすっかり慣れた様子で、彼の両足をつかんでそのまま肩車をして立ち上がると、人の頭にくっついて、きゃっきゃきゃっきゃと笑っていた。足元でほんの少し羨ましげなパナシェくんには、「パナシェくんは次ね」「……うんっ」

刀というのは案外重いもので、これくらの子どもならば余裕である。「号! 発進! 目指すは森だー!」「ええー、やだよ、また蓮の葉ジャンプでいいじゃない」「それは後だ!」 結局するのか。まあいいか。と思いつつ、私はのそのそスバルくんを頭に抱えて発進した。

「ゆけー! はしれー!」
「勘弁してよー」




森といえば、多少の油断があったかもしれない。唐突に飛び出した召喚獣に、私は少年二人を守るように、さっと体をすべらせた。パナシェくんは小さくなって頭を抱え込み、うわあん、とぽろりと涙をこぼす。

どう考えても、狙うはアイツであると彼らも感じたのかもしれない。私がパナシェくんにハッと意識を飛ばしたとき、踏み出した体重方向とは別の場所から獣が飛び出した。あっと叫ぶにはもうおそい。

「やあああー!」

少年が叫ぶと同時に、ぴかぴかっと白い光が目の前で弾ける。ついこの間見た、アティさんが抱えていた召喚獣と同じだ。雷が弾けたのだ。人差し指と中指をまっすぐに伸ばしたスバルくんが、ジッと獣を睨む。
パナシェくんに襲いかかろうとしていた獣は、毛皮までも真っ黒に焦がされて、ぴくぴくと僅かに痙攣し、光の粒となって消える。

ぼうっとしている場合ではない。
残りの獣達の腹をさばき、一人残らず消した後で、私はぽかんとしてスバルくんを見下ろした。「……今の、何?」「何って、雷出しただけだけど?」「はあ、だしただけ……」

よくよく考えたら、彼だって召喚獣であるので、あれくらいの特殊能力を持っていたとしてもおかしくはないだろう。その割には未だにぷるぷるとパナシェくんは震えているが、そこらへんは、まあ、人それぞれということで。

けれども私が気になっている場所はそこではなく、もう少し別のところだ。「……今さぁ」 うん? とスバルくんがこっちを見上げた。「殺したよね」
粒となって消えたということは、確実に彼らは死亡し、あちらの世界へと戻っていったのだろう。
私の言いたいことを、よく飲み込めていないのか、スバルくんは首を傾げた。当たり前だろう、そんなもん。と言いたげな顔をしている。いや、ちょっと待って、でも、いやでも、(彼も、私と同じ召喚獣で、さっき襲ってきたやつらと、みんな、こっちの世界に召喚された仲間って、はずで……)

忘れていた気持ちが、また混乱してきた。
自分よりも小さな少年が、すいっと何事もなく行動してしまったことに、必要以上に動揺した。

「……殺していいの?」
「うん?」
「だから、その、アティさんとか、みたいに、手加減とか……」

「そんなことしたら、オイラ死んじゃうじゃん!」


あんまりにもあっけらかんと言う言葉に、パチッと瞬きをすると、少年は「あったりまえだろー?」とでもいいたげに、むんっと胸を張ったのだ。

なんだかそれを見た瞬間、なるほどそうか、と納得した。ぼんやりしていた私の脇腹を通り抜けるように、パナシェうんがふいっとふわふわな顔を覗かせて、「さん、さん」「うん?」

「ボクは、戦わないけどスバルの言いたいこと、わかるよ。思いやることができれば、それが一番いいんだろうけど、そんな余裕もなかったら、頑張るしかないもん」


きらりと丸い瞳で彼はこちらを見つめた。スバルくんはといえば、「あれ、オイラそんな話したっけ?」と首を傾げて、ぴくぴくと耳を傾げている。「にーちゃん、そろそろかえろーよー」「ああ、うん……」

そうか。

そういえばこの島は、時の流れがゆっくりな場所なのだ。
ないものねだりしたって、仕方がないものなぁ、と思いながら、案外本質を捉えているような気がする、彼ら少年二人は、下手をすると私よりも年上ではないのか、と考えて、なんだかちょっと微妙な気分になった。

(時間がゆっくりな分、それだけ静かに進んでいけばいいのかなぁ)
まあ、やっぱりよくはわからないけれど。


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2006.12.18執筆 68話
2011.08.24修正 35話