さすがに、そろそろお別れだ。


ふんばる男の子





「にーちゃん、行っちゃうのか?」


両手にがっつりと、ミスミ様や村人たちからもらった餞別を抱え込んで、私はちらりとスバルくんを見下ろした。パナシェくんは自分の集落へ戻っている時間帯だ。あんまり捕まってしまっても、お別れが寂しくなるなぁ、と思っての旅立ちのつもりだったのだけれど、さすがにそうはいかないらしい。

どうせ同じ島にいるのだから、と思っていたのだけれど、スバルくんは口をもごつかせて、そのう、そのう、というようにちらちらと辺りを見回していた。「ミスミ様に、挨拶してこいって言われた?」 礼儀をきっちり重んじるらしい彼女ならば、そういうかもしれない。


    、べつにここに居座ってくれても、構わんのじゃぞ?

そう行って、ふわふわと体のまわりに雲を浮かせた鬼の女性を思い出した。ただしすっかり回復したらい、忍者の護衛は、相変わらず油断のならない顔つきで、じぃっと私を見ていたので、これ以上はと彼女は困ったように肩をすくめた。

別にいいのだ。ずっとここにいさせてもらえたら、きっととても楽しいと思う。
けれどもそれに慣れてしまいそうな自分が怖い。



「い、いわれたけどぉ……でも、別に、オイラは無理やり、来たとかじゃ、その……」 もごもご。

うん、と私は荷物を一旦道において、彼と同じく視線を合わせた。少しだけ、頬を赤くしながら、彼はいいーっと口を横にした後、「にーちゃん、ありがとっ。また遊んでくれよな!」

それだけ行って、ぴゅーん、と去っていく。「風の子だ」と小さく吹き出した後、元気でね、とハタハタ片手を振った。




さて、帰りますか、と荷物を担ぎ直したとき、ふと道の向こう側に男の子が見えたのだ。スバルくんよりも大きくて、頭が茶色で、その腕の中にいる召喚獣が、太陽光にあたってきらりと光る。「ナップく    」 彼は私と目があったと気づくと、彼は一目散に背中を向けて去っていく。「あ、ちょ、ちょ、待っ、待っ。ぎゃあっ!」

追いかけよう、としても、手に持っている野菜や米達が邪魔で走れない。あわあわ地面において、さあ追いかけるぞ、と拳を握った頃には、ナップくんの姿はもうどこにもいない。「あー……」



   ***



思わず逃げた。俺の腕の中でごそごそしていたアールが、ひょいっと飛び出して地面に着地する。俺は意味もなくバタバタ走っていて、さっさと船に戻るか、どこか集落に行かなくちゃ危ない、とわかっているのに、バタバタ走っていた。

走っていたら、ほんの少しだけ、心の中が楽になるのだ。
(……待ってろって、言われたのに……)

言われたのに、俺は飛び出した。船からかっぱらった、小さなナイフに、ほんの少しの勇気をもらって、俺は飛び出した。きっと俺だって、戦える。大丈夫。そう思って。(待ってろって、言われたのに)

後悔しても遅い。
きと俺は、自分自身とっくの昔に気づいていた。誰かを守りたい、負けたくない。そんなの嘘だ。ただ俺は、自分の居場所が欲しくって、ちゃんとした証拠が欲しかっただけなんだ。


「…………俺って、ガキだよなぁ、アール……」
「ピー?」

よくわからんよ、というふうに、アールは首をかしげる。気づいたら、俺は立ち止まっていた。腹の中がぐるぐるする。ガキなのだ。子どもなのだ。
(ちゃんと、謝らないと) 怪我をさせてごめんと、謝らないといけない。けれどもそするには、覚悟が足らない。

怒られることが怖いんじゃない。その反対だ。多分あのにいちゃんなら、「いいよ、いいよ、気にするなよ」と簡単に許してくれるんだろう。それが悔しい。甘やかされているようで、辛くなるのだろうか。


「悔しいな…………」

ふと、空を見上げた。
やっぱり、真っ青だ。




***

どこにでも、小さな波乱が、待っている

***





「アティ、そなた、この島に学校を作ってみぬか?」
     え?」




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2006.12.19~25執筆 69~70話
2011.08.25修正 36話