男の子のふんばり まあつまり、簡単にお話をまとめると、あんまりにも先生に構ってもらえなくて、ついでにいうとスバルやパナシェくん達に癇癪を起こしたナップくんとウィルくんが逃げ出して、ついでに帝国軍に捕まった。 帝国軍と言えば、アティさんが持つシャルトスを狙っており、ついでにいうと、彼らとアティさんはお知り合いということで……「あんまり簡単じゃなかったな……」 うむ、と私は軽い経緯を聞いて、頷いた。そしてそのままお家に帰った。 ノルシュには、全員集合と言っても、それは僕は含まれないんだからね、いいかい分かったかい含まれないんだぞ、ほら復唱!! とビシッと鷹に人差し指をさすと、彼は「くえー」と、どこかマヌケな声を出して、バサバサと翼を動かした。 「オラッ!! オラオラ! そんな当たり前な鷹のマネしても今更遅いんだぞ! こないだの恨みはしっかりと忘れてないんだぞう、しっかり復唱!」 「くかー」 「やる気ねー!!」 まったりしすぎである。 どうでもいい。 確かに、この島でいくつかの諍いがあれば、私だって困るだろう。力を貸せることなら、力を貸す。けれども、帝国軍VSアティさんという形は、どう考えたって、私個人には関係のないことだ。もちろん、ヤードさんがあの剣を施設から持ち出すとき、私も関わった。けれども、その剣がどういう意味があるものだなんて知らなかったし、今だってしっかりと理解していない。だから、今更そんな深く説明されても困るし、あっちだってしてこない。 あ、そうなんですかー。大変ですねー。がんばってくださーい。 軽い傷を召喚獣で治してもらった後、私はハタハタと手を振って、こっちのお家に舞い戻った。そんなことよりも日々の食料の方が重要だし、前にも考えたけれど、関わり合いになればなるほど、あっちの世界に戻れなくなってしまいそうで怖くなる。にいくら声をかけても、あちらからの返事はない。何かどんどん距離が遠くなっているようで、嫌な予感ばかりがした。 (遠くなる、というか、わざと、距離を置いている、ような……) 深く考えることは、やめて置いた。 そんなことばかり考えたって、気持ちが落ち込むだけで、何の意味もない。とにかく私は日々の生活を豊かにするのだ。そうすれば心に余裕ができて、もうちょっと視野が広がるかもしれない。さーぁお魚釣り、お魚釣り、それが終われば山菜集め……「なんですけど」「ん? 何?」「今からお魚で、それが終わったら山菜で、ついでにそれが終わったら自家製の菜園を作る予定なんだけど」「マジで? 本格的じゃん。がんばれー」 だめだ。この子、会話の裏というものを読んでくれない。 振り向くと、自分の視線よりも、ちょっと低い当たりにある茶色い頭がわさわさと揺れていた。ナップくんは頭の後ろに両手を置いて、ニカッと笑っている。腰には長剣。その足元には、お決まりとなってしまっている、小さな召喚獣が、「ピピー!」と元気よく片手を上げる。アールくんはお返事ができて偉い子ですね……とかそんな感想を漏らしている場合ではない。 「あのねぇ、ナップくん。きみ、この間ヤードさんに怒られたばっかでしょうが。こーんな風に目を釣り上げられてさ、ウィルくんと一緒に怒られてたじゃん?」 普段怒らない人ほどこわい、という奴である。「一体自分たちの行動がどれだけ迷惑をかけたのか、わかっているんですか」と腕を組んで、とつとつと言葉をとく彼の姿は、なかなかに怖かった。私はアティさんが召還したピコリットをぎゅぎゅっと膝の上に抱きしめつつ、なんだか自分まで一緒に怒られている気分でしょんぼり頭をたらしていると、「、あんた何やってんの?」とソノラさんが呆れたような声を出していた。正座してます。 「それで? 怒られた昨日の今日で、君は一体何をしに来たって言う訳?」 「ちゃんとここに来るって船のみんなには言ってきたぜ? 兄ちゃんのとこだし、別にいいですよって先生も言ってたし」 「……ええー……」 授業はちゃーんと終わらせてきたんだからなっ、と嬉しげに笑う少年の顔を見下ろしながら、なんだか複雑な気分になった。あっちに行けよう、と言外に出しても、全然聞いてくれないし、自分だってナップくんが嫌いな訳じゃない。寧ろその反対なのだ。「先生にもさ、俺、ちょっと認められたんだ。中々やるじゃねーか、ってなんだかんだ言って、カイルとかもゲラゲラ笑ってたしさ。別に俺、調子に乗ってるんじゃないぜ? 多分だけど。あぶないとこは一人じゃいかねーし、行く場所はちゃんとみんなに言うし、それに、」 ナップくんは笑った。「アールもいるし」 まーな! という風に、小さな召還獣は片手を上げた。私は思わず口元を苦くさせて笑った。「あのねぇ……」 空をバサバサと飛んでいる鷹を見上げて、ため息をつく。「僕は忙しいの。だから、ナップくんと遊んであげてる時間なんて、どっこにもないの」「なんだよそんなことかよ。手伝ってやるって。友達じゃん?」 ぎく、と肩を震わせた。「誰が」 硬い声が出た。「誰って」 何言ってんだよ、という風に、ナップくんは口の端を上げた。そしてふと、視線を下げた。「あのさ、兄ちゃん。こないだは、ごめんな」「こないだって?」 今度は彼はカラカラ笑った。忙しい表情だ。「俺、遊びに来てやるよ。の兄ちゃん、友達いないしさ。寂しそうでかわいそうだから、相手してやる」 それは余計なお世話だな、と冷たく口から吐き出した。っていうか、いるし。友達くらい、いるし。ベルとか。なんか友達って言ったらあれだけど、スバルくんとか、パナシェくんとかとも、遊ぶし。 むすっとした私の声に、ナップくんはカラカラ笑った。ただそれだけだった。彼は私の後ろを歩くだけだった。 本当に迷惑だったんなら、私はもっと冷たく、彼を突き放すことができたのに。ナップくんは、多分わかってる。いや、もしかしたら、そう思おうとしているだけかも。多分、私が出て行け、とあと三度も言えば、彼は船へと戻るに違いない。なのに私はいえなかった。距離を置こう、と思っているくせに、結局言葉を飲み込んだ。ナップくんは私の隣へ移動して、私が持つバケツをひったくった。「ほら、行こうぜ!」 フードをかぶっていてよかった。 顔が見えなくてよかった。 けれども結局口元は見えていて、私の顔を見たナップくんが、やっぱり嬉しそうに口を緩めて、そんな彼の顔を見た後に、私は慌てて自身の口元を隠した。 (別に、嬉しくなんて) まあ、あるよね *** 多分、少しだけ年の若い友人ができたその日の夜 私は真っ暗な、夢を見た。 BACK TOP NEXT 2011.12.31 |