続・男の子のふんばり 一言で言うと、キノコの幻覚症状だなんてなんの意味もなく、運ばれ損のくたびれ儲けでした。ちゃんちゃん。 という訳なんだけれど、クノンさんは別の意味で憤慨していた。強制的に機械集落、ラトリクスに詰め込まれた私は色々ひっぺがされて精密検査やらを受けされられた。できることなら逃げ出したかった。ローブ、ローブ! と思ったのだけれど、私を見たところでクノンさんは何の反応も示さなかったし、抵抗する暇もなかったし、相手も機械人形だということで、色々と諦めた。 「そもそも、あなたは栄養が偏りすぎです」 「はい……」 「同じものばかりを食べていてはいけません」 「はい……」 「今はいいかもしれませんが、年を取れば歯がガタガタになり、また新陳代謝もうんぬんかんぬん」 「はいぃ…………」 学校の授業を受けているよりも苦痛な時間からも解放され、ぼんやり椅子に座りながら奇妙にメカメカしい室内へと目に向け、ため息を吐き出した。ここが木ばかりが溢れる小さな島の中だなんて、信じられない。SFの世界にでもやっていたような気分だ。隣では、イスラがくすくすと笑っている。彼も私と同じ穴のムジナであるから、仲間が増えて嬉しいのかもしれない。 「久しぶりだね、」 「個人的には、あんまり会いたくなかったなぁ……」 イスラに会いたくないと言うか、こういう場所で会いたくなかったというか。ふー、と長い溜息を吐いていると、検査結果の確認が終わったらしいクノンさんが、再びひょこん、と顔を出した。また授業が始まるのか、と私が体を固くさせると、そうではないらしく、私達の前に仁王立ちにして立ちながら、「様、あなたは定期的なメディカルチェックを受けることをおすすめいたします」 おすすめされちゃった。 隣ではイスラが、「めでぃかるちぇっく?」と首を傾げている。横文字が分かるのは日本人だけだと思ったけれど、クノンさんも分かるらしい。ロボットだから? 「え、ええー。そんな、時間もないですし」「わかりましたか?」「なんか確定前提でお話されてるし……」 えええー、と苦い声を出せば、やっぱりイスラがケラケラとお腹を抱えて笑っている。他人の不幸は蜜の味、という顔だ。そんなイスラへ、クノンさんは顔を向け、「それではイスラ様、血液採取のお時間です」「えっ、僕も!?」「あっはっははー!」 今度は私が指をさして笑った。 イスラはくぬう、と唸るような顔でクノンさんと消えて行く。そういえば、イスラがここにいるというのに、レックスさんはどこにいるんだろう? なんとなく、イスラとレックスさんはセットのように思っていたのだけれど、ただの勘違いなのだろうか。 *** 「お鍋を作るのです!」 今日も今日とて、妖精さんはお元気ですなぁ、とひらひら飛び回る手のひらサイズの彼女を見ると、元気になるというか、気持ちが柔らかくなるのだけれど、朝一番にたたき起こされて、ずるずると半分ひっぱられるようにやって来たのか現在だ。 ユクレス村の庵の中で白菜を抱きしめ、周りをちらりと視線を巡らせた。 ベルフラウは案外器用にイモを洗って、皮を剥いている。その隣では、アリーゼがツインテールを揺らしながら同じく皮むきだ。もう少し視線を遠くすれば、緑色の帽子をかぶった少年が、黙々と野菜を洗っている姿が見える。召喚獣達は、そろって彼らの周りをうろうろしながら、小さな体でお手伝いしていた。 こうして三人が揃っていると、残り一人の姿がいないことが、奇妙に胸にひっかかる。しょうがない。なんたって彼は、現在“お仕事中”であって、私達は居残り組なのだ。「覆面さーん、白菜をちぎってくださいですー!」「はいはーい」 実は今、この島は危機にさらされているらしい。 いやそんなことは全く知らず、ぐうすかと寝こけていた私なのだけれど、あの喚起の門とかいう召喚獣こんにちはセンターから、ジルコーダというちょっと困ったさんな召喚獣がやって来てしまったらしい。もぐもぐ森を食い荒らしまくるものだから、どうしたもんだとすったもんだし、結局退治という方向で先生含み海賊さん軍団は気合を入れて出発したと言う訳だ。喚起の門というネーミングから、お騒がせの門という方に変更した方がいいんじゃないか。 自分よりも若い、というか、年下の男の子が、と不安に思う気持ちがあるけれど、このごろは実践をこなして、バリバリと強くなっていっている。すでに私なんかよりも、ずっと強く、そう、気持ちの面を含めても、強くなっている。 私はもしゃもしゃと白菜をちぎった。ちぎった。ちぎりまくった。 なんでこんなことをしているかというと、なんでも出立前に、ヤッファさんがマルルゥへと「鍋を作って待っとけよ」と言ったらしい。だからこそ、私と彼ら、そしてユクレス村の住人達も協力して大掛かりなパーティーの準備をしていると言う訳だ。ちなみにアイパッチの海賊の方は、「わしらの畑をー! 守るんじゃー!」「オスッセンチョォー!!!!」という流れで畑の周りをがっちり包囲している。陸の生活に馴染み過ぎじゃないか。 「……マルルゥ、もう、白菜はいいんじゃないかなぁ……」 「まだですっ、きっと先生さんたちは、お腹をすかせて帰ってくるのです、まだまだ足りないのですよー!!」 こんもり積まれた白菜の山を見て、えええ、そうかなぁ……と私は重いため息をついた。手元に白菜はもうない。そうなれば、遠くでがしゃがしゃと野菜を洗っている少年の元へと、受け取りに行かねばならないのである。気分が重い。「……あー、その、ウィルくん?」 のそのそ、と自分でできるかぎりゆっくりなスピードで近づき、声をかけた。無視だった。寧ろ、彼の足元のテコが、ぴくん、と反応した。「あの、これ白菜、いただくねー」 そっと手のひらを伸ばす。睨まれた。 (…………睨まれた………) 人に嫌われるということは、あまり気分がいいことじゃない。 そうなのだ。私はどうにも、彼に嫌われているらしい。とぼとぼ白菜を抱えて、庵にたどり着き、しょんぼり肩を落としながら、もしゃもしゃと悲しく白菜をむいてく。 一言二言ならあった。けれども、面と向かって話しあったことは、あまりない気がする。この間話したときは、そこまで嫌われているようには思えなかった。けれども今日会ってみれば、無言の重圧を延々と感じて、涙が出そうになった。嫌われる原因を考えてみる。思い当たることが多すぎて、考えるのもめんどくさい。 (まあ、嫌われるなら、しょうがないな) 嫌なことは嫌だが、理由もはっきりとは分からないとなれば、私一人がしょげこんでも仕方がないだろう。寧ろ、そっちの方が都合がいいはずだ。カズさんやナップくんのように、こっちにどんどんアタックしてくる人よりも、ずっと、(……ずっと?) 白菜を抱えて、ため息をついた。「ちょっと、。さっきから重っ苦しいため息ばかり、やめてくださいません?」「えー、ごめんー」「語尾を伸ばされますと、腹が立ちますわ」 申し訳ない。 ツンツンとしたベルフラウの言葉にもう少し体を小さくさせて、無言で白菜をもそもそはぎとる。瞬きをした。気合をしれた。そしてベルフラウに耳打ちするように、小声で話しかけてみた。「ねえベル、僕、なんでウィルくんに嫌われちゃってんのかな」 陰口のようであまり気分はよくないが、ぐだぐだ気になるくらいなら、身近な人間に確認した方が手っ取り早い。 ベルフラウはとんとんとん、と包丁を動かしながら、「知りませんわ」「ええー」 っというか、知りませんということは、やっぱり私が嫌われてしまっているということを肯定している。それじゃあ、アリーゼに、と目を向けると、彼女は困った風に微笑んで、口元に人差し指を立てた。知らない、というよりも、秘密、というようなニュアンスな気がする。 ため息をついた。するとすぐさまベルフラウが、「それをやめなさいと言っているでしょう」とビシッとこっちに包丁を向ける。怖い。 ですよね、と両手を上げて、もう一回ため息をついた。今度は思いっきり呆れたような瞳をこっちに向けられた。アリーゼは、やっぱり困ったように笑っている。 ベルフラウは、手に持っていた包丁を、ことん、と一度まな板に上に置いた。そしてじっと私を見上げ、「別に、あなたは悪くありませんの。ですから何も考えなくて結構ですわ」 私が何かを言いたげに口元を動かしたのを、見られたかもしれない。それより先にと彼女は口を動かす。 「ウィル兄様は、マルティーニ家の長男です。だから、私たちよりも、考えるべきことが多い。ただ、それだけの話よ。……例えば、弟のこととか」 ええっと、つまり ぺしぺしと背中を押され、ふらふら体を動かすと、なんたることか、ベルフラウは、追加のセリフを叫んだ。「ウィル兄様、だけでは量が多いと思うの。だから一緒に薪を取って来て」 そもそも、ウィルくんがオッケーと言うはずがない。「何言ってるんだよ、ベル」となるべく冗談めかして言葉をかけようとすると、先程までばしゃばしゃと金たらいで野菜を洗い続けていたウィルくんは、すっくと立ち上がった。そして、ちらりと私を見た。「行くんでしょう。さっさとしてください」「あ、はい……」 年下の少年と、小さなネコ型召喚獣の先導のもと、私はとぼとぼ、ぽてぽてと森への道を歩いた。ねーよ。 BACK TOP NEXT 2007. 02.07~02.21執筆 79~80話 2012.01.22修正 45話 |