続・男の子のふんばり 「……大丈夫なのかな」 ふと、妹が呟いた。手の中にあるじゃがいもをじっと見つめて、心配気に眉を垂らして、ついでに左右のツインテールまで垂れてしまっている。私はとんとん、と包丁を動かしながら、ちょっとだけ笑った。こんなこと、家にいたときは、全然できなかったことだ。「大丈夫よ、アリーゼ」「でも」「だって、ウィル兄様は賢いもの」 だから反対に、悩んでしまうのだけれど。 「進んでみたら、案外楽に行くものだって、分かるわ。一歩踏み出してみればね」 *** ざくざくと足をすすめる少年を背中を見ながら、ベルフラウの言葉を思いだして、少しずつ理由を考えていった。 (ナップくんは、今、兄弟で一人、戦いに行っている) そしてウィルくんはここにいる。それが悪いことな訳じゃない。どちらを選択するかは、個人が決めたらいい話だ。けれどもそれは、ただ感情面から切り離して出た答えであって、実際踏み込んでみると、正直なんとも言えない。 私は足元に落ちる、なるべく軽い枝を選んで持ち上げた。燃やすなら、こういう枝の方が都合がいい。「ウィルくん、なるべく軽い」「わかってます」 ピシャリと言葉をたたきつけられてしまった。あはは、だよね。と頭をひっかいてごまかしてみても、彼はこっちを振り向くことはなかった。ただ足元の召喚獣が、ちらりとこっちを見て二股にさけた尻尾をしょぼんとさせている。 (ナップくん、ねぇ……) ナップくんが、剣を持つようになったきっかけは。 (私と、言えなくもないのかな) どうだろうか。彼は特に何も言わないけれど、少なくとも理由の一つにはあると思う。 そうかあ、とそこまで考えて、息を吐き出した。ウィルくんは、そのことで憤りを感じているのだ。けれども、それは理不尽だとも思った。それをいちいち口に出すくらい、大人気なくはないつもりだ。 ただ、多少不愉快に思う気持ちはあるけど。「さっさと帰りましょう」 あんまりにもトゲトゲした言葉を投げつけられて、苦笑した。だから思わず嫌味な言葉を投げてしまった。「ウィルくんって、子どもなんだね」 そう呟いた瞬間、彼はカッと顔を真っ赤にした。持っていた枝を、ばしりと私に投げつけ、ハッとした顔をする。私は、「あー……」と言いながら、地面に落っこちた枝を見下ろした。ローブがあるから、別に痛くもなんともなかったのだけれど、それよりもウィルくんがやってしまったというように顔を歪ませていることに申し訳なくなった。「ごめん、ウィルくん。ちょっとからかい過ぎた。ごめんね」 そう謝ると、またウィルくんは怒ったように顔を上げた。「なんで、あなたが」 そこまで勢い良く叫んで、苦しげな顔をしたまま、残りの言葉を吐き出す。「謝るんですか」 悪いのは、僕じゃないですか。 そういうと、ウィルくんは唐突に座り込んだ。彼の足元に、心配気にテコがちょいちょい、と足をのっける。私はさくさくと木の葉を踏みしめて、彼の隣に腰を下ろした。彼は微動だにしなかった。 私は彼の手のひらを掴んで、ぐい、と持ち上げた。彼はきょとんとして、驚いた顔で私を見上げてる。 私はぽんぽん、と彼の背中を叩いた。彼の瞳に、こんもりとした液体が噴きでた。けれども、すぐさま彼はそれを拭った。「言いたいことがあるなら、お腹にためないで、言っちゃった方がいいよ」 前に、先輩が言っていたことだ。 どちらかというと、言いたい言葉を飲み込んで、にこにこしている先輩だから、あまり説得力のない言葉だと思ったのだけれど、『僕は、人よりも腹の中に貯めることのできる量が多いから、言わないだけだよ』と私の頬をぐいっと引っ張ったのだ。それができない人は、吐き出すに限る。 あの頃と比べて、私はお腹の中に貯めることのできる言葉は多くなったと思う。目の前の彼はどうだろうか。大きいだろうか。小さいだろうか。 何か言ってくれるかな、と期待した。けれどもやっぱりダメだった。ウィルくんはぶるぶると首を振った。それだけだ。当たり前だ、私は彼に好かれてはいない。ぽんぽん、と背中を叩くと、ぽとん、と一粒だけ涙が落っこちた。鼻をすすったウィルくんは、ぱっと私から離れて、落ちた枝を拾った。私も彼と背を向けて、枝を拾い集めた。「すみません」 ただ一言、謝られた彼の言葉に、「いいええ」とおばちゃんくさく返答して、私とウィルくんは並んでユクレスの村へと帰った。包丁を片手に持ったベルフラウは、ちらりと私とウィルくんの顔を見つめて、少しだけ嬉しそうに笑った。私がウィルくんを見ても、行きと、帰りと、顔がどう違ったかなんてわからなかったのだけれど、さすがの妹は、そうではないのかもしれない。 「おかえりなさい、、ウィル兄様」と笑っていた。 BACK TOP NEXT 2007.03.10執筆 81話 2012.01.22修正 46話 |