続・男の子のふんばり





「スバルくん! 右に曲がれ!!」
     分かった!!」
「パナシェくん、君は反対方向へ!」
「うん!」
「イスラ! サボるなァァアアア!!!!!」



あー、疲れたー、と言いながらナチュラルに木陰に避難しているもみあげ男子を除き、私達は奮闘した奮闘した。頑張った。フレフレ、フレフレパナシェ! フレフレスバルー! というマルルゥの可愛らしい声援と、野太い男性陣の声を耳にて、多少なりとも複雑な気持ちになる。いや、応援してくれているのだから文句は言ってはいけない。

モグラ達は意気揚々に顔を出し、ニヤニヤッとした後に、振り下ろした瞬間には、既にその場には何もいない。時にはついでとばかりにこっちの体をひっかいて、へっへーい、と尻尾を見せながら去っていく。すばやい。激しく素早い。ジャキーニ達がボロボロである理由を、今更ながらに理解した。「小憎たらしいモグラじゃー!!!」「いてこませー!」「もっとお前ら本気だせー!!」「モグラ鍋にしてやるぅー!!!」

恐らく既に返り討ちに遭ったであろうムキムキ達の叫び声を耳にした。なんだか物哀しい。「どうしよう、さんッ……!」 パナシェくんが、私の背中にくるんと位置し、苦しげに眉を寄せた。畑の真ん中にてお互い背中合わせに作戦会議をすれば、こちらをからかうようにモグラ達が頭を入っては出し、入っては出し、両手をぱちぱち合わせながら地面にもぐる。「う、ううう……!」「落ち着けパナシェくん、ここで怒っちゃあっちの思うツボだよ!」

ところで心持ちシリアスな空気だけれど、実際のところを言うとただのモグラ退治であり、報酬のご飯目当てなのだけれどそれを思い出すと少々寂しくなりそうなので、とりあえず一旦忘れることにする。

私はシュシュシュシュッとまるで分身するように体を飛び出させるモグラを睨んだ。「……なるほど」 頷いた。「ふたりともよく聞いて。モグラ軍団は、一定の行動パターンに基づいて、チーム的にこちらをおちょくっている」
「なんかカッコよさげだけど、情けないね」
「いいかい、パナシェくん、スバルくんの方を見てみろ」


サッと私は指をさした。丁度そこには、取り敢えず木陰からよっこらしょと歩いて、畑の端っこで直立不動している。走りだす度にブハッと血を吐き出しそうな勢いだったので、むしろおとなしくしてくれている方がいいかもしれない。見ていて怖い。
そんな彼を無視するように、モグラはスバルくんの近くへとシュシュッと頭を飛び出し、沈ませた。スバルくんが合わせてピコハンを震わせたときには、すっかりもぬけのからである。

「ほら、今モグラが、スバルくんの近くで飛び出したろう?」

うん、とパナシェくんが頷いた事を、背中越しに感じる。そして私はそのまま説明を続けた。

「アイツらは、既にイスラを戦力外と考えている。今おちょくっているのは、スバルくんとパナシェだけだ。それで一定のパターンがある事が分かる?」
「え? どういう事?」
「ヘルモグラは、叩かれそうになると地中に潜る。……そして、違う場所へと頭を出す。コレは一瞬で行われる。端から見ていると、それは全て一匹で行っているようだけど、違う」
「それは分かるよ、二匹、だよね」
「違う」
「え?」

いい反応だなぁ、と私はちょっとだけ調子に乗って、指先をぴん、と伸ばした。「三匹だよ」 でも、とパナシェくんが言いよどむ。私はまたニマッとした。「アイツらは、意外と地中を移動するスピードは速くない。だから、二人の人間を三匹でおちょくるのが限界なんだ」
「何で、三匹だって分かったの?」
パナシェくんが、不思議気にちらりと顔をこちらに向けた。思わず口元を上げる。


「アイツらは、ヘルモグラだ。ただのモグラとは違う。そう、体中に激戦の後のような傷が残っているくらいね。……それが、丁度三匹、違うってだけさ」
「なんだか笑えそうで笑えないね」

確かに、ギャグにしか聞こえない。


***


傾向がわかった所で、すぐさま対処ができる訳じゃない。私たちは炎天下の中、(イスラを除いて)走りまわった。ついでとばかりにノルシュまでバサバサ羽を広げながら、必死にモグラを突っつこうとしたものの、中々うまくいかない。ううう、と焦れた。しれていた。そのとき、グイッと足元を引っ張られた。「うあっ!?」

目を下に向けてみれば、モグラがギュッと私の足を抱きかかえて穴に片足をひきづりこませている。慌てて私はピコピコハンマーを振り上げ、左手を支えにしたものの、振り下ろした先には、モグラの影すらいない。グッと唇を噛んだ。けれどもそのままニヤッと笑った。「     スバルくん!」「まかせろぉっ!」

あのモグラは頭がいい。人間一人ががギリギリ移動できる距離から少し離れて、おちょくるためにひょいっと顔を出すのだ。つまり、私一人がいつまでもモグラと対決していても、意味がない。なんてったって、距離が足らないから。足の長さも足りないから。だからこそ、一人ではない。もう一人が、先の位置を予測して、スタンバイしておけばいいのだ。スバルくんは即座に腕を振り上げた。「「うらあああああああ!!!!!」


     いけるッ!!!

確信した。全員がグッと息を飲み込んだ瞬間だった。先の展開を期待して、足が穴に入ったまま、ギュッと拳に力を入れる。ピコォオオオオンッ!!! と平和的に、殺人的な音が響く、と思ったのだが、いつまでたっても音は聞こえない。そのうえ、スバルくんは振り下ろす直前で腕を止め、カチンコチンに固まっている。その先には、ヘルモグラではない、青いペンギンのようなフォルムの何かがぴょこん、と顔を出していた。「…………テテ?」 なんだか涙目である。

「………あの、みんなが遊んでると思って、仲間に入れて欲しかったんだって」

パナシェくんの、通訳が、ぼそりと聞こえた。


「うわあああああ!」

そんななんともいえない空気を余所に、スバルくんの叫び声が、辺り一帯に響いた。「モグラが、足を!」と叫ぶ彼に、軽く舌打ちをして、私は足を穴からひきぬく。「そのまま続けるよ! 次、配置について!」 パナシェくんとスバルくんへ、目線を送る。スバルくんは多少苦しそうだったけど、頷くと同時に、未だ引っ張り続けられる足下へと、ピコハンを振りかぶった。わかっていたことであるけれど、モグラは姿を消し、スバルくんは、バタリと畑の中へと倒れ込む。

     次!」
「はい! て、うわあああぁあああ!!」

パナシェくんへ合図を送った瞬間、ガクリと彼のバランスが崩れた。二匹目     ごくっと息を飲む音がきこえる。パナシェくんはスバルくんい倣うように赤いハンマーを振りかぶった。パナシェくん! 私が必死に拳を握っている間、オウキーニさんの悲鳴が聞こえた。「はん! 後ろや……!!」「え?」

後ろ、という言葉が聞こえたものだから、何も考えずに振り返った。そしてその物体に気づいたとき、私はダラダラと汗がこぼれた。「お、お、お」と口から意味不明な言葉がもれる。目の前に、ひどく丸いものがあった。見事な丸だった。どれくらい丸いかといえば、小学校の時使った、コンパスで出来た丸の如く、くるりと見事に丸かった。
そして、青かった。くるりと丸い体の中に、またまたくるりと丸い瞳がある。それは、エメラルドの可愛い瞳をしていて、パチパチッと私を見て瞬きする。こんにちは。
彼の頭の上には、小さなちょんまげがのっかっている。いや違う。

     導火線んんんん!!!!!」

私の叫びに、びくりとその子は震え上がって、ボッと頭の上に火が灯る。いや、灯る程度なら、まったく問題がなかったんだけど、ボボボボボッと勢いよく燃える上がる、その導火線は、恐ろしいスピードで本体へと近づいていく。


どんどん短くなるその導火線を見つめながら、私はただ呆然と、「そういえば今年、花火とかやっていないなぁ」と考えた。
もしあっちの世界に帰ったら、花火をしよう。いやリィンバウムにあるんだろうか。あったらいいなぁ、そんな感じ。
ゆっくりと視界が白くかわり、何かが激しく押し付けられた。激しすぎる轟音で、反対に何も聞こえない。ローブがばさばさと翻る。ついでに頭の中も真っ白に変わる。気づけば、私は地面に顔からつっぷして、ぷすぷすと焦げ臭い匂いを放っていた。「さん!?」「はん、大丈夫でっか!」

顔中と体中が痛い。ゆっくりと体を起こし、臭い匂いに鼻を押さえた。誰にも見られないようにとゴシゴシ顔を両手でこする。「……ふ、覆面さぁん!」 慌てたようにすっとんできた妖精が、ぐるぐると私の周りを回っている。私はただ、畑に両手を着いた。目の前にはモグラ達がニコニコニヤニヤして、こっちに手を振っている。一部、尻を出してフリフリしている。

「…………ふざけるなよ」「……覆面さん?」 私は長く、息を吐き出した。そして即座に立ち上がった。「ふざけるよおおおおおお!!!!!」「「ふふふふふ覆面さーーーーーーーん!!!???」

これが腹を立てないでいられようか。私は懐から即座にナイフを取り出した。ぎゃー!! と悲鳴が聞こえて、「おおおおお落ち着け、落ち着くんじゃああああぁぁあ、気持ちは分かる!!!」と意外な人物からのストップの声にも目もくれず、「うらぁっ!!」
「「「「「ギャーーーーー!!!!」」」」」


ナイフは真っ直ぐな起動を描き、モグラの側面にグサッと突き刺さった。さすがのこれにはモグラも驚いた様子で目をぱちくりして、そっと自分の隣に突き刺さるナイフを見つめる。「スバルくんっ!!」 スバルくんはハッとした様子でポカリとハンマーをたたきおろした。ぴこん、と微かなおとが聞こえる。おしい!

消えたモグラの次の出現位置を予測する。 おそらくモグラは、ひどく混乱していた。やりすぎた、と後悔しているかもしれない。おちょくっている場合ではない。とにかく、安全にこの場から退避しなければならない。けれどもやっぱり、やられっぷりは腹が立つ。最後っ屁を放つ。私はパチッと瞬いた。

あんまりにも簡単な答えだった。
モグラは再び地上へと顔を出す。それが最後のときだとは知らずに。自分の間違いに気づく事なく。……顔を出す。


「行け!     イスラ!」

確かに、彼はあまり体が丈夫な方ではないかもしれない。
走る、息切れ。立ちくらみ。こいつなら逃げ切れる。そうモグラは判断したに違いない。けれどもそれは、甘い考えと言うものだ。イスラは笑った。にっこり微笑んだ。「甘いなぁ」 モグラはギョッとして彼を見上げる。おそらく、最初から最後まで、歯牙にもかけなかった相手に、驚愕の瞳を見開く。イスラはただ、嬉しそうに笑っていた。「僕だって」

     振り下ろすぐらい、簡単なんだよ」




ぴこーん


音が、響いた。



***




「え? いいんですか、こんなにもらっちゃって」

自然と嬉しさからか、声が高くなってしまった。そんな私を見て、マルルゥはにっこりと微笑んで、腰の後ろへ手を回し、ふわふわと飛んでいる。「覆面さんは、ご飯が大変だそうですから、ちょこっとおまけです」と。
え? 何ソレ、もしかして私哀れみの目で見られてる? っていうか何で私の食事事情知ってるの? と色々と突っ込みたくなる気持ちを抑えて、ありがたくいただくことにした。嬉しすぎてたまらない。

両手いっぱいに抱え込んだカゴを見つめて、「でもなぁ」と私は思わず渋い声を出した。嬉しいことには嬉しいけれど、「モグラを一回叩いたくらいで、こんなにもらうのは……」

別に退治した訳でもなんでもない。多分彼らはまたあの畑へやって来るであろう。
気まずい気持ちはあるものの、返し難い果物を抱きしめていると、ジャキーニがガハハ! と笑った。「、なんじゃそんな事気にしとんのかい! 器が小さいのう!」 なんだとう。

「最初にいったじゃろ。懲らしめるだけでええってな。スカーッとしたわい!」
「単純な頭ってホントにいいなぁ」
「おい」
「空耳です」

まぁ、当の本人達がいいってんならいいんだろう。そう納得する事にした。隣では、私よりもほんの少し少ない量の果物達を抱えたスバルくんとパナシェくんがいる。イスラも抱えているけれど、どこか苦しげなので、私がひょいっと代わりに持ち上げた。ノルシェは相変わらず鷹の姿で、バサバサと空を飛んでいる。


気づけばとっぷりとくれていた夕日を見つめて、オウキーニさんがはたはた、と私たちに手を振った。周りの船員たちも、多少あごが飛び出ているが、朗らかな顔つきで手のひらを振っている。「また出たら、今度もお願いしますわ」 私は少しだけ考えて、「報酬付きんら、嬉しいんですけど」とちゃっかりしたセリフをいうと、「もちろん。マルルゥはんたちが、よしっていわはりますんなら」 マルルゥは、「もちろんです!」 と笑って両手を広げている。

それじゃあ、お暇なときは、またお手伝いに来ますよ、と言葉を残して、私はイスラの分まで荷物を抱え込み、てこてこと帰宅した。ところで不思議に思うことがあるのだけれど、ヘルモグラとは、誰が命名したのだろうか。激しく横文字な気がするんだけど、クノンさんも英語を使ってるみたいだし、案外リィンバウムでも、こういう言葉は珍しくないのかなー、と新たな疑問が増えた日であった。





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2007.04.26~05.05執筆 86~87話
2012.01.26修正 50話