軍人その他いらっしゃい




この間の廃坑でのジルコーダ騒ぎにて、すっかりお流れになってしまっていたメディカルなチェックなのだが、このまま忘れてくれていたらいいものの、たまたま出会ったクノンさんに怒られてしまった。「様、準備はいつでもできていますので、中央管理施設にてお待ちしています」 とのことだ。

この間行った建物の名前だろうな、と適当にあたりをつけて施設内を歩くと、どうにも妙な気持ちになる。少し視界をそらせば見える森の頭が、まるで別世界のように、メカメカしい光景が広がる。何度見てもなれない。(もしかして) 未来の日本って言ったらこんな感じなのかなぁ、と円形の小さなロボットの軌道上を避けながら考えた。とにかく、それを確認するには元の世界に還らないといけないけど。

カンカンカン、と鉄板の上を歩いているような音が響く。むずむずする。コンクリートなら、まだどこか慣れた気持ちはあっただろうに、銀色の組み合わさったパーツが、ときどきちかちかと点滅すると、何かしでかしてしまっただろうかと一瞬びっくりする。

何度か息をついて、てくてくと歩いた。また後ろから、今度はさっきよりも少しだけ大きなロボットががしゃん、がしゃん、と二足歩行で歩いてくる。両手には器用に小さなストロー付きのボトルを持っていた。「喉・乾いてます・カ?」「おおう!?」 しゃべった!? と勢い良く後ずさると、ロボットがこくりと首をかしげて、うぃいいん、と電子的な音を出しながら両手を突き出す。

「ドウゾ」
「えっ」

思わずロボットの手元を見つめて、「あ、お金ないんで……」 パッと飛び出たセリフはそれだった。なんだか悲しい。「イリマセン」 ぱちぱち、とロボットは瞬きみたいに瞳の灯りをつけては消す。それじゃあ、いただこうかなぁ、と彼、(彼?)の手元からボトルを頂いた。蓋の部分に、OILと書かれていた。オイルって。「あの、お気持ちだけで……」「そうです・カ?」

頑張っても飲めないんで……と返したのだけれど、ロボットはきゅっと私の手の中にオイルを握らせた。そしてがしゃん、がしゃん、とバランス悪く歩きながら、近くの機械へと、「喉・乾いてます・カ?」

ラトリクスにも、サービス業みたいなものがあるのかなぁ、と片手に持つ油のボトルをぼんやり見つめた。


***


たすけてくださいでありますー


カコン、カコン、カコン、と音を響かせながら、中央管理施設を目指す。多分、あの一番大きな建物だな、と足を動かしていたのだけれど、一瞬、どうにも奇妙な声が聞こえた気がした。私はカコカコと足音を出しながら、ぼんやりと聞こえた電子音の元へと歩いた。右手に持つ油のボトルがじゃぼじゃぼ鳴る。

だれかーでありますー

気のせいじゃない。何か助けを求めているらしい。何故微妙に軍人口調なのか。一体彼(……彼?)は何に助けを求めているのか。気になる部分は多くあったが、慌てて足を動かした。何かしょうこりもないことに巻き込まれてしまったらどうしようかな、とふと頭の底で考えたのだけれど、その時は特にそこまで気にせず、駆け抜けた。そして後悔した。


「あっ、もうちょっと! もうちょっと右であります!!」
「こっちかー!」
「ああああもうちょっと丁寧にーっ!」
「こ、こうすか……。おもっ」
「うぐおお!? 落としちゃだめでありますー! あああっ、振動がー! 振動がー!」
「ええい注文が多い……!!」


私はえんやこら、と瓦礫の山を持ち上げて、そろそろと端っこに寄せて、また持ち上げて、寄せての単純作業を繰り返した。なんでも、このスクラップ場の中に、埋まってしまって出られない人がいるらしい。それは大変と誰かに助けようと去ろうとすれば、「み、見捨てないでくださいでありますー!!!」 と泣き叫ばれ、違うよ違うよといくら釈明しても、彼はおんおんと泣くだけであった。

でもまあ確かに、生き埋めになってしまったというのであれば、素早く迅速に救出する必要があるかもしれない。「わかった!」と頷き腕まくりをして、えっこらせよっこらせと無駄に積まれたガラクタを持ち上げ、下ろしを繰り返して、ぼたぼたと汗を流しに流したというのに、いつまで経ってもお目当ての人物にたどり着くことがない。

「……いったい、きみは、どこまで深く埋まっちゃったの……!!?」
「も、もうちょっとでありますから!」

頑張ってください!! と随分長い時間埋まっているであろうに、意外と力のある声を出している。「怪我とか、しちゃってない?」「はあ……そっちの方は大丈夫であるのですが、なにぶん予備電源の方が……」「電源?」


この人何を言っているんだろう。
酸素ボンベが何か携帯していて、それで息を繋いでいるとかそんなんだろうか。だと言うんなら、もっと本気を出してスクラップ達をひっぺがさなくてはならない。ぼたぼた、と汗が腕を伝って機械の上に落ちる。「あー……」 長くため息を吐いた。こんなことなら、誰か助けを求めた方がよかった。けれども今更そんなことも言っていられない。もう少しだと言うのなら、その言葉を信じるしかない。

「えいらっしゃー!!!」

あんまりにも疲れはてて、自分自身よくわからない単語が口から飛び出た。
ちゃぶ台返しのごとく、両手で大きな鉄版を持ち上げ、投げ捨てた。響く振動を足に感じて、もう少し丁寧に、と言われたことを思いだしても遅い。「あっ」と私は焦って、アレキの中の無視へと声をかけた。「ごめん、大丈夫!? 生きてる!?」

返事がない。まさか、と唾を飲み込んだとき、丁度私が鉄版をひっペがしたあたりに、機械の胴体が逆さまになって埋まっていた。あんまりにもそれが大きいものだから、重力に従ってバランスを崩した機体は、すっぽ抜けてがらがらがら、と坂道を転がり落ちるように、積まれた機械の中を転がり落ちた。私は思わずその様を見つめた。けれどもそんなことをしている場合じゃない。「おーい! 返事、返事!」 やっぱり返事はない。どうしよう、と顔に手を当てると、「……ああー、久しぶりの……太陽光であります……!」

さっきまで聞いていたはずの声が、何故だか背後から聞こえる。おかしいな、と思った。振り返った。そこには、さっき落ちたばかりの、図体の大きなロボットが、体を正面に向けて、瞳をピコピコ照らしている。「生き返るでありますー!!」


私は彼を見つめた。そしてうずくまった。
なんだか頑張り損な気がした。




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2007.05.24~06.24 執筆 92~93話
2012.01.29修正 53話