軍人その他いらっしゃい




人命救助だと思って掘り返してみれば、出てきたのはロボットだった。電子音の声だったということと、ここが本当に私を含めてたくさんのはぐれがいるということをすっかりと忘れていた。クノンさんだってロボットなのである。ましてやここはラトリクスなのである。ロボットが埋まってたっておかしくない。いいや埋まっていないはずがない。

とか、必死に考えてみた。ロボットだったんなら、息をする訳じゃないし、あんなに私一人が必死になって掘り返す必要なんて、どこにもなかったんじゃないかなぁ、と理不尽なような、もんもんとしたような気持ちを抱えながら、唐突に製造ナンバーやらの奇天烈な数字は、ほぼ聞き流していた。最後に聞こえた単語を拾って、「えー、、ヴァリエルドくん?」

「ヴァルゼルドであります」
「うん、ヴァリンデルド」
「ヴァルゼルドであります」

どうぞ親しみを込めて! 親しみをこめてヴァルゼルドとお呼びください!! と元気に挨拶するロボットは、どうにも私が知っている、もう一人のロボットとは違うらしい。表情はないというのに、感情豊かなロボットだ。「まったく、機械だって言うんなら、一番最初に言っておいて欲しかったな。びっくり仕損だよ」

もー、と怒りながら、私はこつん、と彼の頭を軽く叩いた。瞬間、エメラルドに光っていた瞳らしき部分が、チカチカチカッと激しく電池切れな蛍光灯のように点滅を始めた。「え? え? え?」 そんなに思いっきり叩いてない。軽くしか叩いてない。だというのに、ヴァルゼルドは何も言わない。代わりに瞳が何かを叫んでいる。唐突に、彼の瞳が赤く変わった。「えっ!!?」 なにこれ。どうしようなにこれ、もしかして、これ、

「ばばばばバグッちゃったーーーーー!!!!???」




***



「あまり、手を煩わせないで下さい」

淡々と抑揚のない声で怒られると、どうにも胸につくものがある。「まったく、いつまで経っても来ないと思ったら」 彼女の表情は変わらないけれど、ぷんぷんしているように見えた。「あの、ごめんなさい」 ヴァルゼルドの頭の基板をパカッとはがして、カチャカチャと手際よく何かをいじりながら、新しく何かを入れるクノンさんの背中へ謝った。彼女はため息をついた。それだけだ。



何で、こんなところにクノンさんが居るのかというと、ヴァルゼルドに思わず最後のトドメをさしてしまったらしい(らしい)私は、「ギャーーーー!」と叫びながら中央管理施設へ死ぬ気で走った。自動スライド式のドアの向こう側には、この間のお鍋の宴でポロポロとお話させていただいたアルディラさんが、ぽかんとした顔をしてこっちを見ていた。私はあんまりにも焦っていたものだから、両手をあわあわとさせながら、「大変ですスクラップでチョップしたら壊れちゃった! どうしましょう!」

それだけじゃわからないわ、と当たり前にも言われてしまったので、スクラップ場から声が聞こえたところから懇切丁寧に説明すると、アルディラさんは重いため息を一つついて、クノンさんを呼んできれくれたのだ。「私もお人よしになったものね」と彼女はぽつりとつぶやいていた。




「まったく、アルディラ様に、あまり失礼な事をなさらないでください」

一瞬飛ばしていた意識を、思わずこっちに引き戻す。「いや、その、僕もびっくりしたっていうか……」 クノンさんはアルディラさんが大好きらしい。彼女に仕えているそうだ。今度アルディラさんに会ったら、きちんとお礼を言って、謝ろうと頷いていると、「様、聞いているのですか」と、また怒られてしまった。


クノンさんの手元を見てみると、何色ものコンセントをとって繋いで、新しい部品と古い部品を取り替えているようだ。正直こっちに知識がないので私にはよくわからないが、部分が古くなっていたということだろうか。そういえば、予備電源がどうとか、彼はスクラップ場に唸りながらうめいていた。ちなみに現在ヴァルゼルドは機能をストップさせていて、瞳の部分も暗い。「……結構消耗してて、ピンチだったってことかなぁ……」

ふと私が呟くと、クノンさんはちらりと私を見た。「様、前々から思ってはいたのですが」「はい、なんでしょう」 いきなりなんだろう。クノンさんが、こういう話の切り口をすることは珍しい。思わず居住まいを正した。


「あまり、そのような事をいうべきではありません」、と彼女は手元を動かしながらつぶやく。何のことだか分からない。私の無言でニュアンスを受け取ってうれたのか、「その言葉は、私達ロレイラルの民しか知りえないものです。あまりむやみやたらに口を開いては、自身の素性を話しているようなものです」

私は思わず口元に手を置いた。気をつけていたつもりなのだけれど、クノンさんに英語が通じるとわかっているからか、気が緩んでしまったのかもしれない。「あ、あー、あー」 思わず頭をかいた。彼女はこちらを無視するように、手元をいじっている。なんとなく気まずくなった。けれどもふと気づいた。「あの、心配とかしてくれたんですか」

それなら少し嬉しいと思う。彼女は一瞬だけ手の動きを止めた。そして眉を顰めた。違います。そう答えが返ってくるに違いない、と思っていたのに、彼女は、「いいえ、違います、ただのお節介です」「お節介ですか」「ええそうです」

気のせいだろうか。彼女と出会って、私はそこまで月日が経っている訳じゃないけれど、何故か一番最初に会ったときと、ほんの少し印象が変わっている気がする。あはは、と笑うと、バシッと叩く音がして、ヴァルゼルドの機体が、ビイインと音を発して振動している。余計なことを言うのはやめようと、殊勝な態度で頷いた。「わかりました、気をつけます」「はい、気をつけてください」「おせっかいついでですが」「はい、なんでしょう」

クノンさんは、かぱりとヴァルゼルドの頭部分に、鉄の蓋をした。「この、機体は、機械兵士といいます」「なんだかかっこいい名前ですね」 ちゃかしたような返答をすると、また睨まれた。

クノンさんは油だらけになった手のひらを布で拭き、「これは人を殺める兵器です」


ふと、彼女の言葉の意味を考えた。(……兵器?) すっかり修理も終わったらしい、機体が、のそりと横たわっている。太陽の光が、黒塗りの体に反射した。堅そうだ。強そうでもある。「え、でも、すごくお調子者っぽい子でしたよ」 助けてくださいでありますー、と軍人口調で、見ようによっては可愛らしさもあった。「それは知りませんが」 とクノンさんは首を振る。当たり前だ。まだヴァルゼルドは、スイッチが入っていない。

ええっと、と私は言葉を考えた。「だからその、大丈夫じゃないかなって……」「楽観的な思考は危険を招きます」「いや、楽観的っていうか……」

見てください、とクノンさんは、さきほど修理の終わった蓋部分をぱかりとひらいた。その中には緑色の基板がつまり、いくつもの黒いチップがはめこまれている。クノンさんはその一つを指でさした。

「これは戦いの最中に一部分が壊れてしまっても、予備の部分さえあれば稼働することが可能となるように作られています。つまり、戦略に特化されたプログラムです。このコア一つ一つに、戦いの戦法、効率、全てが書き込まれているんです」

アナタが直してくれといったものは、こういうものなのですよ、と暗にいわれた。これはひどく危険なものなのだろう。自身の体でさえも武器になる彼女が、これだけ難しい顔をしている。
正直、言うのであれば、この機械兵士も、私が持つ鈴鳴も、ソノラさんが持つ銃も、召喚獣も、全部同じように感じるのは、私が別の世界からやってきたからで、その上この兵士がどれくらい大変なものなのかということを理解していないだけかもしれない。人を殺す機械だと言われても、銃だって刀だって人を殺す。どっちにしろ怖いものだ。

銃も刀も一人でに人を傷つけないけど、機械兵士はそうじゃないと言いたいのだろうか。そこまで考えて、それならおかしいな、と思った。それだけクノンさんが難しい顔をするのならば、なんで彼を直したんだろう。そっちの方が変だ。「クノンさんが、直しちゃいましたけど」

クノンさんは、もどかしげにタオルを握りしめた。けれどもやっぱり、表情はいつもと変わらなかったので、ただの私の想像かもしれない。彼女は薄い唇を動かして、「この機械兵士は、私と同じ、同郷の者ですから」

ただそれだけです、と続けたかったのかもしれない。「あなたに責任があります。もちろん私にも」「……最初に言ってほしかったな、と思いました」「先に直さねば、手遅れになりましたから」

なんだかさっきから、言ってることが矛盾している。私は口元をにやにやさせた。クノンさんは、やぱり怒ったように、ヴァルゼルドの体を、ばしんと一回叩いた。丁度スイッチの入ったらしい彼は、緑色の目をぴかぴかさせて、「うわわわわっ、教官どのでありますか、教官どの、寝てないでありますっ!! 申し訳ないでありますー!!」 とよく分からないひとりごとを叫んだ後に、顔をきょろきょろとさせて、クノンさんと目を合わし、「どなたさまでありますか?」 と首を傾げた。




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2007. 07.15 執筆 94話
2012.01.29 54話