聞こうじゃないか、お前の言い分




暁の丘でも戦闘も、ついでに背中の傷も治してもらい、毎日もったり過ごしていた日々だったのだが、現在進行形で私は体つきを固くして、むやみやたらと辺りをキョロキョロ見回していた。どうぞ、といって座らされた場所は、湖畔のほとりである。
いい感じにおしりにヒットする石に、ぴたっと腰をのせて、あらまぁいい景色だことウフフフフ! ……と、意識を飛ばす事が出来たならどんなに楽だっただろうか。現に湖には、ぴちゃんと良い感じにお魚が飛び跳ねている。思わずじゅるっと唾を飲み込んだ。人間の尊厳が死にかけている気がした。

目の前には、イケメンな天使が、金色のそりゃまた美しい髪の毛をさらさらと風の中で優雅になびかせている。今はぴったりと背中に収縮されている真っ白い羽を、大きく羽ばたかせたのだったなら、そりゃまたお綺麗な景色になったに違いない。(それがなんで……) なんで私が、彼とはそこまで接点もないであろう私が、彼、フレイズさんに呼び出されなければならないのだろう。

「………ああ、いらっしゃった」

ようやく。ようやくぽつりと彼が声を漏らした。どしん、どしん、と大きな足あとが近づく。どなただろうか、、と顔を上げると、ぬっと黒い大きな影が、おっこちた。
「………え? 一体何が、」「フコー………」「ヒイイイ!!!!」

 殺 サ レ ル ! 








「…すみませんファルゼンさん。なんか色々動転してまして」
「……イヤ、キニスルコトハナイ」

隣でフレイズさんがなにやら微妙な表情を浮かべているものの、私自身もちょっとあれだ、混乱しているので多めに見て欲しい。大きな鎧の体が目の前でふわっと浮いた。それと同時にビクッと私は震えた。何度見てもなれない。フコー、と息を吐き出されると、何かその腰元の長剣でたたっきられそうな気になる。被害妄想だと思いたい。

…………実をいうと。ファルゼンさんとこうしてまともに会話をするのは初めてなのだ。何度か見かけたことはあったし、もちろん名前も知っていたのだけれど、ここ、狭間の領域へわざわざ足を運ぶ理由も特にはない。だいたい、今日呼び出された理由すらも、まったく見当がつかない。なんとなく聞くのも怖くて、言われるままにどっこらしょと岩に座ってまっていたというチキンっぷりである。


そんな私の混乱を知ってか知らずか、ファルゼンさんは、またその不思議鎧をふわっと浮かせて、「マズハ、、センコクノヒレイヲワビル」といわれた。せ、先刻の、非礼を詫びる……? ううん、ファルゼンさんの独特な語りかけは、頭の中での変換に時間がかかる。
やっとこさ変換した言葉を、ううむ、と咀嚼しても、まったくもって何のコトやら。ただただ首をかしげて「えーっと……?」とモニョモニョ言っていると、フレイズさんが、「プチトードスの事です」とほんの少しいいずらそうに口を開いた。影を負ったように、どんよりとした表情をしている。ひどく気落ちしているらし。っていうか、

「いえ、あの僕全然気にしてないですし、そのお話はもう何回もされてますし、フレイズさん謝ってばっかりですし」
「そ、それはそうですが、やはりきちんと状況を判断出来ていなかった私が」
「だからってもうフレイズさん!」

こんこんと深くなり出すフレイズさんを見かねたのか、ファルゼンさんが「ホンライナラバ………ワタシガ、チョクセツ……イクベキダッタノダロウガ……」 ………すみませんストップ。えーと、本来ならば、私が、直接、行くべきだった、オッケー、分かりました。ストップすみません。ファルゼンさんの鎧がふわっと薄緑に光ったと思ったら、「スマナイ」とペコリ。そういえば、誰だったか、ファルゼンさんは、色々な理由であんまりこの場所を離れる事が出来ないとか、鎧を脱げないだとか聞いた事がある(気がする)

「いえ、本当に気にしてないんですよ。だいたい僕の力不足が原因ですし、怪我はすっかり治りましたし」
「そういう訳にはいかないんです。ですから、………ファルゼン様」

ちらり、とフレイズさんが、ファルゼンさんへと、目配せ。すると「アア」と軽い返事を交わして、フレイズさんがまたこくこくっと頷く。仲がよさそうにアイコンタクトはいいけれど、なんだか蚊帳の外とみたいで悲しくなる。思わず体育座りをしながら、そろそろクノンさんのとこに行ってメディカルなチェックでも受けなきゃなんないかなー、クノンさん怒ってるだろなー、とかもそもそ体を揺らしていると、唐突にフレイズさんがすぐ目の前になっていることに気付き、ビクッとなった。「さん」「……あ、はい」

ジッとこっちを見つめてくる彼は、ピンッと人差し指を立てて、ほんの少しの間を置いた。そして、

「代わりといっては何ですが、あなたの魔力問題。この狭間の領域の住人が、全身全霊をかけて解決させてみせましょう」




…………………魔力問題って、何のことだろう、と思いつつ、あなたたちが全身全霊ってもともと全身霊じゃん? それ冗談なの? 突っ込んでいいの? と30秒ほど考えた後、「はい?」と首をかしげて、彼らへきょろきょろと目を向け、「はいい?」ともう一回首を傾げた。



***



イッテコイ。といったファルゼンさんのお声を背中に向けられ、フレイズさんにぐいぐいぐい、と思いっきり手のひらを引かれつつ、「なのちょっとなんなんですかフレイズさんちょっとなんですかこの強制的な雰囲気なんですかー!」と涙目になっていると、ようやくフレイズさんはその魔力問題がなんたるかという説明をしてくれた。

なんだか、移動させられた場所は、奇妙な場所だ。きらきらとクリスタルが光っているのはいつもの風景だとして、大きな段が、どどんと広がっている。その前にはまるで座る場所のように、岩がぽつぽつと並んでいた。何かのステージみたいだが、そんなのがこんな所にあるわけがない。

「ベルフラウさんから聞いたのですよ。この間の戦いで、サモナイト石を壊してしまったとか」
「あ、はい、お恥ずかしい」
「聞けば、ここの狭間の領域の水晶も壊してしまったと」

えへへ、と引っ掻いていたのだけれど、私はじわじわと顔が青くなるのを感じた。「すっ、すっ、すすっ」「す?」「すみませぇん……!!! わざとじゃなかったんです……!!!」 そして何故バレた。何故ばれた、ナップくんか、もしかしなくともナップくんかコノヤロウ! と自分自身を棚にあげてぷんぷんした。わざとじゃなかったんです、と自分でも何を言っているんだと思いつつ、本当にわざとじゃないのだ。石を触ったら壊してしまうことだって、ついさっきまで忘れていた。

フレイズさんは困ったように私を見下ろし、「いえ、そのことでどうこう言おうとしている訳ではないのですよ。ただ、あなたの魔力が少々特殊だと言いたかっただけです」「と、とくしゅ……」

どうやら怒りのあまりの吊し上げのターンではないらしい。ほっとしながら、思わず彼の言葉を繰り返した。フレイズさんは、うーん、と唸りながら、私に手のひらを向ける。「ええ。こうして近づいているだけでも、何か、こう……」

「こう?」
「違うんですよ」
「はぁ」

違うらしい。
魔力が違うと言われて、そういえばとその原因に、パッと自分で気づいた。私は名も無き世界の住人なのだから、彼らと魔力が違うのは当たり前なんじゃないんだろうか。でも、ここにはカズさんもゲンジさんもいるのに、私だけというのはなんだかおかしい。いや、私が知らないだけかもしれない。でも、そうだったなら、彼らからなんらかのお話くらいあったってよかったはずだ。

まあ、それはとにかく、多少サモナイト石を壊してしまう程度で、特にこれで何を困っている訳でもない。寧ろ便利かもしれない。この間のように、召喚師のサモナイト石を壊してしまえるのは、随分力になると思う。と思ったのだけれど、「別にどうでもいいんですが」とはどうにも言いづらかった。一応、彼らは私のことを考えてくれているらしい。
そりゃあ、他とは違う魔力やらなんやらというものがあれば、ビックリもするかもしれない。というか、私、魔力なんてあったんだなぁ、とぼんやりとした実感だ。


「まあ、私の方からの話はこれくらいとして……」とフレイズさんはステージに顔を向けた。そして、「師匠ー!」

そのあんまりの唐突なセリフに、私はパチパチと瞬きを繰り返した。「ええっと……」と少々困ったように彼を見る。大丈夫だろうか。色々不安になってきたとき、「ハァイー!!!」と、あまり人間的ではないというか、まるで機械か何かを通して変な声になったような音が聞こえる。これが噂の師匠さんだろうか。


気づけば、彼はステージの上に立っていた。音もなく現れたその人に驚いて、いいやそれ以上に私はその格好に驚いた。ローブを着ている。声でなんとなく男性だろうと思ったのだけれど、顔がすっぽり見えない。いわゆる不審者だ。「ヤッホー!」 その割にはテンションが高い。

「…………………」
「モッカイ、ヤッホー!」

目の前で、パタパタと手を振られた。隣でフレイズさんが、「……師匠…」と呆れたような声を出しているのが聞こえる。「ムムウ。反応ガナイノウ」
つまらなさそうに彼は呻いて、「ッテイウカ、下ノ顔、ドーナッテンノ?」 エーイ、見チャエー。

ちょいっと手を伸ばされた。
思わず蹴り飛ばした。
「ウギャッ!!!?」






「チョットモウ! イキナリ蹴リヲクラワス、ナンテ、ドンナ教育ヲ受ケテルンジャ!」
「………す、すみません師匠。さん!」
「だってものすごく怪しい格好だったもので思わず」
「オ前ト同ジ格好ヲシタダケデショー!!」

まぁいいじゃないですか。僕当てなかったんだし。
当テナカッタンジャナイノ、ワシガ避ケタノ!

まぁまぁ、なんて言い続けるフレイズさんも少々飽きてきたらしい。疲れたように眉毛を垂らして、ふう、と大きなため息を、わざとらしく吐いた。ちょっとふざけすぎたみたいなので、口をつぐむと、フレイズさんは少しだけ声を低くさせて、サッと私に手を向けた。「師匠、この方が、先ほどいった」「アア、魔力ガ変ナ子」 もっかい殴ってもいいだろうか。

変な子とはなんだ変な子とは、と少しだけムカッとしながら腕を組むと、師匠はおもしろそうにふふんと笑って(まぁ、私と同じ格好をしているから、あんまり分からないけど)「ココマデ変ダトハ思ワナカッタンダケドナー」 なんだと。
きょろきょろ。きょろきょろ。物珍しげに、くるくると体の周りを回って、ナルホドナルホド。と何度も頷き、「ヨッシャ分カッタ引キ受ケタ」 勝手に引き受けられた。

はいよろしくお願いします、と頭を下げるフレイズさんに、ちょ、ちょっと待って! と叫んだ。私の意志はいったいどこへ行った! 「待ってください、僕、別にそんな魔力とか、どうでもいいんですけど!」 思わず本気で叫んでいた。

そんな私のセリフを聞いて、フレイズさんは、ちょっと目を大きく開いていたけれど、師匠は軽く鼻で笑う。ついでに、ぴかぴかの光が反射するステージに、どすっと腰を下ろして、かるーく、足まで組んで、「ワシャ、ヨク分カランノダケド」と、一つ前置き。「アノ、先生ラト、オ前サンオ仲間ジャナイノ?」

何を言っているんだろう、と瞬いて、「そうですよ」と彼に向き直ると、師匠はくいっと肩をすくめる。「ジャ、決定ネ」「はい、決定ですね」 ………いやいや何が。

「アノネ、オ前サンノ魔力ハ、コノ世界トチョットズレチャッテル。ダカラサ、ワシラニアンマリイイ影響ガナインダヨネ」
「失礼な話、特に狭間の領域の者に関しては、悪影響なのですよ」

ダカラネ、と一つ前置き。

「オ前サンノ為ジャナクテ、ワシラヤ、先生ノ為ッテ思ッテクレナイ?」


ヨロシクタノムヨ、と差し出された手を見て、ぎゅ、と唇をかみしめた。その言い方は、少々卑怯なように感じた。そんな言い方をされてしまえば、断ることができない。最初は私のために、なんて言っていたくせに、ずるい話だ。思わず厭味ったらしくため息をついてしまった。これくらい許してくれたっていいと思う。「わかりました」「ソウカイソウカイ」 彼は上機嫌に手のひらを叩いた。「ジャ、コレカラ頑張ッテネ、弟子クン」

フードの下で僅かに見える口元は、嬉しそうにニマニマと笑っていた。






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2007.11.22~12.16執筆 100~101話
2012.01.30修正 57話