聞こうじゃないか、お前の言い分 なんだかよく分からない状況の中で、取りあえず私は師匠に、正座をさせられた。 私の中にある、異種な魔力を、こっちの魔力に変換させるとかなんとからしいが、やってられない。ここは座禅寺か、と思いつつ、ステージの上で正座をする。するとサプレスの召喚獣たちが、ふらふらとよってきて、へいへい、なんかしろよ、動かなくてつまんなーい、いつもの先生みたいにしてよぉー、と飛ぶやじを聞きながら、アティさんは一体何をしてるんだと私は思いっきりため息をついた。 「アアモウ! 動クナッテイッテルジャン!」 「ぎゃああ! だからって背後から叩かんでくださいよ!」 「全然成果ガ現ワレナイモンダカラワシ焦ッテンノォオオオ!!」 「だからって叩くなって言ってるでしょぉ!?」 どこから取り出したのか、師匠、通称マネマネ師匠は、でかいハリセンを取り出して、思いっきり私の頭を叩いた。ハリセンは大きければ大きいほど威力は落ちるので、痛くはない。痛くはないけれど、主に心が痛い。「叩かれてばっかでもうヤダー!」「ダカラ動クンジャネー!!!」 バシーン 上記のように、ここ数日間、繰り返される一方的な暴行にヘタヘタとしている訳だが、受諾してしまった以上、あっさりやーめた! というほど、私は子どもではない。でもさっさと修行とかなんやら言うものを終了したい。マネマネ師匠は、その名の如く、人の姿をまねまねしちゃう人らしい。師匠は私と同じ格好をして、ひらひらと踊っていた。顔が見えてはいないとは言え、なんだかムズムズするのでやめて欲しい。ただ、マネマネするとは言っても、全部を真似てしまう訳ではなく、彼は私の真っ黒いローブの代わりに、真っ白いローブを羽織っている。目立ちすぎである。 「サーテサーテ、出来ノ悪イ弟子ノタメニ、頑張ラナクッチャイケナインダケド、モウ本当ヤにナッチャーウ」 体をくねくねさせるのもやめて欲しい。 私は彼を無視して正座を続けた。平常心である。これ以上ぶったたかれてはやってられない。師匠は私の反応がないとなると、ちょっとだけ寂しくなってきたらしい。ステージの上にドカッと座って、白いローブをいじいじしている。「ニシテモ、オ前ッテ何デコンナ熱ックルシイローブナンテ着テルノ?」 無視した。無心である。 「素顔ガドウナッテルカカナリ気ニナルンダヨネ」 軽く舌打ちしただけで、無視をした。 「ブッチャケ、ワシ脱イデ確認シチャッテイイ?」 ノ、実態 「ぬあああああああ!!!!!!」 「ヌヌ!?」 「こんなバカ師匠に付いていけるかさようならー!!!」 がさがさがさ。緑の竹に、どてっともたれかかった。「ノオオオウ!」 一時のテンションに身を任せてはいけないよ、とにっこり笑っている先輩の顔が頭の中に思い浮かぶ。数日間の正座訓練の中でイライラの絶頂にいたに違いない。全力で走り抜けて、乱れた息を整えつつ、神社の階段を上がって、こんなところまで来てしまった。ここならはぐれはいないはずだ。はー、とため息をつきながら座り込んで、ローブのフードをぐしぐしとさわる。「……素顔、かぁ」 なんで、こんな事、してるんだっけ、と思いだした。そうだ、私は、今の声を借りているからだ。オルドレイクへと声を盗られてしまったからだ。 「………元の世界に戻る前に、取り返さなくちゃ」 一人ごちた。 まだ、戻る方法も、皆無だけど。それにそんな方法があったなら、この島の住民は、とっくの昔にいなくなっているはずだ。恐らく義理の兄である彼も同じく。 ふっと、思わず笑ってしまった。きっとこの島の人たちや海賊さん達は、私がこのローブを脱いで、違和感のある男声と女顔だとしても、きっと何もいわないと思う。それどころか、「個性的ですね」の言葉の一つも頂く自信がある。大丈夫なのだ。わかってる。けれども私はこの形を続けている。「……うん」 彼らは仲間だ。そうでありたいと思っている。でも私は、彼らを捨てて、元の世界に帰る。そうじゃないといけない。 そうするためには、素顔なんかさらけ出して、召喚獣で、女なんだと、彼らに告げてしまってはいけないのだ。戻れくなる。そうなんだと暖かく包まれてしまえば、私はきっと、もうあの世界に戻れない。もう何回も考えた思考だ。こっちとあっち、両方、簡単に行き来する方法があればいいのに、そんな簡単なものがある訳ない。「……矛盾だらけだし、なんか、やってること、無駄っぽい、し」 もし、私じゃなくて、トウヤ先輩やアヤ先輩がこっちに来ていたら、もっと何かができたのだろうか。何かが。何って言われても、自分でもよくわかんないけど。 もっと彼らの役に立って、自信満々にこの場所に立つことができただろうか。 コン、と竹を叩いた。一回。もう一回。三回目で、ひどく虚しいことを繰り返しているのだと気づいた。ため息をついて、もう一回叩いた。そのとき、どこからか声が聞こえた。 「……そうかな?」 一瞬自分が話しかけられたのかと思ったけれど、そうじゃないらしい。よくよく見れば、赤い鳥居の下で、アティさんとスバルくんが、向き合っている。私はそそくさと彼らと距離を開けた。彼らの会話が、ところどころ耳に入る。 「だって、キュウマも、母上も、同じ練習ばっかりで」 スバルくんが、しょんぼりと頭を垂らした。「オイラ、こんなことで、ホントに強くなれるのかって不安なんだ!」 (……こんな事ばかりで、前へ進めるのか、不安なんだよね) ちょっとだけ苦笑した。 年も立場も、全然違うけれど、なんだか私の気持ちを代弁してくれたような気がしたのだ。声を出して笑いそうになると、口元を誰かに押さえつけられた。「さん、お静かに」 一瞬何事かと思ったが、聞き覚えのある声にほっとした。スバルくんがいるのなら、彼がいたっておかしくない。それどころかいないとおかしい。 キュウマさんは、私の口元から手を離した。そして、口元にしーっ、と人差し指を立てる。スバルくんの護衛さんは、今日も元気に彼の様子を窺っているらしい。それが彼の任務なのだ、と聞くが、スバルくんを見る瞳は、義務感に溢れているものではなく、心底嬉しそうに笑っていた。自分のことが怒られているというのに、うんうん、と彼は頷いている。 話の概要はこんな感じだ。アティさんは、そんなスバルくんの話をなるほど、と聞きながら、「あ、でもスバルくんの言うことも一理あるかもしれないなぁ」と今度は譲歩してしまった。隣のキュウマさんが、ガクッと首を落とす。けれども、頷かれてしまったスバルくんは、反対に困ったような顔をした。アティさんはそんな彼の顔を見て、「あれ、どうしたのかな」 とつんつんとおでこをつついている。 「ほらね。スバルくんも、ちゃーんとわかってる。キュウマさんや、ミスミさまって、そんなやっても無駄な事をさせる人じゃないもの。だったら意味があるんだよ。今諦めたら、それこそ今までの努力が無駄になっちゃう」 だよね、と彼女はスバルくんを覗きこんだ。スバルくんは、ほんのちょっとだけ顔を赤らめて、肩に力を入れた。「スバルくんが、焦っちゃってるのは、お母さんを護りたいからだもんね」 今度は彼は、とんがった耳まで真っ赤にしてしまったのだけれど、力強く頷いた。 隣でキュウマさんが、嬉しげに腕を組み、何度も頷いている。私が目を向けると、ハッとしたように真面目な顔を取り繕って、スバルくんを見つめた。 そうだなぁ、と思った。 きっと停滞している訳じゃない。立ち止まっている訳では、ないはずなのだ。 まるでスバルくん越しに、アティさんにアドバイスをされてしまったようで、少しだけ恥ずかしい気分になりながら、取り敢えず、さっさと師匠のとこに戻って、いくらでも正座をがんばってやろうじゃないか、と思った。 BACK TOP NEXT 2008.01.07執筆 103話 2012.01.30修正 58話 |