岐路へと着いた



ざっざっざ………。最小限の音を立てながらも、帝国軍らしき軍勢が森の中を進んでいた。かきわけられた獣道に、先頭のイスラが足を進め、特徴的な紫と白が合わさった軍服の軍勢が後を追う。
イスラか、と歯ぎしりをしたい気持ちになりながらも、ぐっと我慢した。あいつは初めからそれが目的だったのだ。「自分を応援してくれるか」とほほえみかけた少年はもういない。馬鹿にするのもいいところだ。

ただ今重要な事は、ハイネルが助言した通りだという事だ。

『帝国軍は島の中心部から陣地へと向かっている。彼女たちとぶつかった後なんだろうね』
それ当たっただろう、と自慢されるくらいならまだいい。当たる事を前提としたその会話は、少々腹が立つ。人が釣りをしていればいきなり、『帝国軍が動き出した』と叫び、私は何もかもほっぽって、ここまでやってきたのだ。
彼の言が真実である事を確認する為に。


(島の全部を知覚してるってのは、本当なのかな)
未だに彼の発言は信用出来てはいないが、念のため、確認するように木の枝の先へと立ち、本来ならば折れるか、極限まで枝がしなるかとなるはずなのに、枝はなんの変化もなくそのまま真っ直ぐと背筋を伸ばす彼へと声を掛けた。流石に私はそんな人間離れした真似は出来ないので、幹と枝が生えている股となった場所に腰を据えている。

「今、アティさん達は」
『遺跡だね。上手くいくといいけれども』
「………何を?」
『こっちの話だよ。とにかく封印は時間の問題だ』

ふうん、と私はどうでもよさげな風を装って頷いた。本当はとても気になるけれども、その事を彼へとばれてしまうのはとても癪だ。かなり癪だ。
遺跡。封印しようとして、足を踏み入れた訳ではないのか。遺跡と、剣は密接に関係している事はハイネルから聞いている。島自体を剣が関係している事は元々理解していたので、その島の重要だと思われる遺跡と関係していてもおかしくはない。多分それは本当だろう。

その遺跡へとちょっかいをだしに行った帝国軍がやられたのならもう問題はないだろう。さっさと帰って釣りの続きをしよう、と不用心に木から飛び降りると、丁度その場所に若い帝国軍人だと思われる青年が驚いたように顔を上げていた。
まずい、とローブの中へと装着したナイフへと手を伸ばし左腕を前へと掲げているときに、「うわっ、待った待った!」と驚いた事に、帝国軍人の方から手を両手へと挙げた。「にーちゃんオレオレ!」

なんだコイツ何でこんなフレンドリーなんだと取りあえず足当たりを狙おうと彼の瞳を睨んだ瞬間、「あ」「そうそう俺。兄ちゃんをロープでふんじばった」「よし足を狙おう」「やっだうそうそ!」

取りあえずナイフを構えたまま、じりじりとお互い後方へと移動した。仲間を呼ばれても困るし、そもそも彼の後ろから、また誰かが来られても困る。

「大丈夫、俺がしんがりだから」
「ホントかどうかなんて分かんないですし」
「ホントだって。信じてくんないと困る」

その彼の丁度後ろ辺りにハイネルが舞い降り、『本当だ』と付け加えた。取りあえずフン、と鼻を鳴らし、ナイフはローブの中へとしまう。このまま駆け抜けて、逃げてしまおう。そう考えたときに、相手へとその意図が伝わったのか、「待て!」と鋭く叫んだ。

「今回俺たちはお前に負けたよ、きっちり負けたよ。でも次は分かんねぇよ、あんた達は違うけど、俺たちはあんた達が死んでもどうでもいいんだ。今は隊長に殺すなっていわれてる。けど、いつ殺せっていわれるかわかんねぇ。最後の忠告だ。今のうちに尻尾を巻いとけって、そっちの大将さんに伝えとけよ!」

最後の忠告。どこかで聞いた台詞だ。
私は返事をする事も、頷く事もせずに、道を駆け抜けた。振り向かない。「伝えとけ!」とまた男の声が響いたが、聞こえないふりをした。



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2008.10.12