「ほれソル、おみやげ」

手に持ったコンビニパンを、投げつけた。



 少年は空腹



「あのさ、悪いんだけど、俺こんなもん貰っても、金とか全然ないぜ」
「んなこた分かってるっつの。餌付けだよ餌付け。さっさと餌付けされてお家に帰んな」

だいたい100円パンでそんなビクビクされても困んだけど。の声が聞こえているのかいないのか、ソルは透明な袋を、不慣れた手つきで切り裂き、中のパンをもそりと口に含む。
相変わらずの茶色い服に、「お前さ、ホント寒くないの」

お決りのベンチで、隣に座りながら、ソルは何を質問されたのか分からないとでもいう風に、首を横に傾げた。こんなの当たり前だろう。とふごふごパンを口にくわえながら返事をする。は、「当たり前なのか、お前は一体どこの出身だ」と聞きたい口をぐっと押さえこんだ。どうせリィンバウムだとか、意味の分からない地名が飛び出すに決まっている。

「っていうかさ、トシヤくん探してるんだっけ」
「トウヤ」
「お、悪い。手がかりとかさ、ないわけ」

探していると一言でいっても、ソルはただこの公園で、延々とベンチに座っているだけだった。別に四六時中彼を見張っている訳ではないが、はそう思っていた。実際それは事実だ。

「手がかり?」
「ほら、年、とか。外見とか」
「………年か、17、だった気がするけど、時間の流れが違うからな、よく分からない」
「じ、時間の流れときたか」
「外見は、男で、黒髪ってだけで、結構絞れるんじゃないか?」
「日本人の大半が黒髪だっつの」
「そうか、そうだよな、リィンバウムと違うんだよな」


かみ合わない台詞に、ガリガリと自分の頭をひっかいて、思い立ったようには転がる木の枝へと手を伸ばした。黄土色に広がるがさがさとしたほんのすこし固めな地面に枝を立てて、ガリガリと文字を書く。

「トウヤって、十夜? 透矢? 東谷?」

書かれた文字を、ソルはじっと見詰め、「分からない」「なんだよじゃあ名字は?」「なんだったかな」
コイツは本当に探す気があるのだろうかと心底はいらついた。投げ出した枝は見事にソルの額へとぴちりと辺り、「もういい」家出少年の戯れ言には付き合ってられません。

「なぁ、もしかしてお前、俺が何もしてないって思ってる?」
「思ってる。ベンチでぼけっと日向ぼっこしてるって思ってる」
「失礼だな。俺はこれでも毎日探してるんだぜ」
「どうやってだよ」


見てみろよ、とソルが真っ直ぐ指をさした。その先には複数の学生が、お家に帰る途中なのか、ゲラゲラ笑いながら、黒い詰め襟を並べながら通り過ぎる。

「ほら」

何がだよ。眉間に皺を寄せたを無視するように、ソルは彼らを指さしたままだ。ただの学生だ。それが一体なんだというんだろう。

「あいつら、黒い服着てるだろ。トウヤも初めはそれ着てたんだ。だからアイツらが何なのか、調査中」


あんまりにもその台詞を堂々といわれたもので、ほんの少しソルの事を可哀想に思ったらしいはごくんとパンを飲み込んでふう、と嬉しそうな顔をする彼へと口を開いた。

「………日本人の大半の男子学生は、アレを着てるんだよ」
「………そうなのか?」



1000のお題 【429 立ち往生】




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2008.08.12