は目の前の青髪の青年を、じっと見詰めた。



 ガゴン



赤い大きなバッテンを胸につけ、少々形容しがたいような服装が、どこかソルを連想させる。綺麗といえばいいのか、物が何もないといえばいいのか分からないアパートの一室のような部屋を、は体を起こした状態で、じっと見詰めた。
青年の手のひらには無色透明の、まるで大粒のダイヤのような宝石が握られており、微かに文字のようなものが浮き出ている。

「え、あ、どーしようまさか召喚出来ちゃうなんて、アッレェ!?」

手をわたわたと動かしきょろきょろと瞳を泳がせる青年と違い、は案外落ち着いている自分に気がついた。
二年前ちょっと前なら、自分も同じような状況に陥り、自宅のイスから落ちてしまうだなんて、と自分の頭の構造を疑ったかもしれないが、今はしっかりとした前例に、ちょっぴりの混乱を頭の隅に寄せて、それよりも自分はこいつに聞かなければならない事があると理解していた。

「兄ちゃん、もういっかい聞くけどな、ここリィンバウム?」
「いや、うん、そう、え、うん、や、うん」
「………(どっちだよ)」

同じく二年ちょっと前の自分ならばこんな兄ちゃんほっといてさっさと外へと出てしまおうとドアノブへと手を掛けただろうが、すっかりとの精神は、根気よく彼が落ち着くまで待ってやろうさっさと落ち着けと思う程には成長していた。


青髪の青年は、自分の頭をぐるぐると体ごと回した後に、「ううん」と一つ唸って、両手の人差し指をコメカミへと当てる。一休さんのようだ。とが思った事は、ここに置いておく。

「あの、ごめん、俺きみの事召喚しちゃったみたいなんだけど」
「召喚?」
「うん、召喚」
「どうやって」
「さ、サモナイト石で、こう」

右手に持っていた透明な石を、青年はすっと上へとかざした。つられてもその石へと視線を上げ、「で」と小さく続きを促す。

「俺召喚術ちょっと苦手で、ちょっと練習中っていうか、それでちょっと興味本位で、名も無き世界から何か召喚できないかなーって、ああ、有機物が召喚できるなんて聞いた事がないよ!」


一息でその言葉を青年はいいきり、なんとなくではあるが、も事態を把握した。ソルが何度か自分たちの世界を名も無き世界だと呟いていた事を思い出したのだ。
「で、俺還れんの」

彼の言葉に、青年は上げっぱなしだった右手を急いで胸元へと持ち、「ちょ、ちょっと待ってね!」とその石を持つ手のひらへと力を入れたのか、ほんの少し、血管が浮き出ている。
ぐっと眉毛を八の字にし、には到底理解できないような言葉を口に出すと、石は微かに輝き始めた。「お、光った」鈍い光ではあるが、まるで一流の手品でも見ているかのような気分になる。

光が大きく、くるりとの体をまとうかと思えば、瞬く間に四散する。

期待はずれの状況に、自分は点と目を瞬かせたが、それ以上に青年は、パチパチパチと可哀想なくらい瞬きを繰り返していた。「あれ?」 アレじゃないよ。

「お、おかしいな、なんでだろ。あ、ちょっと待ってどういうこと俺召喚術全然勉強してなかったから駄目だったのかなぁ、ああもう、助けてネスー!」

ネスって何の事だろう。そして自分はどうすればいいんだろう。
叫ぶ青年を、は胡座をかいたままのポーズでじっと見詰めていると、勢いよく、扉が開く音がした。

「さっきから大声で人の名前を何度も呼ぶな!」

安っぽいドアの向こうから、これまた肌の白いメガネの兄さんが分厚い本を持ったまま、鬼のような形相で青年を見詰めている。青年の頭越しにネスという名前らしい彼と、パチリと目が合う。

そして大きく振りかぶった。

「何で部外者がここにいるんだバカか君は!」
「ぎゃあ!」

勢いよく投げられた分厚い本は、一直線の軌道を描き、見事に青年の額にぶつかると思いきや、叫んだ悲鳴とともに、体をねじり、

ガゴン!


被害にあった自分の額の痛みと共に、ドッチボールでこんな事ってあるよなぁ、と薄汚れた天井を仰ぎながら、は仰向けにパタリと倒れ込んだ。




1000のお題 【453 第一印象】





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2008.08.17