「なー、マグナー」



 バシン!



はタカタカとマグナのお尻を追いかけ回すように歩いていた。流石にいつまでも部屋の中に引き籠っている訳にはいかない。だって散歩の一つや二つしてみせる。もちろん、召喚主であるマグナと一緒に、派閥の中をぐるりと適当に回るだけなのだが、それでも案外満足していた。

広すぎる空間は、何度歩いたところで限界が見えてこない。下手をしたら、これは迷子確定だなぁ、と斜め前を歩く召喚主へと命を託す思いで、ちらりと見詰める。
マグナはふいと振り返り、「なに? 疲れたのー?」と間延びした声で、へたりと笑った。

流石に女の子ではないのだから、うんそうなの! とにっこり笑う訳にはいかない。ほんの少し気勢をはって、「バッカちがうっての」と軽く吐き捨てた。

「どこに行くのかな、って気になっただけ」
「そっか、はこっち初めてか」

薄っぺらい石の道を積み重ねた廊下を、こつんと足先で当て、マグナはその先を見詰めた。外に面している為に日の光に直接照らされ、少々うっとりとした気分になってしまう。いい天気だなぁ、と今朝方ぼそりとマグナが呟いていた事を思い出した。
ごろりと草っぱらに寝ころべたら幸せだな、とうんと頷く。

「こっちの方にさ、小さな丘があるんだよ」
「へぇっ、そこも派閥の土地ってか」
「まあね、外に行ってもいいんだけどさ、流石にもうちょっと控えないと」
「もうちょっと?」
「うん、そろそろ、試験があるからさ。ネスに怒られる」


結局ネスティっすか、と妙なため息を吐いてしまった。マグナにとって、試験よりもネスティに怒られる事の方が重要なんだろう。改めて大変なヤツに召喚されてしまった、とふうと視線が遠くなってしまう。
「そういやマグナ、試験って」



ちょいとが顔を上げた瞬間だった。
立ち止まったマグナの背中が妙に不審に揺れた。自身も足の動きを止め、マグナの顔を窺うように、顔をちょいと上げる。「マグナ?」 

問いかけた言葉に、マグナはひどくゆっくりと振り返った。「     なに?」 返答までもがほんの少し遅くて、目を瞬かせた後に、ちょいと彼は、の腕を掴む。「おい」 なにすんだ。
皆までいう事はなかった。

ぐいっと引っ張られ、ずんずんと進もうとしたときに、マグナの背中で隠れ、見えなかった何かが、の瞳の端っこへと映り込んだ。
よりも、マグナよりも、ネスティよりも、随分年が上だと思える男数人が、じろりとこちらを見詰めていた。その体つきや格好よりも、口元に貼り付いた軽薄な笑みがより鮮明に映り込んだ。


ぱくりと、彼らは口を動かした程度だったんだろう。けれども何故だろうか、の耳元には、彼らの声がしっかりと届いたような気がしたのだ。

『召喚獣が、主人を呼び捨てにするなど       

ククッ、と喉が貼り付いたような笑い声が、耳の奥で渦めく。マグナに引っ張られたまま身体は進み、身体と反対に頭の中はゆっくりと動きながら、思考し、言葉を咀嚼する。
召喚獣。



ぱっとマグナから放された腕を見詰め、いつもと変わらないように、どこかのんびりとした顔つきの彼へと、視線を動かせた。

「マグナ」
「なに?」

マグナの声の調子は変わらない。

「俺、お前の事、ご主人様とかいった方がよかったりする?」

同い年の少年へと、そんな言葉を口にする趣味は、あいにくとなかったりするのだけれど、と複雑な気持ちを押し抱えて、マグナの視線を仰った。

マグナは「えっ」と小さく声を上げ、んん? と首を傾げる。
いくらかブンブンと頭を左右に振った後に、ぽりぽりと頭をひっかいて、へにゃりとした表情のまま、「別にどっちでも、の好きにしたらいいと思うよ」


何故だろうか。
なんとなく、妙に嬉しい気分になった自分の胸を、ぐうっと押さえ込み、はバシン! とマグナの背中をひっぱたいた。
そのとき「いたい」 と涙目な彼の表情が可笑しくてはうははと、とても嬉しげに笑いながら、「さあて、マグナさん、行きますかー!」と、マグナの腕を思いっきり引っ張った。


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2008.12.05

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