「来ないと、この街ぜーんぶ! とんでもないことになっちゃうんだからねー!」

あっかんべー、とぺろりと舌を出しながら、キャハキャハ笑うピンク髪の少女の言葉に釣られ、達は砦に向かった。

「なんていうか、手の上で踊らされてるというか……」
駐在軍人として、犯罪者の脅しに屈したとは……と口元をひんまげる青年に、はくすりと笑った。自身よりも、彼の方がしっかりとした軍人であるような気もした。
(当たり前かもしれない)

はまだ半人前だ。それに比べ、彼はこのトレイユの街を、立派な駐在軍人として守り、身を置き続けている。(先輩だ)頭の中で勝手にそう認識していた。親近感のようなものもあるのかもしれない。

うっそりとそびえ立つ砦は、ところどころ蔦も生え広がり、人の気配を感じさせない。「廃棄された軍の砦を利用するとは、面倒だな」 眉をひっぱるようにため息をつくグラッドの言葉を耳にしながら、は静かに顔を上げた。トレイユの街付近の調査はすでに行なっている。グラッドの言葉どおり、過去に旧王国との諍いが頻発していた頃に使用されていたものだが、廃棄されて久しい。根城とするにはうってつけの場所というわけだ。

「城攻めとは、面倒ですね……」
呟いたの言葉にアルバが深く頷いた。元来、攻め入るには、守るよりも数倍の戦力が必要となる。その上、相手は軍の施設だ。守りやすく、かつ反撃がしやすい。もともとの設計がそう決められて作られている。
「まさかと思うけど! あたし達に城攻めをさせるつもりぃー!?」

やってらんないわよ、というような響きを含めて、リシェルはぷっと頬をふくらませて叫んだ。対する相手は、豆粒のように小さく砦の上部から顔を覗かせている。白ひげの老人であることがわかった。そのわりには、声はいやに響いて、腹の底から声を出している様子もない。
(ロレイラルの技術か……)

機械兵士を操る、“教授”という男。ラウスブルグ、至竜、つまりはミルリーフを狙う勢力の一味の一人であるとライ達からある程度のことのあらすじは耳にしている。アロエリの兄である、元は御使いの一人であったというクラウレ、街での乱闘騒ぎを起こした赤と黒の鎧の男、将軍、レンドラー。獣のごとき男、獣皇。そしてルトマ湖の水を凍らせてしまった教授、ゲック。
あの手この手と手法を変え続ける彼らの気概には、少々胸が打たれるものがあるが、残念ながら、協力の意を示すわけにはいかない。

決戦である。捨て身のような、血の滲むゲックの声を聞きながら、は軽く息を吐き出した。そうして、腰につけたポーチを撫でた。エメラルドのサモナイト石たちが、きらきらと言葉をこちらに向けている。(戦い) にとって、ある種、これは初の戦いだ。竜の子を狙う軍勢との、初の戦い。ふと、は不安を飲み込むように、胸に手のひらを置いた。さて、自分は、


うまく、手加減ができるのだろうか




   ***




彼女は軍人である。しかしながら、彼らにとって、はただの流れの召喚師でしかない。いくらなりとて武器や体術を使用してみせるが、一般的に召喚師は武術に明るくはない。長剣は宿屋に置いてきた。適当な粗悪な杖を街で購入し、杖を“使うふりをしながら”緑の光を爆ぜさせる。

元来、召喚術の使用に杖は必要ない。ただ杖を媒介とすることで、召喚術の威力は格段に向上する。杖に魔力を循環させ、それをサモナイト石に叩きこむのだ。は一般的な召喚師でなければいけない。弾ける鉛の弾が彼女の足元をえぐった。「ぐらん、ガンバル!」 電子的な合成音が、響く。兎の耳のような真っ青な機体をぱたぱたと動かしながら、再び銃口をこちらに向けた機械兵士を瞳で捉えながら、は小さく息を吐き出した。「     スライムポット」「ンンッ!?」

右手に入れたサモナイト石が、淡い光を瞬かせる。杖を使うふりを忘れず、短く地面を棒の先でひったたく。
くぽきゅぽっ、と可愛らしい声を上げながら弾力性のある自らの体を使いながら、緑色のスライムがの周囲を覆った。ぽよりと情けない音を立てながら弾き飛ばされた弾丸を見つめ、ぱちくりと機械兵士     グラン、というのだろうか     は人間らしい仕草で瞬きを繰り返した。「モ、モウ一回!」 飛び出した弾丸は、からんと僅かな音を立てて、地面をバウンドする。

「コンナノ知ラナイ!」
「それは残念です」

失礼、と足元に転がる石を一つ拾った。あまりにも正確に、はグランの砲弾に向け石を投げた。すっぽりと銃口の中に収まりきった石を見つめて、機械兵士はきょときょとと可愛らしくまたたいている。けれども一体この程度がなんなのかと憤慨するかのような顔つきで、すぐさまに再び銃口を向けた。

「それ、暴発しますよ」「ヘッ!?」 くすりと笑いながらのの言葉に、ぴょんっと耳を伸ばして、慌てて石を取り出そうとあくせく銃を動かす兵士の背後を、彼女はまた笑って見つめた。

「機械兵士さん、うしろ、うしろ」
「……エ?」

ごいん、と響いた音に、くるんと目を回した機械兵士が地に沈むのは、それと同じタイミングだ。「……こいつ、なんかみょーにバタバタしてなかった?」 隙だらけだったんだけど、とどこから持ちだしたのか、大きな鉄板を両手に持ちながらぐりぐりと機械兵士を足で踏むリシェルに、「どこか痒かったんじゃないですか?」 なんて適当な言葉を吐き出しながら、はもう一度、静かに杖を地面に叩いた。

(いい連携がとれている)

の想像よりも、ライ達はうまく場を使い、軍勢に反撃を繰り返していた。ただの宿屋の主人であるはずのライが連携の要を握り、軍人であり、施設の内部にも熟知しているグラッドが彼を補佐する。そうしてロレイラルの専門であるリシェルが、足りない知識を補う。

阿吽の呼吸を繰り返す御使い達の攻撃力を補うように、アルバとルシアンが、そうして彼らの召喚術に対する危惧をカバーするミントが彼の背を守る。(強い) 器用に合間を縫って刀を振るシンゲンの背を見つめながら、(場慣れしている……)

しばらく前に、ひっそりと彼らの姿を見つめていたことがある。あのときから感じていた事実だ。聞けば、彼らは元は他人の、それこそ寄せ集めのものたちだ。けれども竜の子を中心とし、彼女を守ることを目的とすることで、人は格段に強くなる……のだろうか。には、その事実はよくわからない。強くなる必要があった。味方との連携を求められるときも、とくにはある。けれども結局それは、同士でも仲間でもなく、1+1は2のままで、それ以下でも、それ以上でもない。

けれども彼らは違う。とは違う。それがなんなのか、ふと、自身の中の何かがささやいたような、わかりかけたような、そんな気がした。アルバの横顔を見上げる。ひらりと動く尻尾毛を見つめながら、は即座に杖を握り、ロレイラルの召喚獣の足をスイングするように引っ転がした。目を白黒させるように、光をぱたぱた共鳴させる召喚獣に、「失礼!」と一声あげながらスイッチを叩ききる。ロレイラルの召喚術は、硬く、手強い。けれども補給を断たれれば、すぐさま意識を失ってしまうという欠点もある。

、大丈夫かい!?」
「はい!」

背を向け合ったアルバに、強く頷いた。硬い手のひらの、豆が潰れた分だけ、自身の力になる。持つべきもの獲物が違えど、には何の意味もない。「怪我は?」「なにも。アルバさんは?」「少し足を捻ったかな」「確認しました」 マイナスは補えばいい。手のひらの石の数を数える。問題ない、と彼らは叫んでいた。自身もと主張する馴染みの召喚獣に、あなたはだめ、と優しく撫でる。「危ない!」「きゃっ!」

力強くアルバに腕をひかれた。そのまま地面に押さえつけられるように天を向くと、頭の上を通り過ぎた弾丸に気づき、慌ててはアルバの頭を抱きしめた。「わぷっ」「オ返シ!!」 兎耳の機械兵士が、ぷんぷんと声を出して、こちらに銃口を向けている。すぐさまアルバとは転がるように立ち上がった。「アルバさん!」「うん!」

いい足場だ。はじけ飛んだ銃弾が、の杖を弾いた。けれどもなんの問題もない。手のひらから滑り落ちようとする杖を強く握り直しながら、(勝てる)息を吐き出す。彼らとなら、きっと勝てる。

は赤い瞳で、前を見据えた。






そして、誰しもが予想をし得ない人間が、この場の終止符を打った。






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2013/06/16