なんとなく、お互い知っている。
もしかして、なんとなく。昔見たいに、わからないと首を傾げるほど、はいつまでも子どもじゃない。経験だって増えた。知り合いだって。友だちだって。

、今アルバくん、どこにいるの?」

なんてこともなしに訊かれて、は困った。「なんで私に訊くんですか?」「だったら知ってるでしょ。そろそろ新しい編成があるから、ちょっと意見が聞きたいんだけども」「今は遠征中ですよ」「そっかー」

っていうか、やっぱり知ってるんじゃなーい、といつの間にか増えた女の知人が、バシンとの肩を叩く。びっくりした。「細すぎない? 食べてる?」「そ、そこそこに……」「あら。そんなんじゃ、アルバくんの子どもも産めないわよ」「あの、アルバさんとは、そもそも付き合ってすら……」「またまた」

またまたー、なんていいながら片手を振って去っていく。
またまたと言われても。
そもそも、アルバとはそういう関係でもないし、子どもができる行為も行っていないし、というか、そこに行き着く前のことだってなにも。

は静かに壁に頭を打ち付けた。何を考えているのか。
告白したらいいのに、と付き合っていないと言えばそう呆れられるのは最初の頃だけで、今となっては照れ隠しなのだろうと信じてくれやしない。

(告白)
してみようか、とは考えた。そもそも、なんで今までしなかったんだろう。
アルバが好きと気づいたとき、にはなんの知識もなかったものだから、次の行動が分からなかった。知ってしまったときにはもう手遅れで、今度は知りすぎてしまったから何も動けなくなっていた。でもだって年を重ねていく。ずっと、このままは嫌だ。だから考えた。アルバが今度戻ってきた時。そのときに、言おう。好きだと告げよう。アルバだったら、どんな答えでも笑ってくれる。そう知っている。なのにずっと動かなかったは、きっと臆病ものだ。


いつまで経っても、アルバは帰ってこなかった。

いつ頃戻ってくるのか。
戻ってくると聞いた日付は、とっくの昔に過ぎていた。寂しいか、と言われてばそうだろう。けれどもいつものことだ。がすることは変わらない。ただ告白をするのだと決めたら、心の準備も必要になってくる。毎朝息を吸い込んで、吐き出してを繰り返した。「アルバくん、心配?」「何かあれば、連絡が来てますよ」 それがの元に届くかどうかまでは分からないけれど。「って、変なところはしっかりしてるわよね。彼氏がいないと、私なら寂しいわ」「彼氏じゃ……」
否定の言葉も面倒になってきた頃のこと。

戻ってきたアルバは、にとってのアルバじゃなくなっていた。

目線の位置が、また高くなっていた。

もともと、この所顔が合わせづらいと思っていたのに。は顎を上げて、瞬きを繰り返す。「あの、アルバさん」「ん?」「背が……」 伸びましたよね、という言葉を告げる前に、遠くでアルバを呼んでいる声が聞こえる。レイドだ。アルバの育ての親、のようなもの、と聞いたとき、はなぜだか緊張した。

(ずるい)

訓練用に、この所杖を持ち歩いている。その杖を握りしめては眉をハの字にした。(かっこいい) 顔を合わせたら、口頭一番にぶつけてやろうと思っていたのに、それができない。緊張しすぎた。

アルバは何の気なしに笑っている。ははは、といつもの彼みたいに口元をひっぱって、ベンチに腰掛けた。だからも倣った。アルバとの間には、不自然な空間が、ぽっかりできている。「今回は、時間がかかりましたね」「うん、途中で馬が疲れてしまって」 なるほど、と頷く。

(言わないと)
そう思うのに、別に何を言う必要なんてないんじゃないか、とはふと考えた。なんてったって、はアルバの隣にいるだけでいい。アルバがいて、笑ってくれていたら満足なのだ。ほんの少し、アルバまでの距離をつめた。アルバと目が合う。アルバもアルバで、ひどく緊張していた。なんて言ったって久しぶりだ。

「そろそろも呼ばれるかな。このところ、あまり外に行っていないよね」
「はい。召喚師の養成が主だと。ただ、あんまり派閥とはかかわりなく行うと睨まれてしまいますから、そろそろ外に行く名目を作られそうです」
「はは、長くなりそうだな」
「ふふ、心配しますか?」
「うん」

冗談のつもりの台詞が、いつもよりも高い目線で言われると、は言葉に詰まった。耳が赤くなる。そんなの様子にアルバも気づいた。彼女の耳元をさわろうとして、すぐに手のひらを引っ込めた。それからベンチの隣に片手をぶらつかせた。
気づけば近くに座っていたものだから、アルバの小指にの指がひたりと触れた。ビックリして片手を弾いたくせに、また同じ位置に戻してしまう。ぺちり、ぺちりと手のひらが一瞬だけ何度かくっついて、気づいたらちょんと小さく、はアルバの小指を握りしめていた。

好きと言うつもりだったのに、すっかり忘れてしまっていた。なぜなら、もう言われてしまったような気がしたからだ。







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2015/09/23