大家と店子と他店子





「はいはいいただきまーす」

ぱんっと両手を合わせた向かい側で、シンクくんが慣れた用に無言で手を合わせ、即座にスプーンへと手を伸ばし、ガツガツと口にカレーを含み始める。
私ももむもむと口を動かし、そのシンクくんの隣で、ガイさんが所在なさげにちょこんと佇んでいた。


「………ガイさーん、どうしました?」
「ああいや、その、管理人さん」
「はい。あ、すみませんガイさんの分のお茶入れ忘れました。はいどーぞ」
「ひ、ヒイイイ!!!」
「さ、触りませんよ、落ち着いてくださいよ」

僅かな水滴を含くんだコップを、彼の随分手前に置かせてもらうと、やっとこさ動機が収まったのか彼はハァハァと荒い息を落ち着かせながら座布団へと両手をつけて、泣きそうな顔をしていた。
そこまで拒否されると微妙に傷つくのだが、まぁしょうがない、と私は黙々とカレーを食べる。
隣でシンクくんがガイさんを見て、「変態」とぼそりと呟いていた。

「ち、違う!」
「シンクくーん、違うよ、ガイさんは女の人が苦手なんだよ」
「そっちのけがあるって事じゃん。あっち行けよ」
「だから違う! 女性は大好きなんだ!」
「ガイさんやめてくださいその妙に強い主張」


シンクくんがガイさんの顔をちらりと見詰め、ガイさんはほんの少し首を傾げながら、ちょこっと引きつり笑顔で微笑んだ。相変わらず爽やかフェイスだ。

「あ、えーと、初めまして、俺ガイ・セ」
「どうでもいい」
「シンクくん社交性0だよね」

名前半分で切られたガイさんが微妙に哀れになってしまった。
無言の食卓は随分寂しいので、いつもは私が適当にシンクくんに話題を振り、適当にぶちぎられるだけなのだが、今日はガイさんがいる。
一応管理人代理っぽく真面目なお話をしてみよう、と恐る恐るカレーへと口を付けるガイさんへと向き直った。

彼はぱくりと一口食べると、「おっ」と顔を輝かせる。そんな表情を見て、思わず私も嬉しくなり、「おいしいですか?」と管理人代理の使命を忘れて、朗らかに微笑んでしまう。

「ああ美味い。管理人さんが作ったのか?」
「そうなんですよ、へへ、ちょっと自信アリですそこら辺。………ととと、違う、ちょっと質問なんですけどねガイさん、お食事どうします?」

そんな新婚さんじゃないんだから、みたいな質問をされてしまい、ガイさんは「ん?」とスプーンを口に含んだまま、首を傾げた。
そんなガイさんにシンクくんはお茶をごくりと飲み、「あいつが作るのかどうか聞いてんの」その手元を見詰めたまま呟いた。
アンタは説明下手だよね、と随分前に彼がぼやいていた気がする。

「作ってくれるのか? 管理人さんが」
「はい。あ、もちろん材料費は頂きますが。朝7時半と、夕方8時の一日二回、みんなでご飯を食べるんです。今日は初日という事でお昼ご飯をご一緒しましたけど、番外編です。シンクくんにはお昼も作ってるんです。それで、どうしますかガイさん」

ガイさんは間髪入れずに、「じゃあ頼むよ」と頷いた。実はなんだかちょっと嬉しくて、「はい」と笑ってしまう。
一人分増えたご飯の献立を頭の中で考えながら、「あ」と思いついた。これも確認しとくべきなのだ。


「ガイさん嫌いなものあります?」
「え」
「シンクくんはピーマンとホワイトアスパラとか色々嫌いだよね。偏食だよね」
「うるさい」

いいづらそうなガイさんに(そりゃあまあ、いい年こいたお兄さんが嫌いなものはいいづらいだろう)「じゃあ明日からセロリにマヨネーズオンリーでも問題ありませんね」と半分冗談で呟くと、シンクくんがテーブルをガゴンっ! とぶったたきながら「ふさげるな!」と本気で怒っていた。そんなに食べたくないのだろうか。

ガイさんは半分苦笑いしながら、カレーをじぃ、と見詰める。そしてカチャカチャとスプーンをいじり、「うーん」とやっぱりいいづらそうに首を傾げた。
それをじぃ、と見詰めていると、彼はどうやら根負けしたらしく、やっぱりいいづらそうに、ぼそりと呟く。

「………その、レモンとか、豆腐は、あまり好きじゃあない、かな」
「あらま」


レモン色の髪の毛をしてるのになぁ、と関係ない事を考えて、いやいや食べれない事はないんだぞ! と彼が一生懸命手のひらを横にふる理由が、なんとなく分かってしまった。
マーボカレーを気まずそうに彼は見詰め、ぱくりとまた口に含んだ。

「あの、無理しなくても」
「いや、美味い、食べれる」
「はぁ、まぁ、頑張ってくださいな」

いやいや、ついついいつもの癖で、マーボカレーなんて作ってしまった自分の頭をぽこりと殴ってしまった。シンクくんが空になった皿をカチャカチャといじくりながら、
「あのオッサン、カレーには豆腐ですよってうるさいんだよね」
「コラコラシンクくん。せめておじさんっていってあげなさい」





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1000のお題【548 いたれりつくせり 】
2008.11.16