大家と店子に洗濯物
ピー、ピー、と電子音を鳴らす洗濯機を見つめながら、私は「あー」と呟き、床にちょこんと置かれたプラスチックの籠に、ごそごそと洗濯物を詰め込む。
男ものだ。きっと誰かが後で取りに来る気なんだろうなぁ、と思いながら、これは誰だろう、と服を開いた。
見覚えはない。とりあえずサイズ的にシンクくんではないはずだ。うーん、と首をひねり、ごそごそと洗濯機へ手をつっこむ。青と白のストライプ。「ああ」 なるほど。
「すみませーん、開けてくださーい」
白い襖の向こう側へと聞こえるように、声をはりあげると、「はいはい!」と聞こえた声と一緒に、ガタガタと暴れる音が、現在の彼の様子を扉越しに透けて見えるようだ。
「あわてなくてもいいですよー」と一応声をかけてみたものの、「ちょっと待ってくれ!」と聞こえる声に、うーんいい人だー、と頷く。
ガラリ、と開けられた襖に、おっと思って覗けば、金髪の男の人は「ひぃ!」と体を逃げさせた。何故だかドライバー持参。いったい何をしていたんだろうかこの人は。不思議だ。
「大丈夫ですからガイさん、ほら空間空間」
「す、すまない条件反射で」
念のために、と一歩も二歩も離れた廊下を、彼はほっと安心した様子で見つめた。いろいろともったいない人だ。これさえなければ、きっとウハウハモテモテ生活だったろう。悔やまれない。
そんな私の考えを知るわけもなく、ガイさんはこくんと首を傾げながら、「どうしたんだ、管理人さん」と私を見つめた。
私はプラスチックの籠をひょいと上げて、
「洗濯物回り終わってましたんで持ってきました」
「スマン後で取りに行くつもりだったんだけど込み合ってて!」
「いえいえ、お気にならず。洗濯物はお庭の物干しによろしくお願いします」
わかった、と頷く彼に、籠をどうしようかなぁ、と思っていると、彼は申し訳なさそうにぽりぽりと頭をひっかき、廊下の端に置いといてくれないか、と情けなさそうに眉をハの字にする。
私は頷きながら、よいしょ、ずりずりと廊下に配置し、「それじゃあ失礼しますね」と頭を下げようとしたとき、ガイさんがふと不思議そうに、「そういえば管理人さん、なんでこれ俺のだってわかったんだ?」
手の中のドライバーを握れば、安心するのだろうか。ぎゅっぎゅ、と繰り返される彼の指の動きを見つめつつ、「なんでって」「なんでって?」
「パンツが」
「パンツ!?」
「トランクスですし」
「見たのか!」
「入ってました」
ほら、と洗濯籠から青と白のストライプをつまみあげると、ガイさんは顔を真っ赤にしたまま恐ろしい手の動きで、それをひったくる。おい女性恐怖症。
ひんやりと水にぬれた感触はどこかへとすっとび、彼の手の中でくしゃくしゃになるその物体を、「あらまぁそれ皺だらけになっちゃいますよ」「そういう問題じゃない!」
ガイさんは激しく首を振っていた。真っ赤になった顔になんて純情なんだこの人は、大丈夫かとぼんやりと考えてると、「君は店子のパンツをすべて把握しているというのか!」とはげしく荒ぶる。「そんなまさか」
「前に他の店子がブリーフ派かトランクス派かボクサー派かと討論しているのを耳にしたんです」
食卓で話されれば否が応でも耳に入る。それがどうかしたんですか、と問いかけた先には、自分の右手を顔にパチリとつけながら、愕然と肩を落としている男性が一人。「管理人さん」「はい」「ちょっとここに座りなさい」「いえでも」「座りなさい」
とりあえず正座した私の視線の先で、几帳面にも背をぴっちりと伸ばした正座のポーズに、ガイさんは眉を顰めながら「管理人さん、あのな、もう少し年頃の女の子だってことを考えなさいお願いだから」とこくこくと語り、「そうですかねぇ」と半分生返事で頷くと「ちゃんと聞きなさい」と怒られた。
なんだろうか、この人は。
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ガイにお説教されたい人、この指とーまれ
1000のお題【293 そこが逆鱗
】
2009/02/21