天気を知ることができる天啓があるらしい。



そんな話をきいたとき、金色瞳のお姫様は、さてさて、いろんな天啓があるものだなあ、と考えた。なにしろ天気雨を降らせることもできる天啓もあるというのだから、そんな天啓があったとしても、別におかしくもなんともない。でもそんな天啓があったら、「便利だな。洗濯物にこまんねえ」 うむ、と庶民的に頷く、そばかすの少年を見つめて、イオンはむごむごともらったばかりのクッキーをほっぺたに詰め込んだ。「フィルのお母さんのクッキーおいしー」 幸せだった。

「ルッカフォード妹、お前こっちの話きくきねえだろ?」
「ん? きいてるよ。ピクニックの日にちを決めるのに嬉しいって話でしょ?」
「ちげえよ。色々と頭を巡らせてみろ。宝石ってのには保存に気を使うもんなんだよ。日光の遮断はもちろん、湿度だって大切だ。天気がわかりゃ、その目安もつくだろうが」

ライナスって、なんだか考えるポイントが違う気がするなあ、と思ったけれども、まあそれはいつものことなのでよしとする。もひもひ、とほっぺをふくらませ続けていた妹に対して、ははは、とDXは笑っていた。唐突にラウンジから立ち上がるライナスを、ふとイオンは目で追った。失礼、と片手をこっちに振って、なにやら見覚えのある小さな男の子の元へ、るんるん小走りで消えていく。「ライナス、きみ、なにか企んでいるんだろう!」「なんだ人聞きの悪い。俺はただの商売をしようとしているだけだぞ」「きみのそれを企んでいると人は言うんだよ!」

あの涙声は、なんだかどこかできいたことがあるような気がする。「彼女に変なちょっかいは出さないでくれ!」 彼女ってだれだっけ、と考えた辺りで、あー、と思い出しそうになって、「あ、イオンちゃん、これも母さんから」「ひゃあー! もらっていーのー!?」 渡された飴玉の袋に、ぽぽっとほっぺがピンクになった。

ころころ、とハッカの味がおいしい飴玉を舌の上で転がす。嬉しくってたまらない。
小さなわんこがきゃんきゃん吠えるみたいな喧嘩の声が、ちょっとずつ遠くなっていく。「ライナス、何してるの?」「友達と遊んでる」 ってところじゃないだろうか、と適当な言葉をぼんやり瞳を細めながら、兄はハハハと笑っていた。

「宝石の湿度ねえ……」
んなこと、考えたこともなかった、と眉をハの字にするフィルを相手に、私も私も、と頷いた。「まあでも俺たち、天気はなんとなくわかるけどな」「うんうん」 においをかいで空を見れば、なんとなくわかる。「お前らスゲーな」 野生人だな、と言う言葉をフィルがグッと飲み込んだことは、彼女達は知らない。「まあ、外すときははずすけどな」「お前、こないだ傘持って談話室まできてたもんな」

「あ、だ」

ぱたぱた、と今度はイオンが立ち上がって、おーい、と大きく手のひらを振りながら友人を呼んだ。「イオン」 ほてほてした雰囲気で、教科書を抱きしめながらこちらへ向かう少女を見て、ん? とDXは首をかしげた。も同じく彼を見て、微笑みながら会釈する。

「あれ、お兄知り合い?」
「降らなかったけど振られた」
「何いってんの?」

ちょんちょん、と空を人差し指でさす兄を見て、イオンは首をかしげた。でも別によくわからないところがあるのはいつものことなので、すぐにどうでもいいかと頷いた。ほんの少し手持ち無沙汰に視線をそらすフィルに、「っていうの」と紹介してみた。こんにちは、とが頭を下ろすと、お、おう、とフィルは僅かに口元を尖らせて、照れたみたいに笑った。

「ねえねえ、今日って晴れると思う?」
そういえば、は天気を当てるのが得意であると、トリクシーが言っていた。
私は晴れると思うな、とくんくん、と鼻をひくつかせてみる。こういうことは六甲の方が得意なのだけれども、イオンだって負けてない。そうですねえ、とはほっぺたにぺとんと手のひらをおいて、ほんのちょっとだけ瞳を伏せた。「うん。晴れます」「じゃあピクニックとかいいかも」「賛成です」

学内の、ほんの少し小高い丘で、お弁当だ。楽しげにお互い手のひらを絡ませて、あ、とは瞬いた。「ごめんなさい、人を探しているから」「あ、ごめんねー」 いいえ、とはほてほて笑いながら、もう一度、空を見上げた。

「ピクニックには、本当に最適ね」

嬉しげな声だった。