珍しいな、と青年は赤髪をひっかき、三白眼瞬かせた。こっちがテラスに座って本日の新聞に目を通している間に、のったりのったりマイペースに従兄弟が飯を食べている姿はいつものとおりだ。「やあシメオン」「こんにちはルーディー!」 どれだけ急いでいるときでも、焦っていらっしゃるときでも、挨拶はしっかりと、というところが、いかにもお貴族様くさいというか、真面目な脳筋らしいというか。
「そ、それで、ど、どうなんだ」
「どうって言われてもな」
ぶるぶる、と三角に瞳を釣り上げて、自分よりも小さな両の拳を丸めて体を固く、ついでにこっちを威嚇するカデット、騎士候補生に、「おいおいチビくん、一体全体、お前はどうしたってんだ?」と尋ねてやりたくなったが、そういえばチビ扱いはしない、というところが先日こいつと交わした約束の一つであったことを、思い出した。交わした契約は、びっちりと一覧になって頭の中に叩きこまれている。「だ、だめなのか」「いいや。うちはいつでもどこでも、どんな女性、ついでに男性にもぴったりな宝石をご用意しますよ?」
毎度ごひいき、ありがとうございます、とにっかり笑顔で笑ってみれば、少年騎士は、口元を突き出しながら、何かを叫ぼうとして、そのままきゅっと口を引き締め、ぼふりと赤面した。
***
宝石を買いたい。
そう言って、耳を真っ赤にしながらどすどす大股歩きでシメオンがやってきたのはつい先程だ。なるほど、ありがたい上客である。さんさん暖かい太陽の下で、ライナスはのっそりと足をくんだ。彼は“とあるライナスとの契約”により、家族の誕生日に、ルーディーの宝飾を買わなければならない。いとこに兄弟、曽祖父まで。我ながらいい契約先を得たものだ、と若干満足にソファーの上で手を組みながら深く腰をかけたのは記憶に新しいが、はて? とライナスは首を捻った。
彼の親戚を調べあげ、彼、彼女らの誕生日に送るのだと提案をしたのは、間違いなくライナスだ。ちまちました作業は、案外苦にはならないところが商売人気質なのかもしれない。さて、と頭の中のカレンダーをめくってみた。おかしい。「お前、この時期に誕生日の親戚なんていたか?」「うぐ……っ!」 ガタガタ、とシメオンは後ずさった。「なんで、そんな、そんなことまで覚えてるんだよ……!」 正直すぎる反応に、ニマッと笑った。「商人なものでね。納入期限は命よりも大事なものだろ?」 ちなみにまったくの嘘であるが。
だいたいのカマかけをしてみただけだ。舌の周りのうまさも商人の秘訣である。「で、誰にだ?」 家族ではない、ライナスが調べた人間のどれにも当てはまらないとなると、「……恋人か?」 真っ赤になった。家族に祝い事があるとでも、嘘をつけばいいものを、そんなとっさの言い訳が、このカデットにはできやしない。「ち、ちがう……!」「だよな。そんな話きいてねえ」 だいたい、お前みたいなチンクシャが、と声に出しそうになった瞬間、どすりとルーディーに足を蹴られた。
「とりあえず、恋人候補ってことかな? その子はどんな子? 髪の色と瞳の色、できることならその子の雰囲気も教えて欲しいんだけど」
「そ、それは言わなければいけないことなのか?」
「できることならシメオンがどんなものをと指定してくれるのが一番だけど。とりあえず、イメージを伝えてくれれば僕も作りやすい」
「な、なるほど」
馬鹿正直に頷くシメオンを見つつ、まああとは任せておくかとばかりに手元のコップの中身を揺らした。あとは適当に値段の交渉をして、次は現物を持ってきたときに再交渉というわけだ。そんならまあ、期待しててくれ、と若干ふらふらとこっちに背中を向けて去っていく少年騎士を見送って、「それで、なんだ、恋人候補だって?」「きいたらまだ一度しか話したことがないって言ってたけど」「さすが貴族、やることが違うな」「シメオンは気づいたらまっすぐに行っちゃうから」
そういう問題なのだろうか。「っていうか、しょっぱなからのプレゼントが宝石なんて、ひくだろ」「相手によりけりかな」 渡す側と、渡される側の話である。「とりあえず、止めはしたけどね」 シメオンの決意は硬かったというわけらしい。
懐のメモに、次の交渉日をメモしながら、ふん、とライナスは鼻をならした。「まあなんにせよ、うまくいくことを願うよ」「珍しいね、ライナスが」「新しい金づるだ」「それでこそ」
ライナスだよね、とはは、と付き合いの長い従兄弟は笑っていた。
それから。
見覚えのあるネックレスを首にした女生徒をライナスが見かけるのは、しばらくのちのことである。