ぐしょぐしょに濡れたさくらちゃんの身体を抱えながら、月城さんは顔をのぞかせた。
09
ずれたメガネを顔にかけて、ぽたりと銀の髪に滴をつたらす。ピタリと肌に張り付いた服が、思わずこっちまでぶるりと寒気をおびてきそうだった。
私は急いで羽織っていた上着を脱ぎ、濡れたさくらちゃんの身体を拭く。月城さんには申し訳ないが、まずはさくらちゃんだ。
彼女はどこか不思議な服を着ていて、むん、と魔力の匂いを濃く表す。
「 さくらちゃん!」
長い髪の毛を結い上げた、可愛らしい少女が必死の形相で、私と同じように鞄から取り出した小さなハンカチでぺたぺたと彼女を頬を拭いた。その彼女の懐には、黄色い、何かが抱えられている(………あれは)
思わず、目を細めた。
「落ち着いて、知世ちゃん、大丈夫だから」
滴る水を、ぷるぷると頭を振るように月城さんが微笑む。さくらちゃんを背中へと抱えたまま、知世と呼ばれた少女の目線へと合わせた。
月城さんが、自分の家が近いから、さくらちゃんの身体を乾かす為に寄っていくと彼女へと伝える間、私はじぃっと、その黄色い物体を見詰めていた。
初めは自分もついて行くと主張した彼女だったのだが、遅くなっては家の人が心配するという理由で、月城さんは首を振る。渋々、取り出したケータイ電話で、誰かを呼び出した。
「………知世さん?」
確認するかのように私は彼女へと声を掛ける、プチリと電源を切ったケータイへと、彼女は視線を流し、「はい」と慌てたように私へと顔を向けた。抱えた黄色の物体が、その衝撃でぴくりと動く。
「それ」
「え?」
黄色の物体へと、ぴ、と指をさした。彼女はほんの少し目を大きくしたようで、「ええっと」もごついた自分の口元を手で押さえながら、
「 変わった、ぬいぐるみだね」
それだけ呟いた。
遅くなるといけないと月城さんは何度も私にそういったのだけれど、私は「いいえついて行きます」と彼の後ろを追った。ぽとぽとと垂れた水が地面に丸い粒を落とし、街灯がそれを照らす道を歩きながら、「どうせ、家もこっち方面ですし、それに」
同姓の方が、いいだろう、なにかと。
彼女の服を、月城さんから借りた大きなTシャツに替え、濡れた彼女と私と、月城さんの服は、洗濯機の中へと入れさせてもらった。何か特別な彼女の服をそのまま洗濯することは少し気が引けたのだが、そこら辺は月城さんがなんとかしてくれるだろう。
私はじっと正座をしながら、しいた布団へと昏々と眠る彼女の表情を見詰めた。
彼女たちが一体何をしていたのか。
あの黄色い生き物が何なのか。
はっきりとした言葉で表す事が出来ないが、ある程度の推測はついた。沸々と胸の奥で泡立つような何かが体中を取り巻き、耳の、少し下辺りが、カー、と熱くなる。
ある種爆発を起こしてしまいそうな、そんな思考に、ぎゅうと手のひらを握りしめた。
首を、突っ込んではいけない。そう考えたのは、ほんの数時間前で、今まで何度も同じ思考を繰り返した。はずだった。
彼女は、私よりも小さい。幼い。何歳も年下だ。
そんな少女が、一体何をしてるってんだろう。
何の為の意地をはればいいんだろう。
(年上のメンツってものがあるんだから)
不意に聞こえた月城さんの声に、耳を澄ませた。他人の面倒を見る余裕なんて、ありはしない。今の状態では。
じゃあどうすればいいんだろう。
送られてきた手紙は、未だに机の中に眠ってある。たった一行だけ読み、ぐしゃりと潰してしまったが、どうしても捨てる事が出来なかった。
私は、自分が意地っ張りな方だと認識している。けれども、それで、いいんだろうか。
一つ、拳を握りしめ、私は一つ決断した。