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扉から出て、「あー」と大きく伸びをした。朝日がちくちくと頬に突き刺さり、寝ボケ眼の瞳をこする。ふと、こすった手のひらの先に、一人の品のいい老人が、しゃんと背を立ちながらこちらを見つめていることが分かった。
にこり、と眼尻に皺をよせ微笑んだ表情に、思わず頭を下げ、そのあと、誰だ? と暫く考えた。覚えがない。けれども老人はこちらへとつかつか足を寄せる。「様で?」

穏やかな老人の瞳を見つめ、「ああ」と頷く。「李の」
今になって、なぜ直接やってきたのだろうか。別に、の私には、手紙程度で十分だろう。そんな私の不審を飲み込むように、彼はにこりとまた微笑んだ。

「小狼様がいらっしゃいます」
「……小狼が?」

まだ小学生だろう、と考えた後、クロウカード捕縛の状況を考えて、遅すぎたくらいかと考えなおした。冬になる。「ああ、なるほど」 だから来たか。それはいつだと訊く前に、「解任ですか?」 別に、かまわないけれど。

じっと老人を見つめると、彼は人の好い笑みのまま、首を振った。
「いいえ、続行です」






「あ、さん!」
「さくらちゃん」

相も変わらず、ローラーブレードをころころと転がす少女を見た。いつぞやよりも、ほんの少し、ふり撒く魔力のニオイを増やした彼女は、強くなったなぁ、と思わずうんと頷いた。「お兄ちゃん、バイトで意地悪してないですか?」とむっと眉を寄せる彼女に、「大丈夫、先輩は優しい人だよ」と頭をなでると、むっとしたのか、嬉しいのかよくわからない表情をしていた。

ふと、通り過ぎた正門で、一人の男の子が慣れない道を辿るようにとぼとぼと歩いている姿を見た。大きくなったなぁ、と思うのと同時、そういえば、彼はさくらちゃんと同学年だったかもしれない、と思いだす。「さくらちゃん」「なんですか?」「新しい友達、できるかもね、男の子」

不思議そうな表情を彼女は作り、「んふふ」と頭をもう一回撫でてみると、「じゃあ楽しみです!」と元気よく笑った。

――――あなたは、李家を恨んでいますか。


あのとき、訊かれた言葉は、別にイエスでも、ノーでもない。ただ好きではない。どうでもいい、それだけだ。母を見捨てたと言えば恨みがましい言葉だが、持続するほどの怒りはない。選んだのは、母だ。そのことで母を責めることも、お角違いだろう。
(李、じゃあ、ゴロも悪いしね)

冗談まぎれに考えた言葉にちょっと笑った。隣で歩く、さくらちゃんが、どうしたんですか、と瞳をきょとんとさせていて、なんでもないよと歩を進めた。