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『小狼を陰ながら補佐すること』
新しく出された契約内容である。

李家との契約は延長ということになり、彼らからの援助は続いていた。けれどもそれもいつ切られるかわかったものじゃない。なので頑張れるときに頑張ろう。適度な感じに、というのを座右の銘に、今日も今日とてケーキにもまれて甘い匂いの中でまったりしていたのだけれど。


先輩の機嫌が、とてもとても悪かった。常にむうっと眉を寄せていて、ぷんぷんと不機嫌なオーラを漂わせている。さすがに接客業ともなれば我慢はするのか、お客さんに背を向けた途端、思い出したかのように、むむむ。

「先輩、ご機嫌斜めですねぇ」
「……そんなことねーけど?」

そんなことあるけど?

先輩はどちらかというと表情豊かな人間ではないのだが、彼がぷんぷんと怒っているのは正直珍しい光景だった。なもので、私は緊張感やらを感じることなく、ぶふっと噴出してしまう。案の定睨まれてしまったけれど、反対にニコニコ笑い返してみた。「ははあ、さくらちゃんですね」「ちげーよ」「言い寄る男の子でもやってきたんだ」

ちげーよ、と言葉を返すだろうと思ったのに、先輩はぷいっと私を無視して、そのまますたすた背を向けた。珍しい上に、なんだか拍子抜けだ。けれども一瞬振り返り、またムッと眉をひそめて「ばーか」という風に、ぱくぱく口が動いた。
それを見て、また噴出してしまった。図星だったんだ。

まったく、桃矢先輩は本当にさくらちゃんのことが大好きだなぁ、と微笑ましい気持ちになってしまう。(でもさくらちゃんかわいいから、別にこんなこと初めてじゃあないだろうに) 毎回いちいち不機嫌になっているんだろうか。かわいい先輩だ。

まあさくらちゃんもおっきくなったし、彼氏の一人や二人くらいいたって問題ないよねぇ? と自分のことを棚にあげつつ、カチカチトングを動かした。


(そういえば、小狼もそろそろ日本に着くころかな?)

だったら学校はどこになるんだろう。やっぱり友枝だろうか。それならさくらちゃんと知り合いになる可能性だってあるはずで、もしやお近づきになることもあるかもしれなくって。(というか、クロウカードを集めているらしいさくらちゃんとバッティングしない方が不思議かな……?)

うーん、その男の子って、もしかしなくとも、と、私は青春の匂いをかいだような気分でにこにこ一人で笑ってしまった。しかしながら、そんなことをしている場合ではない。一応李家から、小狼のボディーガードを言いつかっているのだ。もちろん、李ではなく、ただの姓である私がでしゃばるわけにはいかないので、こっそりと、ということになるのだけど。


異変があれば、察知することができる。まあ多分、大丈夫でしょう……と思いながら、私は多少そわそわとして、今日のバイトが終われば小狼の気配を探ってみよう、と再びカチカチトングを動かした。いつの間にか帰ってきた先輩が、「腹でも減ったのか?」と首をかしげて、「終わったら後で飴玉でもやるよ」と頭をぽんぽんとされた。
飴玉はうれしいけれども、もっとお腹にたまるものがほしいなぁ、と思ってしまうのが貧乏人の性である。