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気づけばさくらちゃんの魔力が、また濃くなっていた。


手の中の戦利品を抱え込みながら、私は唸った。とっぷりと日が暮れている。「あ、さんもおうちですか?」 祭りの灯りも、ぽつぽつと消えていく。ほのかな暖かみ、かつソースの焼ける匂いをかぎながら、ひどい罪悪感に私は埋もれた。「うん、まあね……」

大食いの青年、月城さんに桃矢先輩に、知世さんに小狼。結局さくらちゃんと合流できたのか。よかった、と安堵の気持ちと背徳的なお好み焼き達の香りにつつまれ、ゆらゆらと揺れながら頷く。楽しそうでよきかな。


     最近確信したのだが、さくらちゃんはクロウカードを封印するたびに魔力が強まっている。

初めは、とてもかすかな変化だった。けれどもここ最近、飛躍的に魔力が向上している、と思う。
どちらかと言えば私は魔力の探知が得意というわけではない。使うことはできるくせに、探ることは下手くそなのだ。ただ、彼女の空気が、匂いが、日に日に変化する差異にくらい、気づくことができる。つまり、彼女の魔力が濃くなったとは、クロウカードを捕獲したということにほかならない。

私が、目の色を銭に変え、必死こいてお好み焼きを焼いている間に。
焼きまくっている間に。
そして余り物を抱えて喜びに涙している間に。

(……と、いうかこの近辺にクロウカードがいたことに、ま、まったくもって、気づかなかった……!)
どれだけお好み焼きに目がなかったのだろう。
しかも小狼がいるのだ。仮にも彼のボディーガードであり、かつその勤めにて給金をもらっている立場であるはずなのに、これはない。ひどずぎる。罪悪感しかない。

「……おい、、どうした」
熱でもあんのか? と言いながら桃矢先輩に頭をわしゃわしゃとされるその後ろで、さくらちゃんが、「お兄ちゃん! もー! そんなくしゃくしゃにしてー!!」「ん?」 ぽこぽこと背中を叩かれている。「チビども家においてったら、送ってやろうか?」「ちびじゃないもーん!!!」


***


結局、桃矢先輩の思いやりは丁重にお断りさせていただいた。今度こそ、と念入りに魔力を探ってみたが、問題のない様子だったし、別々に帰ったとしてもなんの支障もないだろう。何かあれば、駆けつけられる距離だ。
そうか、と淡々と頷いた桃矢先輩の背中を、なぜだかさくらちゃんがぱしぱしと叩いて、おまけとばかりに月城さんもぽんと叩いていた。仲がよさげでなにより。


それにしても、最近の私ときたら、なかなかにたるんでいる。数ヶ月前のあの鬼気迫る気持ちは一体どこに行ってしまったのか。一円たりとて無駄にせぬ。パンのひとかけらとて噛み尽くす。……いやこれは違うか。

夜の街に、提灯が灯っている。
ひとつ、ふたつ、みっつ。ほんのりと垂れ下がった赤い灯りが、ぽつぽつと街に広がっている。この街に、いったいいくつのクロウカードが眠っているのだろう。私はただ、見ているだけ。小狼達を守るだけ。それでいいと言われた。たださくらちゃんは確実にクロウカードを見つけている。小狼よりも、より早いスピードで。そして彼女は進化している。このままクロウカードを持ち続ければ、彼女は一体どうなるのだろう。

(観月先生は、何かを知っているのかな……)
すとりと、電柱の頭に足をのせた。闇が、いつもより濃い。
「また、次もすぐか」 息を吐いた。気合を入れよう。

「考えてる暇は、あんまりなさそうだな」