安室さんはイケメンさん






人を職業で判断するなど、いつの間に私はそんな汚い人間になってしまったのだろう。職業差別よくない。安室さんだって、いろいろ人生を経ての今なのだろうし、赤の他人である私がどうこう思うのは失礼なのだし。
でも結婚したいし、安定したいし、アプローチかけるにも時間をかけるにも焦る年代だし!

(いやほんと、なんでこんなことに……?)

さん、今日もサンドイッチですか?」
「はいお願いします……」

ミックスサンド一つ、と安室さんが伝票に記載する。安室さんが話せば、サンドイッチもサンドウィッチとかっこよく言われているように感じるので不思議である。ところでね、私はね、ほんとにね、なんでこんな常連客のようにメニューまで覚えてもらっているのかね!?

やって来たミックスサンドにかぶりつきながら涙目になった。休みのたびにせこせこポアロに通って、一体私は何をしたいというのか……。何もできない。しかしほんとに、(イケメン……すてき……) とても、目の保養です……とハートマークを飛ばしている場合ではない。「フヌウゥ!!」 気合を入れて自分の手のひらを顔面にぶつけてみた。すっきりした。

さて、冷静に考えよう。たまたまたどり着いた喫茶店にて、一目惚れをしました。でも彼はバイトです。フリーターです。絶賛婚活思案中の自分には辛いものがあります……オウケイ、冷静になってきた。フッ……と微笑みながらすでに頼んでいたコーヒーを一杯。おいしい。そう、私はこのために通っている。(それに金髪だしね!)

ポアロのシンプルなエプロンがびっくりするほど似合っている彼の背中を見つめた。後ろに結ばれた紐が、ひらりと揺れている。(ふふっ……チャラいにきまっている) いや地毛かもしれませんけど。

薄い彼の瞳の色素を考えると、地毛な可能性は高い。自分の中での可能性を必死に潰すことに専念して、そこはあえて見ないふりをする。「チャラ男で、フリーター(おそらく)は、三十路相手には重たすぎるものがあるよ……」 呟いた声に頷いた。よし、いい感じ。いい感じに心が遠くなってきた。

窓から降り注ぐ日差しに、ゆっくりと心が洗われた。休日に美味しいコーヒーを飲むことを日課にしているOL一人。いい趣味だ。そろそろ婚活に力を入れてきたいところだ。趣味の欄にはどう書けば、と尻込みをして逃げて来てしまったのだけれど、ここに来ていいものができたかもしれない。こうしてひとつ、人生に深みを得ることができた……。「さん、大丈夫ですか?」「はい?」

お盆の上におしぼりを載せた安室さんが、じっとこちらを覗き込んでいる。「顔色が悪いようですので。もしよければお使いください」 ほかほかの温かいタオルを手のひらに乗せて、顔色が悪いというか、自分で顔をぶっ叩いたと言うか。

「お仕事でお疲れかとは思いますが、無理をなさらないでくださいね」

菩薩のような笑みだった。



 ***



「あれ多分チャラくないわー!!!!! チャラいとしてもそれ含めて計算ずくの態度でしたら感服ですわごちそうさまですうーーーーーー!!!!」

深夜に自分の枕を力の限り叩く女の図がこうして完成した。
イケメン尊い。