安室さんはお素敵声
こんにちは、です。アラサーです。OLです。27歳です。コーヒーが美味しいです、ちょっと前にふとしたきっかけで寄った喫茶店が想像以上にツボに入り、今では二週間に一度のペースでお邪魔してます、カップをちーん。
……と、一人モノローグをかましてコーヒーで一人乾杯をしている場合ではない。最近後輩に、「花村先輩ってなんで彼氏作らないんですか?」と可愛らしくきかれてうるせえ作らないんじゃなくできないんですよと言い返しそうになりながらコンビニ弁当の海苔を喉につまらせそうになったのだけれども、多分そういうところが駄目なんだと思う。そもそもコンビニ弁当の時点で多大にアウトだけど仕方ないじゃん! 一人暮らしで自分のためにご飯作っても美味しくないし! 最近のコンビニいろいろ揃ってておいしいし! と言い訳を考えて悲しくなってきた。
「すみませーん、明太子スパひとつー」 そんな中で、最近の癒しを満喫する。お昼時は忙しそうだ。女性店員さん(梓さんと言うらしい)が、きれいな黒髪をぱたぱたと揺らしながらメニューを取る。
今日は安室さんが調理を行っているらしい。(遠くから見る金髪も、おいしいなあ……) いや、おいしいっていうのはコーヒーのことで。
それ以上の深い意味など何もなく。
もちろん。
どんどん聞こえるメニューのオーダーのメモを確認することなく、はいはい、と安室さんは手際よくフライパンと包丁を動かしている。イケメンで料理もできるとか、ときめきとともに恐怖が反比例する。自分でも何を言っているかよくわからない。
(ん、包丁?)
ぼんやりしながらも、耳だけは盛んに動いていたのだ。包丁が必要なメニューなんて聞こえなかったようなような、気のせいなような。
「安室さん、ミックスサンドも一つです」
「出来上がってますよ」
どうぞ、と言われると同時にパン切り包丁できれいに三角に切られたサンドイッチが真っ白なお皿に盛り付けられている。エスパーか。梓さんが、きょとんと瞳を丸めて、お盆の上のお皿を見つめている。「……まあ、安室さんですからね」 苦笑しながら肩をすくめた。「それと明太子スパ、アイスコーヒーにアールグレイ、カラスミパスタも出来上がりです」 しん、としていた。
騒がしかった店内が、なぜこんなにも静かなのだろう。別にただ、出来上がったメニューを彼は伝えただけだ。一瞬の静寂ののち、テーブルに座るお客さん達が自分たちの会話に夢中になる。食器がぶつかる音が暖かくて、食欲を誘う。
「ナポリタンもできました」
また一瞬だけ、しん、と。(あ、こ、これ) 安室さんが喋った瞬間だけ、ちょっとだけ静かになってる。
めっちゃ怖い。
いい声すぎて怖い。手元を持つコーヒーカップがカタカタと揺れて、中身が零れ落ちそうになる。すっごい怖い。
(げ、現実を見よう……!!)
いやもうほんとに無理、自分にはそぐわない、という言葉が、これほどまでに適切なことがあるだろうか? 今日でもう見納めにしよう。じっかりとあのご尊顔見つめて、ありがとうございました、とお礼を言おう。
今まで楽しかった、幸せでした。
心を込めて、伝票を手に持った。ありがたいことに注文も落ち着いた現在、今度はスピーディーにレジを叩く安室さんである。
「すみません、お会計お願います」
「はい。1580円になります」
財布の中からお札と小銭を取り出す。なんだか緊張して指が滑る。「あの、コーヒー……」 ありがとうございました。その言葉の中に、今まで、という意味をひっそり込めて。「ああ、コーヒーですね。さんにはいつも来て頂いているので、次回使える無料券のお渡しになりますね」 そっと大きな手のひらがこちらに向けられる。
「なので、ぜひまたいらしてくださいね」
「微笑み天使かーーーーーー!!!!」
とは流石に叫べなかったので、「あああああありがとうございまっすうーーーー!!!」と震えてそのまま逃げ帰った。あとまた一週間後に行った。