何故だろうか。
俺が先輩を発見したとき、やっぱりあの鬱陶しい影は、どこからかにゅるりと現れるのだ。


第3話   思うんですけど先輩。





「アンタ達ホントいっつも一緒だな」


特に俺が何の意味もなく呟いた言葉に、サンドイッチを片手にもそもそと、まるでどっかのハムスターのように真っ白いパンを口にくわえていた春さんが、「ふえ?」とどこかマヌケな声を出した。
とりあえずハムスターのもそもそ食いがなんとなく俺的にツボに入ったので、春さんをじーっと見ていると、「あ、いりますか?」 と丁寧に切られた三角形のサンドイッチを俺の目の前へ差し出した。
断るのも失礼かな、と思って、要先輩をちらりと見ると、「なんでオレを見るんだ」と不思議そうにメガネを直して、「あ、じゃあ頂きます」と右手を出した。受け取った、はずだった。


俺の手の中へと収まるはずだった美味しそうなサンドイッチは、前髪もさもさな祐希に、ひょいっ、と取られる。そのままぱくん「あー!!」

「なにすんだおまえ俺んだぞっ」
「ひゃっておいひそうふぁっふぁんらも」
「ちゃんと飲み込んでからしゃべれ無駄にむかつくなもー!」
「そうだよ、ほらお兄ちゃんそんな風に祐希育てた覚えない」
「もっさー……」
「(もっさー?) ほら春にお礼いいなさい」
「ふぉうだね。春ごちそうさまでした」
「お、お粗末様です……?」
「ああああもおおおおおお!!!!」
「落ち着けほら落ち着け俺のからあげやるから」


俺は先輩にもらった唐揚げをもひもひと頂きながら、一人憤慨していた。ぷりぷりしていた。あ、先輩この唐揚げおいしいっすね! お母さんの手作りですか羨ましいです。
春さんが、「もう一個あげましょうか?」と首を傾げながら美味しそうなサンドイッチを差し出してくれたけれど、これ以上春さんのご飯を減らす訳にはいかない。
俺は自分の手に持つコンビニパンをじっと見詰めて、ごくんと唾を飲み込み、首をぶんぶんと横へ振った。「そうだよ春、餌付けはあんまりよくないんだよ」 餌付けってなんだもさもさ!

ごくん、と唐揚げを飲み込み、はーあ、と彼ら四人を見回す。先輩の端っこにこそこそと移動して、耳元でこっそり呟いた。「思うんですけど先輩。交友関係改めた方がいいですよ春さんはおいといて」っていうか特に双子ですが。

先輩はずるりとメガネをズラしながら、「あー、そうだなぁ」と妙な笑い方をした。「なにこそこそしてんのエロっちい」「エロっちい」「黙れ双子が!」 

春さんはにこにこと笑っていて、うふふ、と文字通り、花が咲いているようだった。
「あのですね、くん。僕たち、幼稚園の頃から一緒なんです」


あんまりにも予想外な言葉に、俺はもう一度くるりと四人を見渡した。同じ顔ふたつ。春さんひとり。要先輩もひとり。

「うそだぁ」

勝手に溢れた言葉に、双子はそんな事をいうのはこの口かなーとか二人一緒に声を揃えて、ぐにょーん。ぐにょーん。

「悠太どうしよこれ凄くのびる」
「のびるのびる」
「いやお前らやめてやれ」

嘘だぁ。こんなぐっちゃぐちゃなメンツが一緒なんて、ウッソだぁ。ほっぺたを伸ばされたまんま、ああでも、俺もう一年早く生まれてたらなぁ、とちょっと後悔した。や、俺が後悔しても、しょうがないんだけど。
そしたら、先輩と一緒にずっといれたかもしれない。春さんと、一緒に遊べたかもしれない。ああ二人のちっちゃい頃って、可愛かったろうなぁ、みてみたいなぁ、双子はおいといて。

ぼけっとしていると、双子は、ぱっとお互い謀ったかのタイミングで指を放して、代わりに俺の頭を、二人交互に撫でた。少し力が強いので、前後に揺れる。凄くやめてほしい。


「………安心なさい」
案外声が優しかったので、痛い頬を撫でながら、少し妙な気分になった。変わらない表情のまま、口元を、少しだけつり上げた。二人一緒の顔だと思ったけれど、笑うとちょっと違う。少し意外だ。
もう一度、彼らは笑って、

「「要くんの恥ずかしい話なら俺たちもうバッチシだからあとでこっそり教えたげる」」
「いや本人そこにいるんですけど」





  

2008.09.14