ギン! ぎろぎろぎろ。



第4話   助けてせんぱぁい、





ぎゅっ、と教科書を握りしめた。だらだら流れる冷や汗に、斜め後ろの席へと、ゆっくりのんびり、気づかれないように確認する。そうっと、そうっと。
視界の端で、彼女を見た瞬間      ぎろりんちょ! (ほんげえええええ!!!)


なんか俺、超睨まれる。


「そりゃあお前、好かれてんじゃねぇの」
「こ、恋ですかー!」

先輩はめんどくさそうに、窓の枠へと両の肘を乗っけて、身体を半分外へと乗りだし、ぼえっと空を見上げていた。ちょっと先輩危ないですよ。
その隣では、ぽーっと可憐ちっくに春さんが頬を染めていて、両手をぎゅっと握りしめ、中腰で俺を見る。

「いや恋とかそんなんより、こう……暴力的というか……」
野性的というか……
恐ろしいっていうか……

助けてせんぱぁい、とがばっと胴体にひっつくと「ああもう離れろ!」と怒られた。それでも先輩にくっついたままでいると、何だか妙な感じがする。別に先輩に妙な感じがしたんじゃない。いつも絡んでくる同じ顔した同じ奴らが変な感じだ。

彼らはぼけっと廊下の反対側の、教室用の窓がついた壁へともたれかかりながら、もさもさ前髪の弟の方が手に雑誌か何かを見てぴらぴらと捲っている。

「おい堂々とガッコでンなの読むんじゃねぇよ」
「いやいやちょっと待ってよ、君は知らないかもしれないけれども、この可愛らしい絵柄の表紙に反して中身がとても文学的な内容だったらどうする気だい。大体図書室の本はよくて雑誌は駄目だなんて横暴だよ。つまり文学的な内容だったら問題ないんでしょだったらコレも問題ないかもしれない。見てくれで注意するのは悪い事だよ」
「う、う、ぬ」
「まぁこれアニメ雑誌だけどね」
「お前もう駄目だ!」

ひったくろうと手をぶんっと伸ばしても、もさもさは「高いたかーい」といいながら本をぐいっと俺の頭のずうっと上へと移動した。「きいー!」「うわすっごい可愛い」「は、おおおおおま、ふざけ」「サルみたいで」「ムッキー!」「いやそろそろやめてやれよ」

その隣で兄のもっさーは、ふう、とため息を吐き頭を軽く左右に振る。
なんだよ、と視線を送ると、ぼそりと口を開いた。

「男のコイバナほどどうでもいいものはないよ……」
「恋じゃねぇええええええ!!!!」
「悠太くん、くんは本気なんです、からかっちゃ駄目ですよ」
「春さん違う、恋ちがう!」

ある意味一番やっかいな相手に誤解されたらしい俺は、相変わらずぎゅうっと両手を握りしめる乙女なポーズの春さんの両手を、ぎゅっと結び誤解を解こうとしたそのときだった。

バチーン! と頭にもの凄く微妙な衝撃が加わり、前後に脳みそをシャッフルさせる。
隣にぽとりと力なく落ちた太いゴムを拾い上げなんなんだ! とぶつけてきたヤツを、半分涙目で振り返ると、一人の少女が「クワッ! 食いとってやるゼ!」と野性的な目で睨んでくる。超恐い。
けれどもその瞬間、俺の脳みそは素早く回った。

「あああ先輩! 要せんぱい! あいつ! あいつー!」
「え、うん、あ」

その女子は、小さな体にふわわっとスカートと、頭の高い側面を、ちょこんとくくった、柔らかそうな髪を揺らした。


「春ちゃんにちょっかい出してんじゃないわよ!」
「え、ええ!」

キイイ! と睨まれ、俺は思わずに2、3歩引いた。やっぱりこの子恐い。超恐い。
俺がビクついていると勝算を感じたのか、ふんっと力一杯鼻をならし、どすどすと廊下の角の向こう側へと消える。消えようとした。その瞬間振り返り、「べー!」 ………べーされた。


ね、恐いでしょー! と要先輩と、何故だか名指しをされた春さんは、とっても微妙な顔をして、相変わらずもさもさーズは変わらない表情のまま、どっちかっていうとニヤニヤと嬉しそうな顔をして、俺へと視線が集中する。なんだこれ。

くんって、茉咲ちゃんと同じクラスだったんですね」
「うん頑張れ」
「がんばがんば」
「お前、クラスでもどこでもからかわれて、大変だなぁ」


あわされた言葉に、なんでこの人達が佐藤さんの事を知ってるんだ思いながら、先輩最後の台詞ちょっとヒドイですよねと思った。



  

2008.10.14