「偉いな、家族想いなんだな」と。
差し伸べられた手は、暖かかった。
私の夏は終わった。
頭の中から彼が離れません助けてください。
クリーニングに出したての制服に袖を通して、久しぶりの廊下を、かんかんかん、と足を鳴らせて歩く。一瞬ふらりと、視界が真っ白になってしまったのは、昨日遅くまで悠くんの夏休みの宿題を手伝っていたからだ(手を出さないように、って毎回決めてるんだけど、やっぱり手が出ちゃうんだよ…)
「うう、ねむ、い」
ふらふらふら。面白いぐらいに後ろへかけてしまった体重に、後頭部だけ、何だか妙に重くなったようで、ふらふらふら。
あ、倒れる、と丁度思ったときだった。
「うっわ、あぶね」
ぼすっと何かの柔らかい布の中につっこんだような音と(でもなんか硬い)私の両腕と、始業式の軽い鞄は、大きな手に包まれた。ナナメな格好で、ぼけーっと前を見続けていると「おーい」低い声が頭の上から聞こえる。「おーい」半分開いていたまぶたが、落ちたり、あがったり。うとうとうと
「オイ! 、聞いてるのか!」
「ひ、はいぃ! って、高瀬、せんぱい」
ばしっと叩かれた頭をぎゅ、と握って、そのまま垂直に見上げると、真っ黒の髪の毛に、ちょこっと垂れ目の……おかしいな、先輩は、中等部を、もう卒業したはず、なのに。
「、お前寝ぼけてる?」「……寝ぼけて、ます」
ガリガリと、高瀬先輩は自分のその真っ黒な頭をひっかいて、ただでさえ垂れ気味のおめめを、うすーく細めた(な、なんなんだろう……)
それで先輩にもたれかかったままだった私を、よいしょと真っ直ぐに立たせて、ぐるん、と回した後で、じーっと見つめられた。な、なんです、か?
「あの、せんぱい」
「ああ、利央も、もう引退だろ?」
「は、はい」
「だったら、高校の方の野球部の手伝い、してくれないかって、頼みに来たんだけどさ」
すぐ頼みたかったんだけど、利央がうるさいし。とぼそっと呟いた高瀬先輩の言葉に首を傾げると、「や、なんでもない」といわれて、にかっと笑われた。ぽっと赤くなった頬が、ちょっとかわいいなぁ、と思う。「先輩、わたし、お手伝いに行きますよ」「やっぱいい。家帰って寝てくれ」「だいじょうぶですよ」「明日から頼むからさ」
中学んときから無理に手伝って貰ってて、悪いけど。とはにかみながら、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる先輩の硬い手が、うっすらと、うっすらと、ほんの少し前の事を思い出した。
『偉いな、家族想いなんだな』……だいすき、なんです。
思わず赤くなりそうなほっぺを、ぺちりと両手で触って、(う、うわぁ、あついぃ…)「!」「はいぃ!」
ぽんぽん、ともう一回頭を優しく叩かれて、にこりと優しく笑う先輩に、あの人が、かぶるなんて。(………重症、なんでしょうか)
ふらふらとする頭を抱えて、今日はもう家に帰ったらお昼寝しよう、と考えた。
(悠くんに、邪魔されませんよーに!)

2007.10.31
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