取りあえず、俺はそろそろ勉強を始める事にした。


6話目   まさかそんなと口が開いてふさがりません




俺は受験生だ。志望する高校は別に偏差値自体はそこまで高くないし、俺だったら(多分)十分通ると思う。けれどもそんな悠長な事を言っていて、春になって泣きを見るはめになる可能性だってある訳で。

すっかり寒くなってしまった温度に、上着を一枚取り出して被さる。「あれ梓どこに行くの」「図書館。ベンキョー」「家ですりゃいいのに」それが出来りゃ苦労しないよ、と心の中で思って、母さんに「行ってくる」とだけ呟いて、鞄をつかんだ。寒いから手袋もつけてったら? って声が聞こえたけど、俺は玄関の扉を開けた。



ウイイン、と自動ドアが開いた音がして、一歩踏み入れた。生暖かい空気が、ぶわっと広がって、受付の人とパチリと目があったので、取りあえずお辞儀しといた。そしたら笑われた(……ひでぇ)
自習室は確か二階だったか、と入って左の階段をカンカンカン、とあがる。ガラス張りの扉を引いて、ちらりと中をのぞく。案外多い人と、ざわざわと聞こえる声に、意外と五月蠅いんだな、と思った(そういえば、誰かが受験シーズン、図書室が五月蠅くなる、といっていた、気がする
)扉に貼られた『私語禁止』の文字が妙にかすんで見えたけど、よいしょと扉の中に入った。


(…この頃俺は、妙な癖がある)ちらっと辺りを見回した。一人一人、チェックしていくように端から端に、目を通す。(妙な、癖だ)端っこを通るようにして、ちらり、ちらり。
(人が多いとこじゃ、絶対俺、確認するんだよな) 一瞬、真っ黒な髪の、ポニーテール「……っ」

ふわっと見えた後ろ姿に、いつもまさか、と思う。そんで思わずこっそり近寄って、一人で落胆する。お前バカじゃないのか、と聞こえる声に耳を耳を塞いで毎回、毎回。どうせ、今回もなんて声。もういい加減にしろよ、って声。けど、俺の足は動く(もしかしたら、なんて言葉があるじゃんか)

なんでこんなに気になるのか。なんて特に理由もない。気づいたら、あの公園近くの曲がり角に足は向かって、気づいたら真っ黒な髪の女の子を捜してる(カツカツカツ)(また違うんだろうな)(でも俺は、)
ドスン、とその子の机の前に、鞄を置いた。伏せった顔に、どんな子か分からないけど、俺は鞄のチャックをあけて、ルーズリーフを取り出すマネをしながら、その子をちらりと見てみた。
カリカリカリ。聞こえるシャープペンシルの音に、一瞬、だけ。


ちらりと見えた表情は、泣いても笑ってもいなかったけど、パチリと開いた瞳は純粋にかわいいと思った。でも俺は、泣いてたときも笑ってたときも、もっとかわいいと思った(なんだそれ俺)


(ああ俺、多分この子の事、好きなんだな)

彼女の鞄からほんの少し見える問題集の名前が、田島、と書かれていた。



(………ヤベ、驚きすぎて実感わかないっつの)







  


2007.11.12