「………いいなぁ」

ガリガリガリ。問題集へと向けられていたウチくんの視線が、私に向いた。「…、なにが?」




「まったくもってよくないぞ!」と民夫くんが、シャープペンシルを持ったままに叫んだ。なんでも今年高校生となる彼らは、学校側からの宿題として、問題集を配布されてしまったらしい。新学期が始まるまでにソレを終わらせちゃいなさい! となんともむち打つような所行に、彼らは追われていた。

けれども私といったらそんな宿題なんて出ていない訳で、無言でカリカリペンを走らせる彼らを、じぃっ、と座布団を抱きしめて見詰める事しかできない。フレフレウチくん! フレフレウチくん! 頑張って応援してたら、「うるさいぞ」とウチくんに怒られた。

「いいよう。だって私も、ウチくんと同い年だったら、民夫くんみたいにいっつも一緒にいられたのに」

座布団を抱きしめたまま呟くと、丁度口に含んでいたオレンジジュースを、ウチくんはストローでぶぼっ、と逆流させた。
小さなふつふつとした泡が、ジュースの表面に躍り出る。

「いっつも一緒にっておまえ、そういう事本人の前でいうなよなっ」
「だって、いいなって思うんだもん」

ぐ、ともう一回座布団を抱きしめると、いい加減皺がついてきてしまった。なんだか喉が乾いたものだから、私も、とコップに手を伸ばすと、からん、と冷たい氷が中で揺れる音がする。透明なガラスは、オレンジに染まる事なく、透明なままだった。

「ウチくん、なくなっちゃったからちょうだい」
「自分で台所にいけよ」
「めんどくさいよ。ウチくんのちょうだい」
「ばか」

もう一回、ぶばっと逆流させた後に、また怒られた。カリカリカリ。静かに問題集に鉛筆を叩く音がまた聞こえて、あんまりにも暇だったので、ごろんと茶色いフローリングに寝っ転がった。「俺は?」

誰か何か呟いたな、と思ったけれど、ウチくんがこんなに低い声な訳がないので、一人しかいない。「俺は?」「なにがぁ、民夫くん」
寝っ転がったまま、顔をのぞき込んだ。


「俺がと同い年だったらどうなるんだよ」
「ええ、民夫くんとー?」

なんで民夫くんとー? とでもいいたげな私の口調に、ウチくんがこっそりと「俺と民夫は同い年なんだけどな」と呟いていた。なんとなくそれは分かっているんだけど、もっさりとしたおひげさんと、あんまりにも違うサイズの差に、なんだか妙な気分になってしまうのだ。


「うーん、民夫くんとかー」
「おう」
「た」
「た?」
「他人のふりしたいかも」

取りあえず、おひげそろうよ。と助言してみたら、「フレディーをバカにするな!」と怒られた。


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2008/08/24