時間ってはやい。このごろよく、そう思う。



「民夫くん、なんでウチくんは、今日はお家にいないのかな?」
「それを言うんなら、なんでがいて、ウチくんが俺の前にいないのかな?」

二人一緒にそんな言葉をもらして、ぼんやりとリビングのソファーにもたれかかった。私達は一体何をしているか。
私とウチくんと民夫くんはお家が近い。近いというか、ほとんど向かい合ったお隣さん同士で、周りに子どもがいないからか、子ども会ではいっつも三人セットだった。おうちの人の仲もいいけれど、両親が仲がよくて私達も仲がいいのか、それとも私達の仲がよかったから両親の仲がよくなったのか、実はちょっとよくわからない。

「俺のウチきゅんが、あと二日も帰ってこないなんて……」
「民夫くんのじゃないよ、私のだよ」
「俺の」
「私の」

相変わらず私と民夫くんはバトっていた。とにかく私達はウチくんのことが好きで、真ん中をウチくんにして、ぐるぐると二人で一緒に回っている。ウチくんはいっつも迷惑そうな顔をして、しょうがないなあ、と溜息をつきながら、私と民夫くんの手をひっぱってくれる……のは数年前の話で、さすがに中学校を卒業した今となっては、そんなこともしてくれない。「子どもの頃にもどりたいよう……」「いや、お前は十分子どもですから」 小学生以上中学生未満ですから。

親戚の集まりがあるとかで、しばらく消えてしまったウチくんの残り香をかくように、私達二人はくんかくんかと鼻をならした。いや、ここは民夫くんのお家なので、あんまり意味がないと言えば意味がない行為なのだけれども。「子どもの頃に戻りたいなあ」 また言った。

なんだよ、と言う顔をして、民夫くんはちらっとこっちを見下ろした。相変わらず濃い顔だった。「小学校のときは、ウチくんが一緒だった」 一緒に学校に行けた。「あと一歳はやく生まれてたら、一緒の学校に行けたのに」 あと数年我慢したら、一年だけでも一緒の学校に行くことができたのに。

ぷー、と私が一人で頬をふくらませて体育座りをしていると、「この間も、おんなじようなこと言ってたなあ」と民夫くんが呟いた。
昔はよかった、とよく思う。中学に入って、ウチくんは部活に入って、前みたいに遊んでくれることはなくなったし、一緒にいる時間だって減った。相変わらずちっちゃいけど、少しずつ身長が伸びてきた。もっと相手をしてほしいな、とよく思う。

「……民夫くん、ウチくんって、かのじょ、いないよねえ?」
いたらきっと分かるはずだ。でも、ウチくんはちっちゃいけどかっこよくって、気がきいて優しいから、もしかするとそんなこともあるかもしれない。民夫くんは、ほんの少し考えるように間を置いたあと、「さあなあ」と言った。「本人に聞いた方がいいと思うけどなあ」「……できるわけないし」「って意外と繊細だよな」 チキンだチキン、と笑っている民夫くんの横っ腹に蹴りを入れた。

「もーいい! 民夫くんに聞いた私がばかでした!」
「なんだよう。そんな言い方するなよう」
「民夫くんなんて一生彼女できなさそうな雰囲気してるくせに!」
「なんでだ! なにが悪い! 俺の何が悪い!」
「主におひげ! あと趣味!」
「フレディーの何が悪い!」
「フレディーは何も悪くない! 悪いのは民夫くん!」

生産性がない闘いである。
お互いゴスゴスと足を出し合って、くるっぽー、と6回なった鳩の声をきいて、「そうだ、みつあき2号に餌やらないと」と民夫くんは立ち上がった。「……いーなー民夫くん。みつあき2号、うちで預かってもよかったのに」「のとこはお父さんがアレルギーじゃん」「……みつあき2号はかわいいから大丈夫だし……」「無茶言うなよ」

無茶じゃないよう、と腰の後ろで手を組んで、大きな民夫くんの後ろをてくてくと歩く。「あーあ、ウチくん、いつ帰ってくるのかなあ」「二日後だよ」「私、ウチくんに用事があったのにな」「俺だってあったし」「民夫くんはウチくんと一緒にゲームとかじゃん……私もするけど……」「俺とウチくんの邪魔をするやつは何人たりとも許さんぞ」 まさにこっちの台詞である。

あーあ、ともう一回ため息をついたら、ざらざらざら、とみつあき2号のお皿の中にご飯を入れていた民夫くんが、ちらっとこっちを見上げた。「なんだよ」「ウチくんに会う用事」「別に大したことじゃないだろー」「大したことですし」 中学校の制服、ウチくんに見てもらって、可愛いって言ってもらう予定ですし。


言った後にちょっと照れて、ぱたぱたとスカートの横で手のひらを動かした。民夫くんが座り込んだまま、ぼんやりとこっちを見つめている。みつあき2号はもぐむしゃとドックフードにかじりついた。「ウチくん、意外とそういうの無視するぞ?」「無理やり言わせるんですし」

まあがんばれ、とやる気のないエールを呟いて、「そうか、も中学生かあ」 俺たちは高校生かあ、と高校生にしてはどうにも濃い顔を感慨深気にして、民夫くんは呟いた。おっさんくさい。





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2012/09/20