IH予選地区大会、シングルス結果。三回戦進出。 んー、と私はベッドの上に転がって考えた。ごろん、と寝返りして、ピンク色の枕を抱きしめる。夏が遠く過ぎていく。パッと立ち上がった。 自分の分のお弁当を作って、もう一つ、と余分のお弁当箱にあまりを詰めようとして、ふらふらと両手を宙に浮かせた。ぺちぺち、と目の前で手のひらを叩いて、ぶんぶんと首を振る。これはなし。 花柄の包みでお弁当を包んで、鞄の中に入れる。水筒には紅茶を入れた。まだまだ外は暑い。帽子をかぶって、昨日メモした地図を手に持って、バスに乗った。 秋の新人戦、9月。 本日晴天。 (ま、ま、ま、まくのがま……) 帽子のつばをちょいと上げながら、私はふと首をかしげた。てんてんてん、と指でさすって、見つけてみる。知らない学校の名前だ。確か隣の地区だったような気がする。去年、ウチくんが三回戦に戦って、負けた学校の名前だったと気づいたとき、ムッとパンプレットを指先で叩いていた。そうした後に、「あ、ごめんなさい」とぐしぐしこすって、「団体一回戦、がんばれ」と誰に聞かせるわけもなく鼻から息を吸い込む。 なんてったって中学から続けていて、頑張りやで、部活の中で一番テニスが上手だった、ということもあったけれど、そもそも部員の人数がいなかった。団体戦のシングルスに出場、けれども惜しくも一回戦で敗退というのが春の結果である。 個人戦ではウチくんは三回戦に進出。ダブルスは民夫くんと。「ウチきゅんのパートナーは誰にも譲らんッ!!」ということらしいけれども、残念ながらそれも一回戦で敗退。IH予選地区大会は三日間開催されるので、私は最終日であるダブルス戦を見ることができなかった。だから今回、ウチくんたちのダブルス戦を見るのは初めてということになるのだけれども、なんだかちょっと不安である。 この間の予選の後、民夫くんは延々とウチくんに謝り続けていた。ウチくんは基本的にスルースキルが高いので、そんな民夫くんを、黙々と無視していた。 (…………がんばれ) もう一回、帽子をかぶり直す。こそこそと遠目で見ると、春のときと、一人だけメンバーが変わっている。三年生が一人、とこの間ウチくんが言っていた。もしかすると、その三年生はもう春で引退してしまったのかもしれない。 ぱか、ぱか、と黄色い球が、勢い良く飛んでいく。団体戦ダブルスは6-0のストレート負け。続くシングルス1のウチくんも、惜しくも接戦して、やっぱり負けてしまった。幕ノ鎌も、向陵と当たるなんて、運が悪いよな。そんな呟きが聞こえた。私はきゅっ、と唇をかんで、かしゃん、とフェンスに指をかけた。ふと、言葉にしづらい感情が現れた。私が、こんなことを思ったってしかたない。 伏せていた瞳を表にあげて、ふー、と息を吸い込んだ。がんばれ。 がんばれ、ウチくん、民夫くん。 ふと、ウチくんがこっちを見たような気がした。私は慌てて背中を向けてしゃがみこんだ。どきどきどき、と心臓がビックリした音を立てている。大丈夫、バレてない。大丈夫。きゅっと両手を合わせた。(がんばれ、ウチくん) それから、一回戦で幕ノ鎌と対戦した船橋向陵は団体戦優勝。続くシングルス戦は、IH予選地区大会と同じく、奮闘を見せたウチくんは三回戦まで進んだ。とにかく私はコソコソ木の後ろに隠れて、ぱちぱちぱち、と必死に拍手を繰り返した。ただし、民夫くんとの団体戦は想像の通りのボロボロで、民夫くんという穴をつかれにつかれまくった結果一回戦敗退。まあでも、民夫くんだって頑張っているのだ。 とろりと垂れる夕日を見上げながら、私はぽそりと呟いた。「…………おつかれさま」 *** ピンポーン、とインターホンがなる音が聞こえる。私はごろごろとソファーから転がって、「はーい」とひっかけを履きながら扉を開けた。かちゃん、と開いた音の向こう、インターホンの前にタッパーを抱えたウチくんが立っている。「ちゃんと確認してから開けろよ」 彼は呆れたような声を出した。 ごめんごめん、と私は慌ててポーチを飛び降りて、ウチくんの隣をぐるぐる回った。「ウチくん、ウチくんどうしたの? どうしたの?」と嬉しくなって、ウチくんのシャツをぐいっとひっぱると、「これ、こないだのお礼って母さんが。かぼちゃの煮付け」「あー」 ご飯のおすそわけだ。 「ありがとうって伝えといてください」とぺこ、と頭を下げながらタッパーを受け取ると、ウチくんが、じいっと私を見下ろした。「あのさあ、、お前今日さ」 ギクッとした。体をカチッとかたまらせて、「…………ええ〜?」 じわじわ、と振り向く。「まあいいけど」 と溜息をつかれた。びっくりした。こっそり応援に行ってしまったことがバレてしまったのかとドキドキした。 「ちゃんと宿題提出したか?」 大丈夫か? と門扉に手をかけて、訝しむみたいにウチくんが私を見つめるから、「なにその、まじめに夏休みの宿題してない的な雰囲気」 とムッとした。 「だってお前、いっつも大量の宿題抱えてやってうちの家に来てたろ。この頃は来ないけど」 「べ、べつにそれは」 宿題をしていないんじゃなくって、ウチくんたちと一緒にいたかったというだけなのだけれど、説明するのはさすがにいくらかの気恥ずかしさがあった。 「邪魔、するのヤだから、行かないだけで……」 だから、後者の言葉の意味だけ呟くと、ウチくんはきょとんと目を瞬かせた。かわかっこいい、とか思ったら、またほっぺが赤くなって顔がどんどん下がっていく。 「変なこと気にするな、お前」 こつ、と小さく拳でおでこを叩かれた。あう、とちょっとだけのけぞった後、手のひらをおでこでさすった。「そんなこと今更だろ」「いまさら?」「基本的に十分ジャマ」「うお、う……」 だからンなこと気にする必要なし、とまたこつりと叩かれた。 私は赤くしたほっぺを誤魔化すみたいに、むぐむぐと口元をもごつかせて、鼻から息を吐き出した。それから、「へへ」と笑いながら、ちょん、とウチくんのズボンをつかんだ。「あの、ウチくん」「ん?」「試合、おつかれさま」「うん」 ぽつぽつ、と電灯がちらつく音がする。少しずつ、静かな季節に変わっていく。 ← TOP → 2012/09/22 既にお気づきとは思われますが、色々捏造多めです。 なるべく原作から展開を汲み取っていきたいとは思っていますが、私の読み取り不足&知識不足があることをご容赦ください。 |