カレンダーの日付を見つめる。うーん、と唸って、唸って、顔をひんまげて、首を曲げて、考えた。「決戦じゃ!」 叫んだひとりごとの向こう側で、テレビの中ではパカラッパカラッと馬が元気に駆けている音がする。別に影響されたわけじゃない。
ぐるぐるぐる、と赤丸の花丸で囲まれた印を見て、自身の気合の入り用を確認した。2月14日。決戦の日だ。





「ウチくん、甘いもの食べたくない?」
ねえねえ、ねえねえ、とウチくんの服をひっぱると、「えー? まあほどほど」とあくびをして、うとうとと瞼を落とす。その隣では、民夫くんが、「眠そうなウチきゅんもかわいい」 なんて語尾にハートをつけながら口元に拳を置いて、乙女のようなポーズをしていた。何か負けたような気がした。

「あのね、あのね、ウチくんこれ!」 斜めがけした鞄のチャックを開いて、どうぞ、とラッピングしたクッキーを渡す。ウチくんはしばらくきょとんとしていた後、「ああ、そうか。ありがとう」とちょっと笑った。ばふっ、と爆発した後あわあわして、「あ、あの、ほ、本命です!」「はいはい」 相変わらずのスルースキルの高さだった。凹まない。

「あ、民夫くんにもどうぞー」
「おおー、ありがとうー」
「一応念のために言っておくけど、超義理な義理義理クッキーだからよろしくね」
「わかっとるがいちいち念押しされるとむかつくなコラ」

うごごごご、と両方のほっぺを片手で鷲掴みされた。真ん中に挟まれたウチくんは、相変わらずのスルーであった。ごそごそ、とウチくんがラッピングをほどいて、じー、クッキーを見つめていた。「毎年のことだけどさ、、お前うまくなったなあ」「ほんとー!?」「最初のときなんかグリコの板チョコ振り回しながら『愛は溢れてるんでたべてくだちゃい』とか緊張して舌かんでたよな」「ちょっと民夫くんは今すぐ黙って」

ギリギリクッキーすらも取り上げちゃいますことよ!? と今度は私が民夫くんの口元をがつっと掴むと、「うごごごご」と彼は人外の言葉を発していた。「あ、うまい」「えっ」 べしっ、と民夫くんが遠ざかる音がした。

「ウチくん、ほんとほんと?」
「うん。うまいよ。ありがとう」
「う、ウチくん、すきですけっこんしてください!」
「はいはい」

ポリポリポリ、とクッキーを食べる音が聞こえる。なんだか色々タイミングをミスった。あぐおー、とごろごろとだらけていたとき、「あらちゃん、民夫くん、来てたの?」とウチくんのお母さんが、ひょい、と階段から顔を覗かせた。「あ、ご、ごめんなさいご挨拶もせず!」 いつもおすそわけありがとうございます、と慌てて正座をしてペコペコ頭を下げていると、からからとお母さんは笑って、「いいえー、こっちこそー」と笑うおばさんに、あ、そういえば、と鞄の中からクッキーを二袋取り出した。「これどうぞ、おじさんにも!」「あらまー」

ちゃん毎年ありがとうねえ。うちは息子しかいないからこんなこともないし」
「でもウチくんは下手な女の子よりかわいいです! おばさん似です!」
「あらー。うれしいわー」
「こらそこ。こらそこ」

コメントに困るようなことを言うな、とウチくんがぷっ、と頬を膨らますと、「そうだぞう!」と民夫くんがぐんと拳を振り上げた。「ウチくんは、可愛いんじゃない、かわかっこいいんだ!」「民夫うるさい」 ウチくんの拳が飛んだ。
「そんな男らしいウチくんも好き……」と言いながらしくしくカーペットに涙をこぼす民夫くんに、「あ、これ民夫くんのとこのおじさんとおばさんの分です」と二袋をパスする。「渡しときます……」 ずるずる、と民夫くんが鼻をすすっている。

「毎年毎年、も律儀だよな」
そう言って、もう一口と、ウチくんがクッキーを頬でふくらませる。「なんで? あ、みつあき2号には後でお手製食パンあげるね」「どーも……」 わんこに甘いものは駄目だもんね! といいながらウチくんの前にてこてこと移動して、カーペットに手のひらをついたまま、じいっとウチくんを見上げた。不思議そうな顔をするウチくんに、「あのね、ウチくん」 ちょいちょい、とウチくんの服の袖をいじる。
「みんながおいしいって言ってくれるの、私すごく嬉しいなあ」 

そう言って、にか、と笑ったら、ウチくんはじわじわと耳を赤くした。パッと民夫くんが起き上がった。「激写ーッ!!!!」 カメラなんてもちろんないので、「心のカメラで激写ーッ!!!」「げきしゃーっ!!」「お前らうるさいッ!!」 びしっ、とデコピンされた。ちなみに民夫くんへは蹴りだった。

「ウチくんウチくん、ホワイトデーは一緒に遊んでほしいな! ほしいな!」
「部活がなかったらな」
「わーい!」

やったーやったー! と両手をあげて万歳すると、「ずるーいずるーい俺もぉ、ウチきゅん俺もお!」とバタバタお髭の3歳児が暴れている。「はいはい」と相変わらずウチくんはスルーして、くあ、とあくびを一つした後、座布団を枕に寝っ転がった。「眠そうなウチきゅんかわいい!」「いー!」 民夫くんと一緒に二人で飛びつくと、「お前らジャマだッ!」とウチくんにほっぽり出された。




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2012/09/22