「やー、なつかしーなー、かわいーなー」 なんて言いながら、民夫くんがぴらぴらとページをめくっている。私はその仕草を見て、ぶーっ、と頬をふくらませて見つめていた。羨ましい。でも、見たい。絶対見たい。

ぷにぷにとしたほっぺに、小さな手のひら。ぽてぽてしてて、きょるりとこっちを見上げる瞳にきゅんと来る。「ううう、あああ、うううう……」 わきわきわき、と私は手のひらを動かした。「民夫くーん!!! この写真ちょうだい、ちょうだい、幼稚園児ウチくんちょうだーい!!!」「ダメに決まってるだろぉー!!!」

すぱあッ! と滑りこむようにアルバムに顔をつけると、珍しいことにも運動神経を発揮した民夫くんが、必死の形相でアルバムを持ち上げる。フローリングにこすれたほっぺが痛い。私は虚しく両手をぽとりと床に落とした。

「…………なんで、民夫くんだけ、そんなスペシャルなもの、もってるの……?」
「まあ腐ってもよりもウチくんと一緒にいるしな!」
「ずるいよー……」
もう民夫くん、存在自体がずるいよお、としくしく涙が出てきた。

とらないからもう一回、とちっちゃいウチくんを確認する。お泊り保育で、頑張って自分でパジャマを着て、その後ろでは民夫くんがひんひんと泣いている。次のページでは、「泣くんじゃない」とばかりに民夫くんの頭に手のひらを伸ばして、よしよしと撫でている。かわいい。かわいい。ウチくんかわいい。「民夫くん、私、可愛すぎて涙がでそう」「俺も思い出し萌えして泣いちゃいそう」

ううううー!!! と二人して両手をパタ付かせていると、「うるさい……」とウチくんに怒られた。ベッドの中で、ウチくんがごそごそと動いている。私達はお口にチャックをしっかりして、またアルバムを見た。「うううううー!!!」「ウチきゅんキュートォーッ!!」 叫んでいるように見えて、実のところ静かに声を押し殺し、私達は己の萌えを吐き出した。超かわいい。

いったいなんでこんなことになったのか。お休みの日だから、民夫くんのお部屋でゲームをしようよ、となって、それじゃあウチくんに楽しんでもらうために、いったいどのゲームが一番素晴らしいかということを民夫くんと二人で討論することにしたのだ。どうせお前ら揉めるんだから、最初のうちに決めといてくれ、というのがウチくんの言なのだけれど、どうにもやる気に満ち溢れすぎた私達は、ぐうすか眠る朝の日差しが消えないうちにウチくんのお部屋に突撃して、きゃいきゃいしているわけである。

一応ゲームは決まったものの、ウチくんはまだ寝てるね、暇ですね、と私達は頷き合って、二人でプレイも寂しいということで、民夫くんがお家から持ってきたアルバムを顔を見合わせて確認して、あうあう萌え叫んだ。

「……民夫くん、ほんとにこれくれない?」 ウチくんかわいいとちょいちょい、と指でさする。民夫くんは口元をつんとさせて、「ダメに決まってるだろ。俺の命の宝なんだぞ」「……カラーコピー」「なんだかもったいないからヤダ」「民夫くんー!」「ウチくんにまた叱られるだろー!」

ぐいぐい顔を大きな手のひらで押されて、暫くの間バタバタと暴れまわった後、私はため息をついて諦めた。ぽて、とウチくんのお部屋で転がって考える。それからすくっと立ち上がった。「?」 ウチくんの部屋を出て、おばさんに頭を下げて、自室に戻ってガサゴソ机をあさり、再び戻ってくる。「どったのお前」 ぱちくり、と瞬きする民夫くんに、ちゃきっと手の中の荷物を見せた。「つーかーいーすーてーカーメーラー」 ドラ○もん風。

私はこそこそウチくんの布団に近づいて、カショ、と激写した。「寝顔のウチくんゲット」「ふお!?」 民夫くんが動揺にふるえている。もう一回。カショカショ。「寝顔プラス横顔ウチくんもゲット」「ふおおお!!?」 静かにカメラをポケットの中にしまいこんで、ほくほく、と座り込んだ。後は起きているときにもう何度か激写すれば完璧である。

、お、お前……」
「ほくほく。ほくほく」
「何口で擬音語つかっとんじゃーい!!! 俺にも焼きましぃー!」
「ヤダ」
「カラーコピーするからあー!!」
「それならいいよ!」

交換成立とばかりにがしっとお互い腕を合わせると、「お前らうるさい……」とごにょごにょウチくんが呟く声が聞こえた。「ごごっ、ごめんねウチきゅん!」「静かにします!」 しー、と二人で口元に指の先を置いて、けらけら、と笑った。民夫くんも、嬉しげに笑っていて、俺たち、ウチくんが大好きだよなあ、とぱくりと小さなウチくんには聞こえないくらい、小さな声で呟いた。「うん」




てくてく、と河川敷を歩いて行く。
胸の中には写真屋さんからもらった紙袋を抱えている。寝顔のウチくん、民夫くんへの焼き増し分。ついでに、あのあと起きたウチくんに、「お前ら何やってんの?」と呆れたような顔をされて、いつの間にかのごたごたの後、ゲーム大会から写真大会に変わったネガが入っている。三人で無理やりピースしてとった写真は、変にピントがずれていて、ちょっとだけおもしろい。

(…………大切にしよう)
もう一度、きゅっと写真を抱きしめた。鼻の頭はつんと寒いのに、耳ばかりがカッカと熱くて嬉しくなる。きゅーんとした。そんな風にえへへ、と笑うと、なんだか自分が変な子みたいで、通り過ぎる人の気配にきゅっと口元を引き締めて前を見た。
タッタッタ。
男の子が通り過ぎる。「よーし、もうちょい行くぞー、デカプリオーン!」 でかぷりおん。
一瞬、美形の外国人俳優が思考をよぎった。なんとなく振り返っても、わんこはパタパタと尻尾が見えるだけで、何の犬種かわからない。後ろ髪と刈り上げた男の子が、タッタと走って消えていく。私は数秒の間、その背中を見つめた後、またくるりと振り返った。つめたいほっぺに指をあてた。「まだ寒いなー」
てくてく、と私の影が、にゅっと後ろに伸びていく。オレンジ色の光を見つめた。

こうして、私の中学1年生の時間は過ぎ去っていく。
まだまだ小さな子どもだった、静かなときが、ころころと変わって、消えていく。




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2012/09/23