「あの、ごめんね、ウチくん……」 「別にいいけど」 むきむきむき。私とウチくんは、机の上にボールを置いて、黙々むきむき、ぷちりと緑の枝豆と戦っていた。「うちのお母さん、ウチくんにすぐ甘えるから……」「お前とそっくり」「えっ」「いや、別にうちの家だって同じようなもんだろ」 そうかなあ、そうだったらいいなあ、とうにょうにょ口の中で言葉をつぶやいて、ぷちりと枝豆の端っこを切って、筋をとった。 丁度庭にウチくんのお母さんが見えたから、あらあら大河内さん、あらあらさん、旦那も家にいませんし、二人でどこかに行きませんか、いいですねえ、あらいけない。枝豆の掃除をするつもりだったのに、だったらうちの光明を手伝わせたらいいんですよ。あらあら。お言葉に甘えまして! なんて流れで、あっさりウチくんのお母さんの提案を受諾してしまったに違いない。お母さんグッジョブ。というのは心の奥にしまいこんで。 「別に、これくらい私一人でもできるし。ウチくん忙しいのに」 「二人の方が早く終わるし。俺、今日はすることないから」 「部活、お休み!?」 うん、とウチくんが枝豆の一個をボールに落として頷いた。だったら、立ち上がろうとして、やっぱりうにょうにょと座り込んだ。だったら一緒に行こう、そう言おうとしたけど、せっかくのたまのお休みなのだ。そんなこと言えやしない。ただでさえ、枝豆ぷちぷちコーナーと化しているのに。 私とウチくんは、黙々と枝豆に向かい合った。お父さんの職場の人から大量にもらってしまった枝豆は、ずんぐりと積み上がっている。今日の晩御飯は枝豆祭り決定である。「、学校どうなんだ?」「面白いよ」「クラス替えとかあったろ」「小学校から同じ子、結構いるし」 尚田くんとは離れてしまったけれど。「ふーん」とウチくんは唇をつきだして、ぼんやりと瞳を細めた。別に特に意味があったわけじゃないんだろう。私はおずおずしながら、無意味な瞬きを繰り返した。「ウチくんは、その、部活は」 ウチくんのことはいっぱい知りたい。いつも何をしてて、お友達はどんな人で、どんな勉強をしてて。小さなころは、ねえねえ、といっつもウチくんの手をひっぱれた。でも気づいたらそれができなくなっていて、なんだか訊くのが申し訳ないような、変に思われたらどうしようとか、そんな不安ばっかりがいっぱいになってきた。(好きだから、知りたい) そんなふうに思っていることがバレてしまったらどうしよう。 バレるも何も、いっつも好きだと言っているのに、なんで私はこんなふうに恥ずかしく思っているんだろうと不思議な感じだ。別に、あの頃から何年も経ってるわけじゃないのに、悔しいような、苦しいみたいな。「部活なあ。あー……、ああ、新入部員が」「部員が?」「変な奴が多いかも」「へん」 嫌な意味の言葉のようには思えなかった。私はこてりと首をかしげて、黙々手元を見つめるウチくんを見た。高校に入っても、やっぱりあんまり背は伸びなかった。「民夫くんより?」 お髭の幼馴染を思い出してみた。「いやあれとは方向性が違うっていうか」「方向性」 変にも色々あったのか。 「悪い変?」 「まだよくわからない。でも個性的だと思う」 「テニス、強い?」 「うん。一人はめちゃくちゃ。もう一人ははちゃめちゃ」 「新入部員は二人だけ?」 「いや、四人いるよ」 そうなんだ、とウチくんと会話が続くことが嬉しかった。「大会、その二人もでるの?」「うん」「うちくんも出るよね」 応援しに行くよ、という言葉は飲み込んだ。「出るよ」 きゅっと唾を飲み込んだ。 「がんばってね」 なんてこともない風な顔を作ってみた。でも本当は、ものすごく気合を入れた言葉だった。椅子の下にある足が、かちんこちんになっている。ぶちり、と枝豆の端っこが大量に切れてしまった。「おお」 きゅっと胸が痛くなって、嬉しくなった。えへへ、と緩みそうになるほっぺをひっぱった。そのときだ。「ー!!!!」 窓の向こう側から、悲壮な声が響いていた。「民夫!」「民夫くん!?」「お、お、お、おまえら、ずるいぞぉ……」 べったりと窓ガラスに両手と額をくっつけた民夫くんが、ぼたぼたと涙を流しながらこっちを見ている。ガラスの向こう側の声は、ちょっとだけくぐもっているが、彼の悲しげな声はよくわかる。 「、お前だけウチくんと遊ぶだなんてー! 俺も仲間にいれろーい……」 「遊んでないよ、枝豆モードだよ」 「なんでもええわいっ! 仲間はずれはやめろー!」 「今はウチくんの時間は私のだから!」 「ウチくんとの時間は俺のものだーッ!」 「だからお前ら、いい加減にしろよ……」 ぷちぷち静かに枝豆を掃除するウチくんの声が聞こえる。開けろ開けろと叫ぶ民夫くんに、イヤですイヤですと首を振った。ついでにあっかんべーをした。ぶぎゃあ、と民夫くんが人外の声をあげて、悔しさを体で表していた。 (応援に行くよ) 誰にも言えない。でも、 (ウチくんと、民夫くんの。応援にいくよ) 春が、通り過ぎる。 ← TOP → 2013/02/16 |