ウチくんの学校、幕ノ鎌高校は、なんとビックリ展開を迎えているらしい。



相変わらず、ウチくんと民夫くんのペアは一回戦で敗退してしまった。ウチくんもシングルス、団体戦でも頑張ったけど、最後まで残ることはできなかった。それはさておき、幕ノ鎌高校1年生、滝田留宇衣さん、伊出延久さんの快進撃だ。ダブルス、シングルスともに地区大会優勝。

(おお、おお、おおおおお!)

初めて出会った人たちだけれども、やっぱり幕ノ鎌ということで、身内贔屓な気持ちになってしまう。がんばってください! とフェンス越しに刈り上げ頭の伊出さんと、メガネにふわふわ髪の滝田さんにエールを送った。(っていうことは、つまり) 次は県大会だ。(お、応援に、行こう、かな……) ウチくんの出番はもちろんない。でも、やっぱり気になる。でも電車賃、近いから、いやでも。

「うううう……節約、倹約をすればお小遣いの範囲内でなんとかなることも」
「お前、何言ってんだ?」
「うおう、ウチくん!」

家の前をぐるぐるお散歩していたらウチくんに出会ってビックリした、と言いたいところなのだけれども、そろそろみつあき2号のお散歩の時間だと、ウチくんに会えたらいいなあ、なんてこんなことをしていたのだから、ウチくんに会うのは当たり前だ。ふこふこと鼻の穴を大きくしたみつあき2号が、私の周りをぐるぐる回った。「おおお、みつあき2号、元気だねぇ」 ふんふん、とお鼻で返事をしてくれる。

、暗いから危ないって言ったろ」
「ジョギング、家の周りをぐるっとするだけ」
「お前文化部だろ」
「ダイエット!」

適当な言葉を言ってみたら、ウチくんは口元を長方形みたいにして、「はあ?」と呆れた声を出した。途端にものすごく恥ずかしくなって、言うんじゃなかったなあ、とひどく後悔した。でももう遅い。「するんならもっと早い時間にしとけよ」「ん」 てくてく、と歩くウチくんの隣に慌てて並んだ。

試合、おつかれさま。そう言おうとして、でもやっぱりやめた。この頃、ウチくんに言える言葉が、どんどん少なくなってきているような気がした。

「あの、ウチくん」
「ん?」
「2年生、ウチくんと民夫くんだけだよね、部長、誰がなるの?」
「ああ、俺。こないだ先輩が引退したから」
「あー、そっかー」

がんばってね、と言おうとした。でもこれも言えなかった。変な間ができてしまう。それがすごく怖くて、いっぱいに息をすった。「ウチくん、がんばってね!」「うん」 ぽてぽて、とみつあき2号が、短い足を必死に伸ばして歩いている。

「っていうかさ」
「ん、うん?」
「ウチくんっていうの、そろそろやめないのか?」
「え、え? え!?」

びっくりした。びっくりしてウチくんに食いついた。「なんで!?」「なんでって」 俺、もう高二だしなあ、とついたため息に、いろんな言葉が頭をぐるぐると回りだした。私だけじゃないじゃん、民夫くんだって言ってるじゃん、とか、今までずっとそれだったのに今更、とか、別に恥ずかしくも何もないよ、大丈夫だよ、とか、いや私が大丈夫でも、ウチくんが嫌なら、とか。

いろんな言葉を考えて、けれどもひとつもうまく言える自信がなくって、結局、全然違う言葉を言っていた。「だったら、他に、なんて、呼べばいいの……?」 これじゃあ、イエスと返答してるようなものだ。「え?」 ウチくんは、大きな瞳をきゅっと丸めた。「いや別に、呼び捨てでいいだろ」「よ、よびっ」 爆発した。

「お、大河内……?」
「お前は俺の先輩か何かか」
「だったらその」
「うん」
「み、み、み、み」
「おう」
「みっ」

息を飲んだ。
「みっくん!」



精一杯だった。ウチくんは相変わらず口元を長方形にして、みつあき2号のリードを持っている。「結局そっち系になるのか」「うん……」 なんだか慣れない。頭の仲で、考えるだけで、沸騰してしまいそうだ。「やっぱりウチくんがいい、みっ、うにゃ、より言いやすいです」「まあなんでもいいか」 今更だしなあ、とつぶやいて、ウチくんはみつあき2号のお尻を見つめた。そうそう、と私は頷いた。でも、みっくんっていうのも、ちょっとよかったかもなあ、と数秒遅れて後悔がやってきた。この頃、こんなんばっかだった。



結局、私は電車賃をためて、県大会にお邪魔をすることにした。伊出さんと滝田さんのダブルス組は、県大会二回戦で敗退。滝田さんは優勝。
つまりは。


彼は、インターハイへの出場を決めた。




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2013/02/16