私はなんで、ウチくんが好きなんだろう。



理由なんてないと思っていた。小さいうちくんよりも、私はもっと小さくって、いつでもウチくんと一緒にいた。ウチくんが真ん中で、私と民夫くんが端っこだ。民夫くんと私がいつも一緒にこけて、なにしてるんだ、というような顔をしても、こっちにこいと引っ張ってくれる。

私と民夫くんにとって、ウチくんはヒーローだった。いつだってかっこよかった。私達は、きっとウチくんの一番最初のファンだったんだ。民夫くんは、ウチくんの一番の友達になった。だから私は。(……私は?)

なんで、私はウチくんのことが好きだと思うんだろう。民夫くんのことは大好きだ。けれどもやっぱり、ウチくんとはどこか違う気がする。よっこいせ、と部屋の中で座って、考えてみた。コトコト、と心臓が動く音がしている。顔を伏せた。(このごろ) 違う。少し前から、ちょっとずつ、ちょっとずつ。(なにか、変かも) きゅーっとなる。(もっと一緒にいたい……) でもそう考えることは、駄目なことだ。

「うー……」

夏休みはとっくの昔に終わっていた。ウチくんは高校3年生になってしまう。そうなったら、私は中学3年生だ。(変わってく) なんでこんなに変わるんだろう。小さなころは、にこにこ笑ってウチくんの後ろを歩いているだけでよかったのに。
「あーうー……」 自分の頬を、両手をぺちっと押さえて唸った。「くるしい……」 ちょっとだけ、そんな気がした。







「顧問の先生が、ちょっと変かな」

居間に座ってずるずるとりんごジュースを飲みながら言っていたウチくんの言葉に、「え?」と思わず首をかしげた。「ウチくんの部活、変な人が多いねぇ」 この間は変な新入生がきたといっていた。ちなみに変筆頭は民夫くん決定である。「まあ」 否定をしないウチくんは素敵だ。

私はウチくんの隣に座って小さくなった。ずず、とジュースを飲み込んでみた。そしたらお行儀が悪いかもしれない、と恥ずかしくなって、慌てて正座になった。ず、ず、ず、とちょびっとずつ音を鳴らさないように、ちょびっとずつ、必死にジュースを飲み込んで、ずずず、といつもと変わらない感じにジュースを飲んでいるウチくんを見て、ちょっと赤くなった。

のそのそ、と彼の背中に近づいて、ぺたんとくっつこうと思ったけれども、いやいや、と首を振った。んー、と一人で考えて、うぐぐ、と頭を押さえた。やっぱり駄目だ。反対に距離を置いた。うー、としょんぼりひとりごとを繰り返してため息をついてしまった。「なんだよ」「んー」 自分だってよくわからない。

「民夫くん、おそいね」
「そろそろ来ると思うけどな」
「民夫くんが、ウチくんの匂いを見逃す訳がないんだよ」

ぴんぽん、とウチくんのお家のインターホンを押して、誰も反応がないとなると、血相をかかえてうちの家に来るにきまっている。(ウチくんと、一緒にいれて、うれしいなあ……)秋が通り過ぎた。冬の匂いを感じて、私もウチくんも相変わらず身長が伸びないのに、どんどん時間が過ぎていく。(ウチくんは、大学生になるのかな)きっとなるんだろう。ウチくんはお馬鹿じゃない。部活をして、終わったら部屋の明かりをともして勉強机に向かっていることを知っている。

「う、ウチくん」
「ん?」

ストローをくわえたまま、ウチくんがきょとんと視線をこっちに向けて首をかしげた。私は両手に冷えたジュースを持ったまま、ぱくぱく、と口を動かした。「……民夫くん、おそいねぇ」「そうだな」 生返事みたいな台詞だった。やっぱり聞けなかった。もしウチくんが遠くに行ってしまったら、自分はどうしたらいいんだろう。
(ウチくん、すきですけっこんしてください)

少し前のバレンタインに、自分がそんなことを言っていたのだと思いだして、真っ赤になるかと思った。(そんなこと言えるわけない)ウチくんのお嫁さんになったら、ずっと一緒にいることができる。でもきっと無理だ。(ウチくんは、別に私のこと好きじゃないんだ) あ、と気づいた。ものすごく当たり前のことだった。

ずっとずっと、幼馴染として一緒にいた。なんでか私はウチくんが好きだった。でもきっと、ウチくんは違う(基本的に十分ジャマ)ずっと前に、ウチくんがそう言った。でも、そんな意味じゃない。そうわかってるけれども、勝手に言葉を悪く捉えようと必死になる自分がイヤだった。(ウチくんは、私のことを、彼女にしたいなんて思ってない)気づいたら簡単だった。これはただの片思いだ。一方的にウチくんに尻尾を振って、ウチくん、ウチくん、とくっついていた。(わたし)お馬鹿だなあ、と思った。

こっちに背中をむけたウチくんが、すぐ近くで座っている。ずずず、とストローをすすった。今度は必死に大きな音を立てるみたいに吸い込んだ。ずるずる、と鼻をすすっている。そんな音をごまかすみたいに、必死にすすった。「なあ」「こっちをみないー!」「はあ!?」 ぐるり、と振り向こうとしたウチくんにアタックして、必死に背中を向け続けた。意味がわかんないんだけど、ぼやくウチくんに、わかんなくってもいいです、と今度はバシバシ背中を叩いた。

(ウチくんは、私のことを好きじゃない)
もう一回、自分の中で、同じ事を考えた。それから必死で涙を拭った。「あ! ウチくんインターホン! インターホンがなったよ! きっと民夫くんだよ! ほら行くよ、ほらほら!」「だからお前、なんなんだよ」


ずっとウチくんのことが好きだった。好きだと言い続けていたら、いつかウチくんがこっちを見てくれるような気がしていた。そう思い込んでいた。
子どもだったのだ。私はずっと子どもだったのだ。


     次の年のバレンタインは、私は初めてウチくんに、チョコを上げることができなかった。






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2013/04/20