結局、後悔している自分がいる。はあ、と溜息をついて、廊下の窓枠に顎をのせて、ちらりと教室の黒板を振り返った。2月16日。数日前に過ぎてしまった。「はー……」 ちゃんと用意していた。けれどもやぱり駄目だった。インターホンの前に立って、指を揺らして、そのまま一人で小さくなった。

ウチくんに渡せなかったのなら、ウチくんのお母さんにも、お父さんにも、みつあき二号にも、民夫くんにだって渡せなくって、部屋の机の上には、ラッピングされた包み達がしょんぼりと寄り添い合っている。うぐ、と情けなくなった。(ウチくん、変なふうに思ってるかな) 毎年あげていたのに、なんで今年はないんだろう。そう思っているかもしれない。でもそれは、ただの私の勝手な希望だ。きっとウチくんはなんにも不思議に思っていない。

(後ろ向きすぎる)
とにかく、良くない傾向だなあ、と思った。はー、と溜息をついていたとき、「?」 声をかけられた。「尚田くん」 同じクラスではないから、少し久しぶりかもしれない。特に仲がいいというわけではないけれども、通り過ぎればお互い挨拶をする程度だ。「なんだよ、重っ苦しいなあ」 尚田くんは大きめな瞳をきゅっと細めて口元をへの字にした。私はおんなじような顔をして、窓枠に両手をついて、ぐいっと伸ばした。ぱたぱた、と枝に止まったっていた鳥が飛び上がる音がする。「失恋しました」「うえっ!」

ぎょえ、と尚田くんは両手を開いて後ずさった。「と、いうのは言い過ぎです」「なんだよ、びびったじゃん」 申し訳ない、と私はまたへたれた声を出して小さくなった。「……まじで?」「違う……と、おもう……」 っていうか違う。

尚田くんは、ぼんやりと私の後ろに立っていた。それからそわそわと何度か足踏みを繰り返して、ぽん、と私の肩を叩いた。「もうちょっとで3年だ」 クラス替え、どうなんのかな、と全然関係のないことを尚田くんは言った。どうなるのかなあ、と私は顔を伏せたまま呟いた。来年のバレンタインは、渡すことができるだろうか。





   ***



「民夫、でかい、じゃま」
「そんなウチきゅん!」

これでも精一杯縮めてるんだよお! とすんすん鼻を鳴らす幼馴染をとりあえず睨んでおいた。手の中に弁当を持って、もう片方の手で箸を動かす。ジャマだ。「お前、ひげそらないのか?」「エッ!」 でかくてジャマで、ついでに暑苦しいな、と思ったらそんな言葉を落としていた。「それだけは! ウチきゅんの頼みでも! それだけは!」 無視することにした。

いやでもうんうん、と何かを考えているみたいにぺとぺとと自分の顎を触っている。まあいいか、と口の中に卵焼きを入れた。その前に、とハンバーグも口にする。さすがに滅多なことでは二年のクラスまではやってこないが、元気な後輩がやって来れば自分も自分もと口を広げて待たれそうだ。ちらり、と黒板の文字を見つめた。2月の真ん中を過ぎて、次はもう3月だ。「民夫、3月って部活、どうだったっけ」 なんとなく確認した。「うん?」 よくわからない、というような顔をするものだから、「だから」と言葉を続けようとした。

それから「いや」と一人で眉をひそめた。「なんでもない」 来月の14日。その予定を聞こうとしていた。なんとなく気恥ずかしくなって、もぐもぐと必死に弁当をつめた。それからごちそうさま、という意味で、パンッと両手を合わせた。民夫がぼんやりとこっちを見ている。「あー」 それからなるほど、と頷いていた。「、今年はくれなかったねえ」 首の後ろをかいた。

「別に、癖だろ。なんとなく、いつもそうじゃん」 だから今日も確認した。そう言う意味で言うと、「そうかもねー」とのっそりとした返事だ。「だからさ」「うん?」 きょとんとした顔を見ていると、こっちが何を言おうとしていたのかわからなくなる。「別に」 3月だ。3月の14日。練習はなかったきがする。そんなふうにいつもどおり意識を向けて、口元をつきだした。

、今年はくれなくて残念だったねえ」
それからまた民夫は同じことを言っていた。俺は首元をひっかいた。椅子にもたれて、親指を動かす。教室の中で、クラスメートの声が、波のように揺れていた。


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2013/04/28