ちょっと頼まれてくれないか」


第4話   あまりにもバカバカしい終わり方




随分先輩が真面目顔で、私の両肩へと手を置いてきたものだから、私といったら「うえっ」と素っ頓狂な声を上げた後に、じりじりと先輩から逃れようと、一歩、また一歩と下がっていったっていうのに、先輩も合わせるように移動するものだから、さながらどこかの社交ダンスのように見えたかもしれない(ご勘弁願いたいけど!)

授業も終わったさぁ帰ろう、とした帰り支度に、突如にゅっと現れた先輩に引っ張られて、「ちょ、ちょっと何なんですか!」「だからさっ、座談会に出席してくれよ!」「何ですかそれー!」


ぶんっ、と引っ張られる。東仙先生の黒光りする車へと、ドンドン、と背中を押された。
そんな面倒くさいこと勘弁してください! と声を上げようとしたとき、先輩はこっそり私の耳元で、声を呟いた。

「ほらバイトのこと、先生にばらされたくないだろ?」

もう辞めたっていうのに! と叫びたかったけれども、どっちにしろ心証は悪くなるに決まっているし、いわれるだけ損だ。思わずぐっ、と口ごもってしまうと、先輩はまたにやっ、と意地の悪い笑みを見せて、「悪ぃなぁ、一般生徒の意見もいるってんで、誰にするか迷ってたんだ」


そんな捨てぜりふもどきとともに、おりゃっと背中から押されて、先輩と一緒に、東仙先生のお車の中へと、入ってしまう事になったのだった。「さん悪いね」と呟く先生の声に、「あ、いえいえ、お気になさらず」と思わず返してしまった自分が情けなくて、たまらない。





見覚えのある景色と、ついこの間通った坂道を、先生の車はぶんぶんと上がっていく。自転車ではあれだけかかった坂道も、ちょこんと見えた校舎が、どんどん大きくなっていった。
「先輩、後で覚えといてくださいね」「うわ恐いな」

降ろされた先生の車と、じゃあこっちだから、と駐車場へと向かう先生を見詰めて、はあ、と大きなため息を、一つ。

    こうなったら、腹をくくるしかない。
お腹へと力をいれて、ぐ、と拳を握っている隣で、先輩が腕時計を見た後、ぼそりと呟いた。「あ、遅刻だこれ」 え、なんですかそれ。


「檜佐木遅い!」



丁度、そんなタイミングに、男の人の怒声が、聞こえた。びびび、と耳の奥に響く声と言葉が、どこか聞き覚えがある。そうだ、乱菊姉さんのケータイごしに、毎回怒ったように(ううん、多分本当に怒っていたんだと思う)怒鳴り声を上げていた人と同じ声だ。「日番谷会長すいません」 どこかへらりとした態度で頭を下げる先輩に、「ちょ、ちょっと先輩ー!」 びしびしびし。あの人恐いんですから、といいながら、ちらりと、その人を、見た。


銀色に光る髪の色に、緑とも青とも言い難い瞳の色。きっちりと制服を着こなして、眉毛と眉毛の間に、皺を寄せたあの人は、しっかりと記憶に焼き付いている。
本当に、泣いてしまいそうになった。なんでこんな。

(しろちゃん)

すった息が、胸の奥で、上手く通らない。先輩の制服の袖を、ぎゅ、と握って、そのままずんずんと近づいてくる彼を、また見た。間違いだったらいい。間違いじゃなかったいい。ぐるぐると、またどこか矛盾する気持ちが、ぐるぐると。会いたい。会いたくない。会えない。会いたい、会いたかった!

ぱっ、と、彼と目が合った。気のせいか、唯でさえ大きな瞳を、その人はまた大きくさせたような気がする。気がするだけだけれど。彼は先輩を怒鳴り上げたままの口を、ぱっくりと開けて、私を見た。気がする。妙に長い間に、先輩が、声を上げた「どうしたんだ」


どうしたも、こうしたも、ない。(全部全部、先輩の所為なんだ)ゆるみそうになる涙腺を、必死に抑えて、初めまして、といおうと、頑張って、口を開けて、


「は」と形作った口のまま、何故だか声が出なかった。多分、いいたくなかった。全部知らないふりをして、初めましてだなんて、いいたくなかった。
「どうしたんだよ」と先輩が、私の肩をせっつく。


不意に、声が聞こえた気がした。『難しくて、俺にはわかんネ』
     そうだ、きっと、先輩が、一番正しかったんだ。
自分が分からなくて、気持ちが分からなくて、それで、相手が分からなくて。分からない事を考えても、きっと、ずっとずっと、分からなかったんだ。


「あの」 シロちゃんではなくて、日番谷会長が、声を上げた。(知らないふりなんて、したくない)例え彼が知らなくても、知らないふりなんて、したくない。

息を、吸い込んだ。



「お久し、ぶりです」


呟いた声はか細かったけれども、しっかりと日番谷会長には伝わったらしい。また、大きく目を見開いた。伝わっただろうか。それとも、一体どういう事だと思われているだろうか。ドクン、ドクン、と心臓が音をなる。大きく大きく、音を鳴らした。「覚えてます、か、その」
      分からなければ、訊けばいい。


「元気そうで、なによりです」


彼の声が、聞こえた。思わず、どんどんと下へと下がっていた視線を、ぱっと上へ上げると、眉間に力を入れたままだったけれども、確かに、確かに、彼の口から、そう聞こえた。
隣で先輩が、ほんの少し、妙な顔しているのを、見た気がした。




1000のお題 【457 よりを戻す】




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2008.05.12